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 さやかが拉致られてすぐにあたし達は行動を開始した。
 まぁ、行動と言っても着の身着のまま部屋を出ることくらいだけどね。
 準備なんて要らない。あたし達はいつでも闘える。それが井上流だ……。

第98話 ROOM810 後編 <<春香>>


「おお、いるいる」
「軽く20人くらいか?」
 屋上にのぼる前に一つ下の階から様子を見る。
「さやかを確保しないと難しいねぇ」
「その点は俺に任せろ」
 やけに自信満々だった。
「いけんの?」
「余裕で。……裏技だけどな」
 裏技?

あたし達は屋上に上がった。
 出入り口は二つ。左右にあった。
「春香は右から一人で出てくれ」
「雄二は?」
「結城を助ける。注目集めといてくれ」
「OK」
 雄二に任せた。あたしはあたしの仕事をするだけだ。


 あたしはゆっくりと右側の出入り口から出て行く。
「来た来た」
「ヒュー。こっちもまぁまぁじゃねぇか」
 五月蝿い。
 野次の中ゆっくりと歩く。
「一人だな?」
「見れば分かるでしょ?」
「言いたいことは分かるよな?」
「さやかを離しな」
 さやかはただ最後尾に座らされているだけで縛られてもいなかった。

「なかなかやるようじゃねぇか」
「……どうも」
 雄二、早く助けろ。我慢ができなくなってきた……。
「手は出すなよ?」
「分かったわ。手は出さない」
 私はね……。

 雄二は既にさやかの背後にいた。
 へぇ、また速くなったみたいね。
 しばらく雄二の戦闘を見ていなかったせいかスピードが上がっていたように見えた。
 気配もうまく消している。
 スピードでは負けているかもしれない。

「さぁ、始めようか!!」
「ぐあっ!!」
 雄二が背後からリーダーを全力で殴る。

「「 It's Show time!! 」」

 ショーが始まった。
 あたしの周囲にいる三人が呆気にとられているうちに踵を当てて三人とも眠らせる。
 雄二もさやかを守りながら既に三人目に取り掛かっている。
「雄二!! さやか!! こっちまで来な!!」
 周囲があたし達の攻撃に気づき戦闘準備に入る。
(遅い!!)
 一人の顎にアッパーを決めて、その隣の奴に裏拳を当てる。
 手加減なしで、全力で……。しばらく起きれないように脳震盪を起こさせる。
 雄二は雄二で蹴散らしながらまっすぐこっちに向かってくる。
 そして合流。
「さやか!! 部屋に戻って寝てな!!」
「でも、春香……」
「いいから早くここから逃げろ!!」
 雄二と同意見だ。足手まといは必要ない。要るのは猛者のみ。

「さぁ、どんどんいってみよ〜」
「そうだな!!」
 雄二と背中合わせに構える。
 背後を取られないための基本だ。
「ていっ」
 相手の喉と鳩尾をすばやく連打する。
 両方とも当然、急所だ。
「おいおい、双牙<そうが>かよ」
「手加減する気ないし、どうせ練習台だし」
 こんな奴らを人間扱いする気はない。
「ま、そうだけどな」
 そう言いつつ雄二も技を繰り出す。
 裏拳のあと、掌底フックを決める。虎撃<こげき>と名付けた技だ。
 どちらも井上流格闘術。つまり、あたしが編み出した技である。

「雄二!!」
「おう」
 雄二がしゃがんだところをソバットで雄二側の敵を蹴飛ばす。
 雄二はソバットをかわし、あたし側の敵を沈める。
 久々にコンビを組むが身体が忘れていなかった。

「おい……」
「そうねぇ」
 雄二も多分同じ意見を言いたいのだろう。

「「 弱すぎるぞ!! 」」

 弱い、弱すぎる。一撃でKOの奴もいる。
 一方、あたし達。無傷、パンチ一発かすっちゃいない。
「立てよ!! 殺り甲斐ねぇんだよ!!」
 と、言いつつ、また一人KO。
「本当にねぇ」
 一部の奴らの実力を知っていたのでこんなもんだとは分かっていた。
 残りは5人になっていた。
 あたし達の周囲を囲んでなかなか襲ってこない。
「帰るか……」
「そうね」
 目標達成したし、これ以上やっても技が鈍るだけだ。
 出入り口に向かって歩き出す。

「あ、そうそう」
 言い忘れていたことがあった。
「あんた等、明日チェックアウトね?」
「お、俺に言われても……」
 ちっ、雑魚に言っても仕方ないね。

「おい、起きろ」
 雄二は男共のリーダーをガクガクと乱暴にゆすっていた。
「………ぅ…」
 無理もない。何回殴ったか分からんからな……。
 起きるたびに瞬殺。
 井上流の指針でリーダーは真っ先に殺ることになっている。
「起きろっつってんだろ!!」
「……ぉぅ」
「ぉぅ、じゃねぇんだよ」
「起…きた……」
「お前ら明日チェックアウトしろ」
「分かっ……た」
「じゃあもう寝ろ」
 顔面に一発。
「もう終わったのに、いいのか?」
 もう負けを認めた者をさらに殴るのは雄二の方針に反する……はずだ。

「今の俺はガンジーでも笑顔で殺せそうなんだよ」
 雄二……あんた本気でキレてたんだね……。
 口調がふざけているのはあたしがいるからか?
「雄二」
「ん?」
 コイツには言ってやらなくては……。

「あたしにまで気を遣うな!!」
「…………」
「あたしは何だ?」
「春香?」
「言え。あたしは雄二の何だ?」
 あたしはお前にとって気を遣うような相手なのか?

「……幼馴染だ」
「その幼馴染はね、気を遣ってることくらい簡単に分かんのよ」
「遣ってねぇよ」
 嘘も分かるのよ。雄二……。
「あたしがいるからって、わざとふざけたりするな!!」
「…………」
「怒りたかったら素直に怒れ」


「……そうだよ!! マジギレだよ!!」
「それを最初からやれ!!」
 軽くローキックで蹴ってやった。

「いってぇんだよバカ春香!!」
「黙れ!! バカ雄二!!」
 久々だった。雄二があたしと対等に張り合うとき。
 

忘れるな。アンタはあたしの幼馴染と同時に……相棒だ。


 そこらじゅうに倒れる男共を無視してあたしは雄二と殴りあった。
 大喧嘩が終わった後、部屋に戻ったあたし達は崩れるように一緒に眠った。



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