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 これだけは言わせてくれ。当てたくて当てたんじゃない。
 駄馬の追い込みが凄かった……反則並だった。
 そして本命の馬は本当に本命だったのか? と……。

第92話 銀色の丸い奴 <<健吾>>

 
 係員を呼んだ回数は競馬ゲームのメダルが尽きるたびに呼んだので数え切れない。
 よって、すでに係員の注目を集めていた。
 いや、係員だけじゃない。ゲームセンター内の人間全員だ。

「メダル落としにつぎ込め!!」
 雄二が両手にメダルを持てるだけ持ち、走り出した。
 俺は1箱のメダルを持って雄二に続いた。

チャリ、チャリ、チャリ
 二人、両手でメダルを怒涛のごとく投入する。

「ダメだ!! 半分以上戻ってきちまう!!」
 雄二に訴える。
 下の受け皿にはどんどんメダルが溜まっていく。
「健吾!! 何でもいい、メダルを減らせ!!」
「さっきからやってる!!」
 やってて増えちまったんだよ!!
 一人のノルマは約5千枚。気が遠くなるような話だ。

― じゃんけん、ポン ―
 
 俺は3分の2の確立で減らすことのできるじゃんけんゲームで1枚1枚確実に減らすことにした。

― じゃんけん、ポン フィーバー!! ―

 おい、勝ってんじゃねぇ!!
 ルーレットが回る。

― ラッキー!! ―

 50枚獲得……。
「ラッキーじゃねぇ!! このポンコツが!!」
 本気でこの機械を壊したくなった。
「なに増やしてんだバカ!!」
 増やしたくて増やしたわけじゃねぇ……。

「おい、そこらへんの奴らにやったらどうだ?」
「…………」
 そいつらは何の苦労もなくメダルを手にするのか?
「売るか? 一枚一円で」
 俺の中に邪悪な考えが浮かんだ。
「それはまずい。係員に見られてる」
 でも、無料でくれてやるのはなんか嫌だ。
「根性で使う……」
 俺の結論。人にやるくらいなら無駄に使え。

「タイムリミットは5時50分だ。時計を合わせろ」
「俺の携帯、自動セットだから合ってる」
「じゃあ、それまでに使えなかったら配るぞ」
「OK」
 絶対に使い切る。俺の全てを懸けて!!


 確実に負けるゲームを見つけた。麻雀ゲームだ。
 横一列に並んだ5台の麻雀ゲームを独占。すべてツモ切り。
 天和でも出ない限りメダルが戻ってくることはない。
「健吾!! すげぇ減ったぞ」
「マジか!?」
「競馬だ!! 本命が来た!!」
 すると2000枚近く減ったわけか……。
 俺は1台につき5枚ずつ、25枚ずつ着実に減らしている。

 雄二……甘いぜ。それは下手をするとものすごく増えるんだぞ?
 俺はそれで万枚いったんだぞ……。
 俺は地道でいい。確実に減らしていこう……。


 数分後……

「終わったぞ」
「何っ!?」
 雄二はメダルを全部なくし麻雀ゲームのコーナーにやってきた。
「いや、だって3ゲームで全部消えたからな……」
 雄二は遠くを見つめて言い放った。

 3ゲーム!?
 ストレート負け!?
 ある意味、なんて運のない奴だ……。

パパーン!!

「あ?」
 麻雀ゲームの1台が派手な音を鳴らした。

― 天和!!! ―

 麻雀のルールを知らない人に教えましょう。
 天和(テンホー)とは最初に配られた牌で、すでにあがっているというとんでもない役だ。
 それでも分からない場合を想定し、分かりやすい例を言おう。
 
@宝くじを1枚買って1等が当たる。
Aマークシートのテストで鉛筆転がして100点を取る。
Bその他、タナボタ的な出来事。

 分かっていただけただろうか。
 当然、配点も高くて戻ってくるメダルも多いわけで……

「…………」
「…………」

チャリチャリチャリ…………

 どんどん出てくるメダルを呆然と見つめる。

チャリチャリチャリ…………
チャリチャ

 機械に手を突っ込み、メダルの出てくる場所を止めてみた。

「健吾!! 無駄だ!! 無駄なんだよ!!」
「うるせぇ!!」
 こうでもしなきゃ狂っちまいそうなんだよ!!

「俺も手伝ってやるから……。ほら、半分よこせ」
 約2000枚をカートで運んでいった。
 ゆ、雄二。わが心の友よ……。
 ありがたかった。本当に……


「終わったぞ」
「早っ!!」
 5分も経たないうちに雄二が戻ってきた。
「1レースで終わったぞ。残りこれだけ」
 両手に乗るくらいのメダルを持っていた。
 雄二に任せておけば全部なくなるのでは……?

 俺は核心をついてしまった。気づいてはならない真実に気づいてしまった。

「雄二。もう1レースやってきてくれないか?」
「別にいいぞ」
 そこらじゅうにあるメダルをかき集める。
「じゃ、これ持ってけ」
「任せとけ」
 ああ、任せる。と、いうか減らしてくれ……。
 雄二は戦線に向かっていった。


「全部、終わったぞ」
 麻雀ゲームで残ったメダルの処理をしていた俺は雄二の報告に喜んだ。
「よっしゃーーー!!」
 
パパーン!!

「げっ!!」

― 天和!!! ―

「…………」
 また……ッスか?

チャリチャリチャリ…………

「健吾、俺はもう知らん」
「もう1レース、もう1レースだけ!!」
「知るか!!」
「ぐあぁぁぁ!!」
 俺はひざから崩れ落ちた……。



 結局メダルの枚数は2000枚ほど残り、タイムアップとなった。
「お、おい、健吾。ちょっと見ろ」
「なんだよ」
 地道に競馬で減らしていた。
「……メダル、預かってくれるらしいぞ」
「あぁ!?」
 雄二の言葉に驚き、振り向いた。
「ほれ、アレだ」
 雄二の指す指の先には小さな紙。

― 余ったメダルは預かります。 係員までお知らせください。 ― 

「…………」
「…………」

「預けるか……」
「ああ……」
 俺達は2027枚のメダルを係員に預けた。

 俺、今日なんか憑いてるのか?
 不気味な時間をすごした気がする。



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