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 一体何が起きるんだ?
 それは殴るの段階になってみないと分からない。
 そして、その時は刻一刻と近づいているようだ……。

第88話 悪魔達の宴 後編 <<健吾>>


「見ろ、ついに遊ぶの段階まで来たぞ」
 戦線を離脱した俺と雄二は遠距離からの観察を行うことにした。
 俺がどうしても気になってしまって雄二を引きとめたのだ。
「ああ……」
「結城はこのときにすでにチョイスを終えている。全員ヒットしなければ殴るの段階に移行だ」
「井上は?」
 井上はチョイスしないのか?
「アイツは恋人作る気で参加しちゃいない。最初から、たかる気で参加している」
「なるほど……」
 すでに男共の奢りで飯を食べ、飲み物を飲み、ボートを借りて遊んでいる。

「ここですんなりアイツ等が引いてくれれば……」
 哀れな男共はあっさり別れようとする井上達を見逃すはずはないだろう。
 散々金を使ったんだ。なんとしてでも井上達をゲットしなければすべてが無駄になる。
 井上たちの目論見を把握している俺は男共に同情した。
「ちっ、やはり惨劇は避けられんか」
 男共は必死に井上達をひきとめている。
 無駄なことを……。

「あっ」
「やっちまったな」
 井上が男の一人を殴ってしまった。
「さぁ、始まるぞ……」
 井上たちが猛ダッシュでベンチのほうへ向かう、と思いきや……

「おい、こっちに来るぞ」
「な、なぜだ……なぜ俺達の位置を把握している!?」
 雄二が驚愕している。俺もだ。
 井上たちはまっすぐこっちに向かってきていた。
「どうする!?」
「当然逃げるに決まってんだろ!!」
 雄二は一目散に逃げ出した。
「バカ、俺を置いていくな!!」
 俺もそれに続いた。
 こうして謎の逃走劇が始まった。


「なんでだ? 何回撒いてると思ってんだ!?」
 俺達は何度も井上達を撒こうと視界からはずしてみたものの奴等はしっかり追ってきていた。
「どうしてこんな目にあわなきゃなんねぇんだよ!!」
 俺は理不尽な逃走劇に巻き込まれていた。
 着替える隙もないため、俺達はプールの敷地内を走り回っていた。
 人ごみにまぎれてみたり、物陰に身を潜めてみたりしてもやはり追ってくる。
 それも正確に、まっすぐ俺達のところに向かってくる。
「絶対何かやられてるぞ!!」
 何か?
 俺達は走りながら考えた。
 なぜ俺達の位置を把握できる……。

 発信器か何かか!?

「雄二!! プールに飛び込むぞ!!」
 雄二がTシャツを着たままだが、この際そんなことは気にしてられない。
「了解!!」
 俺達が飛び込んだプールはよりによって水深3mのプールだった。
 なんてこった!!
 だがジャンプしたときに気づいてもすでに遅く、空中を掻いてみたが進むわけもなく……

ドッボーン
 と、落ちてしまったわけだ。

 沈む!! 沈んでまう!!
 必死に足掻くが顔面が水面に出る気配がない。
 かといって目を開くこともできやしない。

(死ぬ!! 死んでまう!! マジで逝っちまうって!!)
「いつまで暴れてんだバカ!! とっとと逃げるぞ!!」
 いつの間にか俺は雄二に助けられていたようだ。
 プールから上がると短くなった距離を開くように猛ダッシュした。

「これで発信器が壊れてたらいいんだが……」
 俺は呟くように言った。
「発信器? そのために飛び込んだのか!?」
 驚いたように雄二が聞いてきた。
「そうだが……どうかしたか?」
「こ・の、アホ!! プールで使うんだから耐水性に決まってんだろ!!」
「そこまでするわけねぇだろ!!」
 いくらなんでもそこまでの物を入手できるわけが……。

「奴はやる!! もし発信器ならな!!」
 だが、雄二は発信器の可能性を否定したような言い方をした。
「発信器じゃないのか?」
「違う。何らかの方法で俺達の位置を把握してるのは間違いないけどな」
「……なぁ、本当に“俺達”なのか?」
 ふと思った。本当に俺達二人の位置を把握してるのか?
 もし、俺達二人じゃなく雄二一人だったとしたら……。
「…………」
「…………」
 どうやら雄二も気づいたようだ。
 俺達二人で、井上が位置を把握するものを仕掛けているとしたらそれは間違いなく雄二だ。

「なぁ」
「なんだよっ!?」
 雄二は理不尽さにご立腹だ。
 だが俺は言わねばならぬ。自分の身の安全のために……


「二手に別れないか?」
「そうはいくかボケ!! 毒食ったら皿も食え!!」
「俺はガッチ○ンじゃねぇから皿は食えねぇよ……」
「誰がガ○チャンの話をした!!」
 とにかく俺は離脱する!!

「ではサラバだ。明智君!!」
 雄二が分かれ道を左に曲がったのを見て、即座に右に曲がった。
 グッバイ親友……。
「逃がすかアホ!! 貴様も、道連れじゃあ!!」
「げっ」
 わざわざブレーキかけてまでこっちに来た。
 どうやら俺は雄二に追われ、雄二は井上と結城に追われ、井上達は見知らぬ男共に追われる。
 四重鬼ごっこ開始のゴングが鳴ったのだった。


 20分ほど走り回った。走るスピードは落ちるものの誰も諦めなかった。
「なぁ雄二!!」
「なんだよ!?」
 数分前から思っていたことなんだが……。
「素直に男共とバトったほうが楽じゃねぇか?」
「…………そうだな」
 二人で走りながら振り返る。
「数は?」
 雄二が聞いてくる。
「3人だな。やれるか?」
「誰にもの言ってんだボケ!! 行くぞ!!」
「アイ、サー!!」
 俺たちは身体ごと振り返り、男共に向かって疾走した。

「雄二!!」
「春香!! てめぇも一人殺れ!!」
「ちぃっ!!」
 春香が振り返り俺達と横一線に並ぶ。

「俺、右!!」
 俺は真っ先に相手を選び、そいつに向かって走る。
「じゃあ、あたしは左な」
 井上も俺に続いて左の男に走る。
「了解!! 俺は真ん中を殺る!!」
 突然自分達に向かって全力で走ってくる三人に男共は怯んだ。
 バカめ……その隙が命取りなんだよ!!

「「「 死ねぇい!!! 」」」

 俺たち三人は息のあったコンビネーションで同時に跳び蹴りをくらわした。
 その後、着地と同時に疾走。倒れる男共に目もくれず一目散に逃げ出す。
 
「なぁ、春香」
「ん〜?」
「なんで俺達の位置が分かったんだ?」
 あ、それは俺も聞きたい。
「ああ、そんなこと。簡単よ」
 簡単?

「Tシャツ着てるのはアンタだけだからね……肉眼で確認した」
「俺、何度も撒いただろ!?」
「それは勘で分かった」

「「 勘!!? 」」
 
 コイツなんだよ……勘って、第六感かよ。シックスセンスかよ。
 そして結局、俺は巻き込まれただけなんだな……



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