これだけは言わせてくれ。当てたくて当てたんじゃない。 駄馬の追い込みが凄かった……反則並だった。 そして本命の馬は本当に本命だったのか? と……。 係員を呼んだ回数は競馬ゲームのメダルが尽きるたびに呼んだので数え切れない。 よって、すでに係員の注目を集めていた。 いや、係員だけじゃない。ゲームセンター内の人間全員だ。 「メダル落としにつぎ込め!!」 雄二が両手にメダルを持てるだけ持ち、走り出した。 俺は1箱のメダルを持って雄二に続いた。 チャリ、チャリ、チャリ 二人、両手でメダルを怒涛のごとく投入する。 「ダメだ!! 半分以上戻ってきちまう!!」 雄二に訴える。 下の受け皿にはどんどんメダルが溜まっていく。 「健吾!! 何でもいい、メダルを減らせ!!」 「さっきからやってる!!」 やってて増えちまったんだよ!! 一人のノルマは約5千枚。気が遠くなるような話だ。 ― じゃんけん、ポン ― 俺は3分の2の確立で減らすことのできるじゃんけんゲームで1枚1枚確実に減らすことにした。 ― じゃんけん、ポン フィーバー!! ― おい、勝ってんじゃねぇ!! ルーレットが回る。 ― ラッキー!! ― 50枚獲得……。 「ラッキーじゃねぇ!! このポンコツが!!」 本気でこの機械を壊したくなった。 「なに増やしてんだバカ!!」 増やしたくて増やしたわけじゃねぇ……。 「おい、そこらへんの奴らにやったらどうだ?」 「…………」 そいつらは何の苦労もなくメダルを手にするのか? 「売るか? 一枚一円で」 俺の中に邪悪な考えが浮かんだ。 「それはまずい。係員に見られてる」 でも、無料でくれてやるのはなんか嫌だ。 「根性で使う……」 俺の結論。人にやるくらいなら無駄に使え。 「タイムリミットは5時50分だ。時計を合わせろ」 「俺の携帯、自動セットだから合ってる」 「じゃあ、それまでに使えなかったら配るぞ」 「OK」 絶対に使い切る。俺の全てを懸けて!! 確実に負けるゲームを見つけた。麻雀ゲームだ。 横一列に並んだ5台の麻雀ゲームを独占。すべてツモ切り。 天和でも出ない限りメダルが戻ってくることはない。 「健吾!! すげぇ減ったぞ」 「マジか!?」 「競馬だ!! 本命が来た!!」 すると2000枚近く減ったわけか……。 俺は1台につき5枚ずつ、25枚ずつ着実に減らしている。 雄二……甘いぜ。それは下手をするとものすごく増えるんだぞ? 俺はそれで万枚いったんだぞ……。 俺は地道でいい。確実に減らしていこう……。 数分後…… 「終わったぞ」 「何っ!?」 雄二はメダルを全部なくし麻雀ゲームのコーナーにやってきた。 「いや、だって3ゲームで全部消えたからな……」 雄二は遠くを見つめて言い放った。 3ゲーム!? ストレート負け!? ある意味、なんて運のない奴だ……。 パパーン!! 「あ?」 麻雀ゲームの1台が派手な音を鳴らした。 ― 天和!!! ― 麻雀のルールを知らない人に教えましょう。 天和(テンホー)とは最初に配られた牌で、すでにあがっているというとんでもない役だ。 それでも分からない場合を想定し、分かりやすい例を言おう。 @宝くじを1枚買って1等が当たる。 Aマークシートのテストで鉛筆転がして100点を取る。 Bその他、タナボタ的な出来事。 分かっていただけただろうか。 当然、配点も高くて戻ってくるメダルも多いわけで…… 「…………」 「…………」 チャリチャリチャリ………… どんどん出てくるメダルを呆然と見つめる。 チャリチャリチャリ………… チャリチャ 機械に手を突っ込み、メダルの出てくる場所を止めてみた。 「健吾!! 無駄だ!! 無駄なんだよ!!」 「うるせぇ!!」 こうでもしなきゃ狂っちまいそうなんだよ!! 「俺も手伝ってやるから……。ほら、半分よこせ」 約2000枚をカートで運んでいった。 ゆ、雄二。わが心の友よ……。 ありがたかった。本当に…… 「終わったぞ」 「早っ!!」 5分も経たないうちに雄二が戻ってきた。 「1レースで終わったぞ。残りこれだけ」 両手に乗るくらいのメダルを持っていた。 雄二に任せておけば全部なくなるのでは……? 俺は核心をついてしまった。気づいてはならない真実に気づいてしまった。 「雄二。もう1レースやってきてくれないか?」 「別にいいぞ」 そこらじゅうにあるメダルをかき集める。 「じゃ、これ持ってけ」 「任せとけ」 ああ、任せる。と、いうか減らしてくれ……。 雄二は戦線に向かっていった。 「全部、終わったぞ」 麻雀ゲームで残ったメダルの処理をしていた俺は雄二の報告に喜んだ。 「よっしゃーーー!!」 パパーン!! 「げっ!!」 ― 天和!!! ― 「…………」 また……ッスか? チャリチャリチャリ………… 「健吾、俺はもう知らん」 「もう1レース、もう1レースだけ!!」 「知るか!!」 「ぐあぁぁぁ!!」 俺はひざから崩れ落ちた……。 結局メダルの枚数は2000枚ほど残り、タイムアップとなった。 「お、おい、健吾。ちょっと見ろ」 「なんだよ」 地道に競馬で減らしていた。 「……メダル、預かってくれるらしいぞ」 「あぁ!?」 雄二の言葉に驚き、振り向いた。 「ほれ、アレだ」 雄二の指す指の先には小さな紙。 ― 余ったメダルは預かります。 係員までお知らせください。 ― 「…………」 「…………」 「預けるか……」 「ああ……」 俺達は2027枚のメダルを係員に預けた。 俺、今日なんか憑いてるのか? 不気味な時間をすごした気がする。 |