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 皆はどこにいる?
 健吾、智樹、有香、千夏、結城、田村。
 全員がバラバラになっているかもしれない……

第91話 俺はさながら伝言鳥 <<雄二>>

 まずは携帯で連絡のつく奴に電話だ。
 健吾は俺と一緒に逃げていたから大丈夫なはずだ。

トゥルルルルル
 トゥルルルルル

― ただいま電話に出ることができません ピーッとなりましたらメッセージをどうぞ ―

ピーーーッ
「貴様はすでに死んでいる!!!」

ブツッ

 ダメだったか……。
 適当なメッセージを入れて電話を切った。

 結城あたりは大丈夫そうだな。
 着信履歴から結城の電話番号を呼び出す。

トゥルルルルル
 トゥルルルルル

「もしもし、今度は藤木君?」
「おう、晩飯のお誘い。午後6時に更衣室前な」
「何で私? 有香とか春香を誘いなさいよ」
 どうやらこの女は自分だけを誘っていると勘違いしている模様。
「……全員呼んでんだけど」
「紛らわしい言い方しないでよ。ビックリしちゃうじゃない」
「紛らわしいか?」
 普通に考えれば分からんか?
「とにかく了解よ。6時に更衣室前ね」
「おう、よろしく〜」

ブツッ

 田村はまだプールでくたばっているのだろうか……。
 有香、智樹、千夏。
 有香の電話番号は知らんから智樹だな。

トゥルルルルル
 トゥルルルルル

― ただいま電波の届かないところにいるか電源が入っていません ―

 しっかりと電源を切っていた。
 じゃあプールか?

 智樹と田村に伝言を伝えるため俺はまたプールに向かった。
 当然、Tシャツを着て、だ。
 田村を置いてきた場所に向かう。奴はまだ回復しきれていなかった。

「よう、大丈夫か?」
「何とか無事だ。だいぶ楽になってきた」
「いきなりで悪いんだが晩飯は全員で食うぞ。6時に更衣室前集合な」
「ちょっと待て。今何時だ」
 携帯は置いてきているので時計を探す。
 見つからん。
「恐らく2時半ごろだ」
「2時半!? 昼飯は!?」
「みんな各自で食ってる」
「くおぉぉぉ。食い損ねたぁ!!」
 田村は悲しみに打ちひしがれていた。たかが一食抜いたくらいで。
「まぁ、晩飯までに体調回復させとけよ」
「まかせとけ!! あと10分もあれば全快だ」
 意識が飛ぶほどのダメージを1時間程度で回復させるとは……。

 うろうろしてみるが健吾も智樹も見つからない。
 有香も千夏も同じく見つからない。
 ちくしょう、人多すぎなんだよ!!
「ゆ、藤木君……?」
 左右を見渡しているところを後から声をかけられた。
「うおぅ!!」
 マジでビックリした。
「何してるの?」
「なんだ、有香かよ。ビックリさせんなよ……」
「藤木君。な、名前で呼んでるよ」
 本当に驚いていたため脳内で修正する余裕もなかったようだ。
 不覚なり……。
「みんな探してんだけどな。見つからねぇんだよ」
「わ、私も手伝うよ」
「助かる。じゃあ、斉藤さんは右回り、俺は左回りで半々で探そう」

「で、何で探してるの?」
「言うの忘れてたな。晩飯みんなで一緒に食うから午後6時に更衣室前集合」
「ん、分かった」
「健吾と智樹、千夏を見かけたら伝えておいてくれ」
「うん」
 有香と手分けしてプールを探すこととなった。


 左回りに全体を見渡しながら歩いているが見つからない。
「迷子で呼び出してやろうか……」
 いや、それは俺もキツイ。っていうか勘弁してほしい。
 結局見つからないまま半分の位置まで来てしまった。

「見つかったか?」
「ううん。藤木君は?」
「俺もダメだ。どこ行きやがったんだよ……」
 周囲を見渡しても影も形も見つからない。

「いたっ!!」
 有香が突然叫んだ。
「マジか? どこだよ?」
「あ、あそこ、谷口君と千夏ちゃんがいる……」
 有香の指差す方向を見ると智樹の奴が千夏と楽しそうに遊んでいるではないか。

 ほぅ、そうですか、そうですか。
 俺が一生懸命に探しているときに貴様等は水とお戯れですか。
 しかも水を掛け合って「それそれ〜」ですか……。
「水、掛け合ってなんかないよ……?」
 そんでもって俺は智樹に義兄さんとか言われるわけですか。
 披露宴で俺は「友達に妹をを任せることになるとは……」とか言うんですか。
「雄二君!! 戻ってきて!!」
 
 ゆさゆさと揺さぶられる身体にようやく脳が反応する。
「はっ」
「大丈夫?」
「いかん、いかん。なんか妄想が駆け巡ってた」
 俺は頭をコンコンと叩く。
「全部口に出してたよ……」
「…………」
「…………」

「まぁ、とにかくだ。あいつ等に伝言を伝えてさっさと飛び立とう」
「う、うん」
 世の中、騙し騙しで生きていくことも必要なんです。


「智樹〜!!」
 俺は智樹に駆け寄りながら大声で呼んだ。
「雄二……」
 なんか智樹は疲れきっているご様子だった。
「あ、お兄ちゃん!!」
 千夏は智樹の体力を吸収しているかのように元気だった。
 それを見た俺は智樹に対してなぜか気の毒だなぁと思った。
「あのさ……晩飯は皆で食うから6時に更衣室前に集合な」
「り、了解」
「OK!!」
 二人の返事は実に対照的だった。
「体力……残しとけよ」 
「大丈夫、大丈夫!! まだまだいけるよ!!」
 千夏……お前にゃ言ってねぇ。
 事実を知ったとき、智樹は被害者だと気づいた。

頑張れ〜 負けんな〜 力の限り生きてやれ〜

 智樹にこの詩を残し、俺は早々に立ち去ることにした。


 有香は智樹達と遊ぶことにしたらしく、この場に残ると言った。
 智樹への負担を和らげるためだろう。
 プールにはいないと判断した俺は早々に着替えてプールをあとにした。

ピッピッピ ピッピッピ ピッピッピッピッピッピッピ

 携帯の電源を入れたとたん電話が入る。
 健吾……いいところにかけてきた。
「はい、少佐」
「た、助けてください少佐殿!!」
「ど、どうした!?」
「詳しいことはあとで!! ゲーセンに救援を〜!!」

ブツッ
 ツー、ツー、ツー

 高槻曹長……貴様に一体何があった。
 待ってろ!! 今行くぞ!!


 俺は走った。全力で、人の間をすり抜けながら……
 そして、辿り着いた。ゲームセンターのメダルゲームコーナー……

 
めっちゃ出てる〜〜!!!!


 俺は心の中で高らかに吠えた。
「少佐!! これを使い切ってくれ!!」
「無茶言うな!! 何でこんなに出すんだバカ!!」
 メダルの枚数は数えることが馬鹿馬鹿しくなるくらいにあった。
「何枚あるんだよ!?」
「知るか!! 1万以上は間違いない!!」
 い、一万枚……。

「何が起きてこの数字になったのか俺に分かりやすいように説明してくれ」
 一回や二回の当たりじゃ、こうはならん。
「最初にスロットでファイブセブンが出て1000枚出たんだよ……」
「ほう……」
 そりゃラッキーだな……。
「で、競馬に夢の全部賭けやったら最初のレースで大穴。これで6千枚くらい出た」
 これで六千。
「困り果てて、一番枚数の減りやすい競馬を続けたらまた大穴。で現在に至る」
「2連続大穴だと? ぶっ壊れてんじゃねぇのかこの機械……」
 機械に殺意を抱いたのは初めてかもしれない。
「なんとかして使い切ってくれ!! 頼む!!」
「なぁ、ひょっとして俺が携帯にかけたのは気づいてるか?」
「なんだそれ? おお、本当だ」
 健吾が携帯を取り出して見ていた。

「メダルの音で気づかなかったんだな」
「ああ、そうかい」
 どうでもいい。そんなことより、このメダル……どうしよう。

「お、なんかメッセージ入ってる」

ピッ

『貴様はすでに死んでいる!!!』
 俺の声が周囲の騒音の中、やけにクリアに俺の耳に入ってきた。
 
ああ、どうせ俺はすでに死んでいるよ……。



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