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 迂闊だった。完全に気が緩んでいた。
 あのときの行動を考えれば奴らが報復に出るのは当たり前だ。
 俺はそれを想定し、非戦闘員である結城の行動に目を光らせておくべきだったんだ。

第99話 余計なお世話 <<雄二>>


 俺は結城に謝らなければならない。
 結城がさらわれた原因は俺だけではないが、俺にもある。
 確か結城のペアは智樹だったか……

 
 翌朝、俺は春香を起こさないように部屋を出て智樹に電話をかけた。

トゥルルルルル
 トゥルルルルル

「おはよう。雄二」
「おはようさん。結城は起きてるか?」
「起きてるよ。代わろうか?」
「いや、今からそっちに行く」
「了解」
 二人とも起きてるなら都合がいい。直接会って話ができる。

コンコン
 ガチャ

 ノックの後、間もなくドアが開く。
「どうしたの?」
「智樹、悪いけど外してくれるか?」
「………OK」
 しばらく考えた後、智樹が出ていった。それと入れ替わりで俺が入る。
 ドアはオートロックなので閉まると同時に鍵がかかる。

「おはよ。藤木君」
「おはようさん」
 結城はソファーに座ってテレビを見ていた。
「……昨日のこと?」
「ああ……」
 なんと言い出したらいいものか……。

「昨日は悪かった」
「え?」
 素直に謝ったのだが結城は不思議そうな顔をする。
「いや、だから……ごめん」
「藤木君。アンタ、私になんかしたの?」
 しただろうが、コイツには記憶力というものがないのか?

「アンタなに謝ってんの?」
「俺のせいでもあるだろ……だから」
「あのこと? 何もなかったじゃない」
 そういう問題じゃない。
「あん時からお前を注意して見ておくべきだった……」
 そうすりゃあんなことは起きなかったはずだ。

「アンタ、バカね……ストーキングでもするつもり?」
「そんなんじゃねぇけど……」
「謝られる筋合いはないわ。正直、困るのよ。そういうことされると」
「…………」
 結城は俺を睨みながら言った。俺は何も言えなくなってしまった。

「私は藤木君を責めるつもりはないわ。お礼を言うことはあってもね」
「だけど……」
「これ以上言わせるつもり?」
「な、何をだよ」
 何を俺に言うんだよ。結城の言わんとしていることがさっぱり分からない。

「はぁ……本っ当にバカなのね」
「う、うるせぇよ」
 呆れられる筋合いねぇぞ。
「アンタが全員の厄介事を背負い込む必要なんてないのよ」
「な!?」
「藤木君。アンタ何しにここに来たの? みんなの安全の為?」
「違うに決まってんだろ」
「そういうの、重いのよ。私達にとっては……」
 重い……?

「アンタの行動を制限してるのは私達ってことにならない?」
「そんなつもりは……」
「藤木君がどう思おうと、私達はそう感じるかもしれないでしょう?」
 俺はただみんなに旅行を楽しんでもらいたかっただけだ。
 それが重荷になっているのか?

「少なくとも私はそう感じてる。嫌なのよ、全員が楽しまなきゃ……」
 俺だって楽しんでる。十分に楽しんでるはずだ。
「まず、アンタが楽しんで。そのついでに守ってくれればいいの」
「楽しんでるぞ。俺」
「それならいいけどね。私達にトラブルがあったからって謝りに来たりしないで……迷惑よ」
 迷…惑。
 俺、迷惑かけたのか?
 智樹もそんなことを思っていたのか?
 もしかしたら……有香もリオラートではそう感じていたのか?

「…………」
「ごめんね。酷いこと言ったわ。でもね、藤木君の行動は下手をすれば余計なお世話になるわよ」
「……ああ、そうだな」
「なら、この話はやめましょ。楽しんでね、藤木君」
「お、おう」
 結城は今まで俺にあまり干渉してこなかった。
 浅い友情だった。いや、友情だったのかどうかも分からない。
 しかし、今回、結城は深く踏み込んできたような気がする。

「谷口君、呼んであげれば? 追い出しちゃって可哀想よ?」
「あ、ああ、そうだった」

トゥルルルルル
 トゥルルルルル

「あ、俺だけど。話し終わったから、もういいぞ」
「じゃあ、今度は僕の話に付き合ってもらうよ。ゲーセンまで来てくれる?」
「……OK。すぐ行く」
 そう言って電話を切った。
「谷口君は、何かあったってこと気付いてるんでしょうね」
「みたいだな」
 これから智樹に何を聞かれるやら……。
「じゃ、俺行くわ」
「朝食、どうするか春香に聞いといてね」
「了解」
 結城の頼みを了承し、部屋を出る。
 さぁ、次はゲーセンか……。

 
 智樹はレースゲームの座席に寄りかかって俺を待っていた。
「まずは1レースやろっか」
「お、おお」
「あの時の決着もついてないしね……」
 あの時というのは恐らく智樹をリオラートに巻き込んだあの日のことだろう。
 俺が座席に座ると、智樹が200円を投入した。
「奢るよ」
「サンキュ」
 
 車を選んで無言でエントリー時間を待つ。
 その時間、誰からも乱入されることはなくスムーズにスタートした。
 3、2、1、GO!!
 十数台の車が一斉に走り出す。

「昨日、井上さんと結城さんがナンパと称したカツアゲをしたんだ」
 運転しながら智樹が話し出す。
「男性は4人、地元の大学生でサークルの旅行だったらしいよ」
「へぇ……」
 智樹はすべてを知っていて話しているのだろう。

「その4人は撃退されたんだけど、報復として結城さんを拉致した……」
 話している間も運転にまったく支障はなく1位、2位を争っていた。
「その後、2人の学生によってそのサークルの全員が屋上で倒された。結城さんは無傷だった」
「調べたんだな……」
「昨日の結城さんの様子がおかしいと思ってね」
 結城と同室だった智樹には感づかれても仕方ないだろう。
 ただ、智樹だったのが悪かった。田村や千夏だったら気付きもしなかったかもしれない。
 鋭い智樹だから、情報収集の術を持っている智樹だからこそバレた。

「雄二」
「ん?」
「あまり無理はするもんじゃないよ?」
「ああ、結城にもたっぷり絞られたよ」
 智樹も同じことを感じたんだろうな……。
「なら、いいけどね」
 そう言って、智樹はレースに集中する。

 智樹は恐らくもっと言いたいことがあったんだろうな……。
 それをたった一言で済ませてくれた。
「智樹」
「何?」
「お前、やっぱいい奴だわ」
「……どういたしまして」
 レースはまったく集中できなかった俺が負けた。

 こんなハンデなしだろ……。 



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