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 僕は一体何をしているんだろう……。
 千夏ちゃんと一緒に遊んでいるんだけど、なんでこうなったんだっけ?
 有香さん……悩みすぎなきゃいいけど。

第89話 雄二の妹 <<智樹>>


「先輩〜!! こっちこっち〜!! 早く〜!!」
「はいはい……」
 流れるプール、波のプール、ウォータースライダーに縄の網が張り巡らされたアトラクションプール。
 ありとあらゆる場所に連れていかれていた。
 そしてまた引きずられていく。

「次はあそこだよっ」
 千夏ちゃんが指差した方向を見る。
「ジャグジー?」
 簡単に言うと泡風呂。
「うん!!」
 元気よく答える。
「そんなに面白そうじゃないけど?」
 千夏ちゃんには向かないような場所だと思うけど……。
「先輩疲れた顔してる。ちょっと休も」
「え?」
 もしかして気を遣ってくれたのかな……。
 僕は千夏ちゃんとジャグジーでゆっくりと休んでいた。

「雄二!! プールに飛び込むぞ!!」
「了解!!」
 雄二達が何らかのトラブルに巻き込まれたようだ。
「お、お兄ちゃん……恥ずかしいなぁ、もう」
 まったく恥ずかしく思わない僕はすっかりB組色に染められてしまっていたようだ。
「い、いつものことだよ」
「お兄ちゃんいつもあんなことしてるの!?」
 雄二は家族に自分の暴挙を隠していたようだ。
 悪いことしたな……

「井上さんといるときの雄二を見てたら分かるんじゃない?」
「え? 春姉? 優しいよ」
 井上さんは千夏ちゃんの前では優しいお姉さんを演じているらしい。
「千夏ちゃん。湊大付属には来ないほうがいいかもしれないよ」
 今年受験生である千夏ちゃんに忠告した。
「何で?」
 夢が壊れること請け合いだから。

「うち、受けるつもりなの?」
 夢を壊してほしくないなぁと思いながら聞いた。
「うん!! お兄ちゃんいるし……先輩もいるしね」
「僕?」
「高校生活が楽しくなりそうだよ〜」
 空を見上げてぽーっとする姿はすでに高校生活にトリップしているようだ。
「あ、そう」
 夢壊れたり……。
 でも、楽しくはなりそうだなぁ。

「もうそろそろ行こうか」
 疲れがなくなった気がした。気のせいだろうけど……。
「元気になった?」
「うん」
「じゃ、行こ。ウォータスライダー、まだまだ滑り足りないよ」
 またアレ?
 僕は手を引かれ、ウォータースライダーへ連れていかれるのだった。
 抵抗しようと思えばいくらでもできる。けど、するほどの理由もない。
 僕が素直に引きずられてる理由だ。

「先輩、滑ろ」
「え? 一緒に?」
「うん!!」
 いや、それは周囲の視線がきついんだけど……
 周囲から見れば兄妹か恋人に見えるだろう。
 遠慮したいわけじゃないけど、いいのかな。千夏ちゃん……。
「ほらほら、行こ」
 いろいろ考えてる間に僕たちの順番になっていた。
「いっくよ〜!!」
 ああ、もうどうにでもなれ……。
 僕は千夏ちゃんの後ろについた。
「GO〜!!」
 右カーブ、左カーブ、右螺旋を経て急降下。
 最後に着水用プールにダイブして終了。


「あ〜面白かった〜」
「そ、そうだね」
 正直それどころじゃなかった。
 理由は、まぁ、その、察してください。
「そろそろご飯食べない?」
「う〜ん、もう一回だけ!! ダメ?」
 ダメ?って…そんな顔して言うセリフじゃないよ……。
 断れる表情してないじゃないか。
「いいよ」
「ありがと〜!!」
 ぴょん、と飛びついてくる。
「そ、そんなに喜ばなくてもいいよ!!」
 周囲の視線が集まるのが分かる。
 恥ずかしくないの!? 千夏ちゃん!!
 十分に特殊クラスに入る素質を持っている子だった。
 さすが……雄二の妹だな。
 納得いってしまうほどの行動力だった。

「ほら、一緒に、一緒に!!」
「ま、また!?」
 千夏ちゃんが僕の手を引っ張る。
 有香さん……僕は有香さんを置いていったことを後悔しているよ……。
 引きずられながら思った。


 結局一回滑って昼食を取ることになった僕達。
「昼食は自由なのかな?」
 そのことについての話はまったくしていない。
「春姉達が知らない人と食べてたよ」
「知らない人?」
「うん、男の人だったよ。結城さんって人と」
 じゃあ結城さんと井上さんは食事を済ませたんだな……。
 知らない男の人っていうのが気になるが大丈夫だろう。井上さんだし……。

 それにさっき雄二達が逃げていたのも気にかかる。
 さらに有香さんも……
「みんな……心配事ばかりじゃないか……」
「? なんか言った?」
「いや、なんでもないよ……」
 唯一、心配事がないのは田村君だけか……。
 でも、井上さんと飛び込みをやっていたはずだ。
 ……やはり、全員か。

「早く食べようよ〜」
「ごめんごめん。食べよっか」
「うん!! いっただっきま〜す!!」
 千夏ちゃんは焼きそばを食べ始めた。
 僕も焼きそばを胃を痛めながら食べ始めるのであった。

 僕達……追い出されなきゃいいけど。



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