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 だからさやかを呼びたくなかったのだ。
 結局こうなってしまったではないか……
 あたしゃ、ああいうのは地元のみと決めているのだ。

第90話 企画者の仕事 <<春香>>


 あたしは男共に蹴りをくれたあと雄二達と別れ、フロントに向かった。
「ダブル?」
「はい、申し訳ありません。こちらの手違いで……」
 なんと一部屋だけダブルになってしまったらしい。
 あたしが取ったのは隣り合ったツイン4部屋のはずだったのだが……。
 一部屋ずつずれて4部屋のうちの1部屋がダブルになってしまったのだ。
「他に部屋は?」
「この時期ですから……満室です」
 ダブルはまずいんじゃないの?
 と頭の片隅で思いながらこうも思った。


面白い!! と……


「参ったわねぇ……」
「ダブルの分の宿泊費は半額でよろしいので我慢していただけませんか?」
 いや、そういう問題じゃないのよねぇ……。
 組み合わせによっては取り返しのつかないことになるかもしれない。
 
 ま、契約書書かせてるから自己責任なんだけどね。
「わかりました。それで構いません」
「申し訳ございません。ありがとうございます」
 なんとかなるでしょ。組み合わせが最悪じゃなければ……
 最悪の組み合わせは……あたしがダブルに行くことだな。
 絶対にダブルはごめんだ。

 だがクジの決定は絶対だ。言いだしっぺだし……
「それではこちらがカードキーになります」
「ありがと」
 8枚のカードキーを受け取る。2枚の色が違う。
 これがダブルのカードキーか……。
 この2枚のカードを受け取った者には大波乱が予想される。

「あ」
 そういえば、どうやって全員集めよう……。
 今、全員がバラバラになっているはずだ。
 プールに行ってる奴もいるから携帯は繋がらない可能性がある。
 やっぱりあたしが探すしかないのか?
「夜でいいや……」
 どうせ晩飯も各自で勝手に食うだろ……。
 あたしは携帯の電源を入れて適当に遊ぶことにした。

ピンッ ……ドッコーーーン!!! ぎゃ〜!!!

 電話だ。電話の場合、着メロは手榴弾になる。
 雄二? 何の用だ?
「昼飯食っていいのか?」
 今何時だと思ってんだコイツは……2時だぞ2時。
 まぁこういう律儀なところが雄二なんだろうが……。
「好きにしろ。あたしはもう食った」
「知っとるわ。派手に食いやがって」
 奢りなんだから食わねば損だろ?

「まぁいいや、晩飯はどうする?」
「あたしに聞くな。自由に食えばいいではないか」
「晩飯くらい一緒に食わねぇか?」
 好きにしてくれ……。
 もう、そこんとこは任せる。
「アンタ、全員集めてね」
「了解。じゃあ6時に更衣室前に集合な」
「あいよ。じゃあな」
「うぃ」

ブツッ

 これから雄二は全員に伝えるために走り回ることになるだろう。
 頑張れ……あたしゃ知らん。
「おい、待てよ」
「あ?」
 誰だ? コイツ……。
「さっきは面白いことやってくれたじゃねぇか」
 ああ、ナンパの4人組か。
「何か用?」
 面倒だなぁ……なんであたしのところに来る。雄二のとこ行け。
「用だと? あるに決まってんだろ!!」
「きゃ〜、怖い」
「……な、なめやがって」
 あたしの棒読みのセリフに男共はキレた。
「あんたらねぇ。恥ずかしくないの? 女一人に4人がかり? 凄い!! かっこい〜!!」
「こ、こ・の・アマ!!」
 おお、怒っとる、怒っとる。

「殺すぞ?」
「きゃ〜、殺される〜」
「てめっ!!」
 耐え切れなくなったのか男の一人が殴りかかってきた。
 パンチ遅っ!!
 あたしは難なくかわす。
「この程度? その無謀さには涙が出るわ」
 ハンカチを取り出し目じりを拭く。実際涙は出ちゃいないが……。

「さっきのアンタ。そこのアンタ!!」
 一人の男を指差す。
「俺……?」
「あんたのセリフもらうわ」
「は?」

「あんたら……殺すよ?」
 全力で痛めつける気だった。
 それが相手に殺気として伝わる。
「これ以上、構わないで。あたしは殺ると言ったら本当に殺るわよ」
 あたしは男共の横をすり抜けて通った。
 男達は呆気に取られて何も言えなかった……。

「ちっ、根性なしめ……」
 ああいうときは普通かかってくるだろ。
 簡単な脅しで怯むくらいなら最初からからんでこなければいい。
 あたしはすでに迎撃体勢に入り、かかってくるのを歩きながら待っていたのだった。

 後々のことを考えると片付けておいたほうが良かったか?
 少々後悔した。
 あいつらが行動を起こすとしたら……やばいな。

トゥルルルルル
 トゥルルルルル

「はい、もしもし」
「さやかか?」
 あたしはさやかに電話をした。
「どうしたの?」
「さっきのナンパ男共に気をつけな。狙われてる」
 一応警告した。戦闘能力が無いのは関係者ではさやかだけだ。
「え!? 本当!?」
「あたしが嘘をつくと思うか?」
「…………。 ……気をつけるわ」
 何だ今の間は。それに……
「質問に答えろ。嘘をつくと思ってんの?」
「あ、電波が……」
 
ブツッ
 ツー、ツー、ツー

「さやかの奴……」
 自分の携帯のディスプレイを見る。
「しっかり3本立っているではないか……」
 やっぱり……わざと切ったか?
 どうやらあたしにはあまり信用が無いらしい。
 ショックだ。

 こういうときは……何もかも忘れて飛び込むしかない!!
 あたしは再び更衣室に入り、水着に着替えて飛び込み台へ駆け出した。



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