次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る


 うまい具合に男女に分かれた競泳大会のグループ。
 これで3チームともやすやすと負けるわけにはいかなくなったようだ。
 そして何より……春香には気をつけたほうがいいらしい。

第101話 自由形・対抗リレー <<雄二>>


 春香の満面の笑みを見て俺はただの競泳で終わらないことを悟った。
 あの表情はいたずらを思いついたツラだ。
 その、ものすごくいい顔をしている春香を見ると気が滅入る。
「じゃあ、1コースあたしチーム。2コース雄二チーム。3コース田村チームね」
 このレース。真ん中は非常に不利なのでは?
 妨害が両方からやってくる2コース目は最悪の位置だ。
「異議あり!! コース替えを希望する!!」
「じゃあ、あたし2コース、あんた等1コースね」
 あっさりと引き下がる。何かがおかしい……。

「斉藤さん」
「…………」
 おい、有香。この大一番のときに貴様はどこ見てんだ?
「斉藤さん!」
「……は、はい」
「どっちが最初に泳ぐ?」
 春香と泳ぐのは避けたいが、その役目を有香にするのも躊躇われる。
 と、いう理由から本人に決めてもらうことにした。
「わ、私はどっちでもいいよ」
 その回答が一番困るというのを知っていて言っているのだろうか。

「じゃあ俺先な。アンカーよろしく」
「うん」
 智樹と結城は体育会系ではないので運動は苦手だ。
 春香と田村はハンデを背負っているということになる。
 俺達にとって有利な戦いだ。

「じゃあ、自由形対抗リレー始めるぞ!!」
 健吾がスタート位置につくように言ってきた。
 これはただの自由形じゃない。いうなれば真・自由形だ。
 本当に何もかもが自由。

 第一泳者は俺、田村。そして……春香だ。
 俺と田村はプールに入り春香は飛び込み台に立つ。
 素人が飛び込み台に立つのは危険だ。腹を強打する恐れがある。
 春香も水泳の経験はなかったはずだが……。

 まぁいい。せいぜい自爆をしているがいい……。

「よ〜い!!」
 スタート直後、両足で壁を蹴り、あとは息継ぎなしでクロール…… 
 イメージトレーニングを済ませスタートの合図を待つ。

パァン!!
 
 健吾が思い切り手を叩き、それがスタートの合図となった。
 まず、壁を蹴る!!
 その反動に乗って一気にクロール!!

「危ない!!」
 水面近くだったため有香の叫び声が聞こえた。
 は?

 背中に衝撃が走った。
「ゴボッ」
 肺にためられた空気を一気に吐き出す。
 な、なにが起きた? この、ダメージは?
 
 俺は一旦立ち上がり、空気を貪った。
「ゴホッ、ゴホッ!!」
「大丈夫!?」
 背中の衝撃の正体は俺の前方数mを泳ぐ怪獣だったようだ。
 と、とび蹴り?

 そうかい、そこまでやるか……。
「ぶっ殺す!!」
 全力で春香を追いかける。息継ぎなしのクロール。
 やがて25mのターンを終えて春香が戻ってくる。
 ここで殺す!!

「はっ!!」 
 瞬時に立ち上がり春香の背中に肘を決めて泳ぎ去る。
 そして第2コースへ移動。25mのターンをして奴の背後を取る。

 まだ勝負は始まったばかりだ。春香の足をつかみ、引っ張る。
 そのまま背後を捉えバックドロップ。沈んだ隙に1コースに逃げる。

 だが、その足をつかまれて引き戻される。
 腕の関節を極められた状態での裏投げをくらった。
 しかし、春香の攻撃はここでは終わらなかった。
 浮いてきたところを延髄に肘を決めて逃げていった。

 数秒ほど意識がとび、頭がふらふらして泳げる状態じゃない。
 このレースにとって致命的な状態にしていきやがった。
 だが残り10m弱。これくらいならいける。
 ゆっくりとだが着実に泳いだ。

 しかし、残り3mのところで再び春香が邪魔に入る。
「卑怯だぞ!!」
 春香は智樹と代わった後、俺の邪魔に入ったのだ。
「有香っ!!」
 手を思いっきり伸ばしタッチを試みる。
「無駄無駄ぁ!!」
 両腕をホールドされてバックドロップをくらう。
 マジでヤバイぞ……。

「風華!!」
 水中で叫ぶ。
 両腕を腹で隠し風華が春香に見えないようにする。
 あとは一歩でも足をつけば……。
『こんなくだらない競争にあたしを呼ばないでよ……』
(非常事態なんだよ!!)

 そして足がついた。
 <疾風>の力でスタート地点の有香まで一気に距離を縮める。
「消えろ、風華。有香、頼んだ!!」
 小声で風華を消し、有香にタッチする。
 俺の仕事はまだある。有香が春香の邪魔にあわないように春香を止めることだ。
「させるかっ!!」
 春香にボディプレス気味にタックルをかます。
 がむしゃらに春香を抑えて水中に沈める。
「行けぇ!!」

 有香が春香の攻撃圏内から離れたことを確認したあと春香を解放する。
「ふぅ……」
「…………」
「春香、お前ムチャクチャだぞ」
「……分かったから、離してくんない?」
 
 体勢確認……。
 春香を両腕でしっかりとホールドしていた。
 分かりやすく言うと…………正面から抱きしめていた。

「す、すまん!!」
 あわてて離すが遅かった。むしろ離さない方がよかった。
「……死ぬヨロシ………」
 足を踏まれ固定された後、超至近距離から上半身を滅多打ちにされた。


 俺がKOされた頃にレースは終わっていて……俺のチームは負けていた。

次の話に進む→

←前の話に戻る

トップページに戻る

小説のページに戻る

inserted by FC2 system