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 私と相部屋になったのは谷口智樹だった。
 B組の諜報部長の名を真っ先に受け取った男だ。
 私もどれほどの情報を握られているやら……。

第96話 ROOM809 <<さやか>>


 よくよく考えると谷口はそれなりにOKの部類に入るのではないか?
 武闘派ではないので襲ってくる心配もないし、彼には悪いがそんな度胸もない。
 少なくとも田村や高槻と当たるよりはマシだといえるだろう。
「あの、一晩よろしく」
「ん、よろしくね」
 見よ。この真っ赤な顔をウブったらありゃしない。

「襲ったりしないよね?」
「そんなことしないよ!!」
 全力で否定しちゃって……かわいいもんだ。
 私はもっとからかってあげたくなった。

「私、お風呂入ってくるから……」
「う、うん。ごゆっくり」
 目をそらし、そっぽ向いて答える。
 ふっ、所詮、情報屋といってもお子様ねぇ。
 私は着替えの準備をしてユニットバスに入った。

ジャーーーッ

 シャワーを浴びながら思う。
 今頃谷口君……妄想でもしてるのかなぁ……。
 そう考えると顔が自然に笑顔になってしまう。
「僕、ちょっと出かけてくるから!!」
 ドアの向こう側から叫ぶように言って出て行ってしまった。
「ふふ、耐えられなくなったのね……」
 
 さて、お風呂から上がったら暇になってしまうわね。
 どこかに行ってこようかな……。
 結局私も外をぶらぶらすることになってしまった。
「よぅ、姉ちゃん。また会ったな」
 背後から勢いよく肩をつかまれ振り向かされる。
「……お久しぶり」
 あの4人の男達だった。
 既に捕まってしまっている以上、抵抗は無駄だろう。
 武闘派ではない私が彼らに対抗する術があるとしたら……。
(これしかないわよね……)
 男達の死角で携帯を操作する。
 春香の登録番号は……444番。
 なぜ444なのか。この数字に深い意味は無いと言っておきたい。
 400番台に登録者が一人もいないけどあえて意味は無いと言っておく。

「用件は……分かってるよな?」
「私に?」
「正確にはお前の友達にだけどな」
「じゃあ呼ぶ?」
 春香が電話に出ていてくれたならこの会話も聞いていてくれるだろう。
「いや、お前にも用事があるんだよ。とても楽しい用事がな」
 お、犯される……。
(春香ぁ、頼むから電話を聞いててよ〜?)
 頼みの綱は携帯電話だけだった。
「あ、あの、み、見逃すってことはできないかなぁ?」
「……ダメだ」
 一瞬、間があった。いけるかな?
「お願い、あの時、私は何もしてないじゃない」
「まぁ、確かに……」
「でしょ? お願いだから私に何もしないで!!」
 涙を流し、懇願してみた。

「…………どうするよ?」
「ああ」
「コイツの言い分も正しいよな……」

 3人の男達が会議を始める。
 残りの1人は私を捕まえておく係だ。
 ここで男を振り切って逃げ出すのもありだが、そうした場合、次に捕まったときが貞操の危機だ。
 あくまで弱々しく無抵抗でこの場を何とか乗り切らなきゃ……。

「決まったぞ。君、人質な」
「人質?」
「あのアマを呼ぶための人質になってもらう。残念だけど逃がすわけにはいかねぇな」
 人質ね……。まぁ、貞操の危機に陥るよりマシか……。
「いいわ。でも……縛ったりしないでね?」
「あ、ああ」
 春香なら4人程度、楽勝だろうね。

「おい、皆に連絡入れといてくれ」
「了解」
 へ? みんなって……何?
「全員か?」
「当然だ。あのアマただもんじゃねぇからな」
 そりゃそうだ。湊大付属の怪獣だよ?
 そこいらのチンピラじゃ対抗できないって……。
 だが、問題は全員って言うセリフだ。いったい何人なのやら……。

 私はもしかしたら仲間を売ってしまったのかもしれない。
 大丈夫よね……春香。



 私は縛られることはなかったが屋上の奥に見張り3人に囲まれていた。
「あの、のど渇いちゃったな……」
「お〜い!! お嬢が飲み物欲しいってよ!!」
「誰か買って来い!!」
 なんか……私リーダーみたいになってんだけど。
「何がいい?」
 笑顔で男共の本当のリーダーが聞いてくる。
「じゃあ……アップルジュース」
「アップルジュースだってよ!!」
「はい!!」
 なんなのこの状態……。
 本当に私は人質なのだろうか……。

「悪いなぁ。俺達もやられっぱなしじゃいられねぇんだよ」
「はぁ……」
 にこやかに話しかけてくる。そこまで悪い印象はない。
 堕ちたのかしら……。
「君には悪いが、友達にはひどい目にあってもらうぞ?」
 いや、無理だと……思うわよ?
 けどこの人数が相手だ、春香でもどうなるか分からない。
 その数22名。大人数の宿泊だった。


「ほれ、ジュースだ。アップルだぞ」
「ありがと」
「気長に待ってな。絶対来るんだろ?」
「ええ……」
(多分。としか言えないのが嫌なところね)
 メールは既に彼らの言う通りに送信済みだ。

― 屋上に来い。お友達が待っているぞ ―

 怖くはない。春香じゃなくても同じ部屋の藤木君は必ず来てくれる。
 アップルジュースを飲みながら信じて待つことしか今の私にはできなかった。



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