雄二と有香が一緒になったら面白かった。 雄二とさやかが一緒になっても面白かった。 それなのに、何故こうなった? 何故、何故こうなってしまったんだ? あたしが何故エースを引いてしまったんだろう。 しかも相手が雄二とはこれ如何に……。 「何故こうなってしまったんだ……」 「自業自得だ。バカが」 どう見てもベッドは大きいのが一つしかない。 「つまんないではないか」 「策に溺れたな」 部屋が一部屋ダブルになったのは面白くてよかったが、あたしが泊まるとなると話は別だ。 「…………」 「…………」 あたし達二人は無言で大きなベッドを見る。 「何でエースを引くのだバカ雄二!!」 「お前もな!!」 ああ、あたしは大バカなのだ……。 ここはあたしが泊まるべき場所ではないではないか。 「俺、風呂入ってくる」 「ユニットバス?」 「そうだよ。痣がまだ消えないからな!!」 あたしを睨んで言い放つ。 まだ消えんのか……。だが、あれは制裁だ。同情の余地はない。 「レディーファーストという言葉を知らんのか?」 「先に入るのか?」 「……あとでいい」 「あっそ」 雄二がバスルームに消える。 ベッドを見る。禍々しい物に見えて仕方ない。 仕方なくソファーに座り、テレビを見ることにした。 ― なんでやねん!! ― いきなりツッコミが入っていた。 (あたしがこの境遇にツッコミたいわ!!) 怒りを覚えてテレビを消した。 あたしは何をすることもできなくてただ雄二が風呂から出てくるのを待つしかなかった。 「春香。風呂開いたぞ」 「うぃ」 入ってから15分で雄二は出てきた。 あたしも着替えを持ってバスルームに入る。 (これではあたし達がこれから何かするようではないか……) シャワーを浴びながら、どんどんテンションが下がるのが分かった。 いや、部屋割りが決まった時点で既にテンションは0だった。 つまり、今、あたしのテンションはマイナスになっている。 入浴をシャワーだけで済ませバスルームを出た。 「寝るぞ。もう今日を終わらせたい」 その意見には激しく同感だが……。 「…………」 ベッドで横になる雄二を見て、その隣で眠る気にはなれなかった。 「あのなぁ、そんなに気にすんなよ。お前が気にしたら俺まで恥ずかしくなるだろ!!」 「そりゃそうだけど……」 いや、これは抵抗があるでしょ? 「何もしねぇよ。ただ一緒に寝るだけだ。ガキの頃みたいにな」 そういえばそうだ。子供の頃、あたしはよく雄二と一緒に昼寝をしていた。 「ん……」 渋々ベッドに入る。 「…………」 「…………」 「…………」 「…………」 無言の時間が続く。 あたしは決して雄二を見ないし、雄二も決してあたしのほうを見なかった。 (こんな環境で眠れるかっ!!) あたしは大声で叫びたかった。 だが、この条件があたしが作った物だ。 ― ダブルになったペアは必ず同じベッドで寝るように ― 言わなきゃよかった……。 「なんか思い出すよな」 「は?」 「ガキの頃だよ」 雄二は子供の頃を思い出していたらしい。 「……そうだな」 あたしがまだ子供だった頃。 雄二といつも一緒に遊んでいた頃……。 「俺、あんときサッカーやりたかったんだけどな」 「……悪かったわね」 他の子供達がサッカーをやっていた頃、あたし達はピンポンダッシュをしていた。 「お前はいつも俺を巻き込んでたよな」 「…………」 何が言いたいんだ。あたしに文句が言いたいのか? 「春香」 「ん?」 「目標は達成できそうか?」 あたしの人生の目標。別名、野望。 「……まぁね」 正直分からん。達成できるのか、既に達成できているのか。それとも…… 「せいぜい頑張りな。俺は付き合ってやるよ」 「ふん」 言われんでも付き合わせるわい。 ドンドンドンッ!!! 「やけにうるせぇノックだな」 しんみりとした空気は一気に吹き飛んでしまった。 「はいはいな〜」 あたしはドアまで行き、開けてやった。 「井上!!」 「な、なんだ田村?」 あまりにも凄い剣幕にあたしは少し引いてしまった。 「金貸してくれ!!!」 土下座っていた。最初から既にプライドを捨てていた漢(おとこ)……田村直人。 「最初からそのつもりだ。明日の宿泊費は貸してやる」 「おお、助かる!!」 「10日間だけな」 「は?」 輝いた表情が一瞬で曇った。 「10日間だけ無利子で貸してやる。そのあとは5日で一割な」 「トイチよりひでぇ!!」 「なぁに、10日で返せばいいのだよ。そうだろ? 田村伍長」 あたしは少々イラついていた。 幼馴染でも雄二とあんな話をする機会は全然ないのだ。 それを貴様は邪魔をした。 「とりあえず2万貸してやる。ほれ、判を押せ」 「お、お前が俺をはめたんじゃねぇか!!」 「借りるのか、借りんのか、さっさと決めろ」 「鬼……」 渋々名前を書き、判を押す。 あたしは田村の手に2万を握らせた。 「大事に使えよ」 「オニィィィィィィーーーーーーッ!!!!」 泣きながら走っていった。 「お前、酷すぎるんでないかい?」 雄二があたしを冷たい目で見ていた。 「冗談よ」 借用書は無期限、無利子、無担保になっている。 「それなら……いっか」 「ほれ、寝るぞ」 「うむ」 もう不思議と抵抗はない。 気にしていたのがバカバカしく思えるほどに……。 「雄二、もっと真ん中に寄っていいんだぞ?」 端の方で眠ろうとする雄二に言ってやった。 「ん、いいのか?」 「変なことする気ないならいい」 「んな気あるか!!」 腕が触れるか触れないか位の距離で眠ることにした。 やっぱり雄二は雄二だな。 こんなに近くにいても嫌な気はしなかった。 雄二も同じなんだろうな。最初からそうだったんだろうな。 あたしは雄二を信じ切れていなかったのだろうか。 「春香、気にすんな」 「ん……」 なぜか感情がばれた。それでも嫌な気はまったくしない。 こういうもんなんだな……あたしにとって雄二は。 ダダダダダダッ うわぁ〜 「あ、メールだ」 またしても、しんみりした空気が霧散した。 「お前なぁ、その悪趣味な着信音どうにかしろ」 そんなもんあたしの勝手だ。 メールを見た。 ― 屋上に来い。お友達が待っているぞ ― 発信者はさやか。どうやら捕まってしまったようだ。 よく見ると着信履歴にもさやかの名前がある。アイツの着信は音なしにしたからな…… 「どうした?」 「さやかが……拉致られた」 「昼間の連中か?」 「かな……」 不思議と自然に会話ができる。 だけど…… 「どうやら、あたし達は舐められたみたいだねぇ……」 「そのようだな」 (( ぶっ潰す!!!! )) 雄二と思考が重なった気がした。 雄二もそう思ってあたしを見ていることだろう。 「そうと決まれば全員に集合かけますか……」 「待て、俺達だけで片付けるぞ」 「なして?」 「みんなは旅行を楽しんでる。それを邪魔するのはちょっとな……」 ふん、嘘つき。 何年アンタと一緒にいると思ってんのよ。 周囲に迷惑かけたくないだけの癖に……。 他の人に迷惑かけるくらいなら独力でなんとかしようとする。そういう奴だ。 「ったく、アンタのやり方は本っ当に面倒くさいねぇ……」 「……うるせぇよ」 見合ってニヤリと笑う。 「行くか……」 「はいな!!」 (だけどな……嫌いじゃないぞ。雄二のそういうところは……) あたしは雄二の拳と拳をコンッとぶつけて部屋を出た。 それは出陣の合図であると同時に殺るぞ、という合図だった。 |