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 智樹君の予想通りの展開になってきたような気がする。
 私は雄二君と泳ぐことができたらなぁ、と思っていたのだが
 どうやら本日はその目標を果たせそうになかった。

第86話 難題と邪魔者 <<有香>>

 流れる。流されている。
 もうこれで何周目だろうか……。
 私は智樹君と話をしながら、流れるプールを何周もしていた。
「始まりからこれだもんね。先が思いやられるよ」
 まったくだ。
 
「あ、僕と泳いでてもつまんないかな?」
「そんなことないけど……」
「やっぱり雄二と泳ぎたかった?」
 その質問に私は素直に頷いた。
「僕達が楽しそうにしてたら雄二が来るかもよ?」
「え?」
 智樹君は期待させるようなことはあまり言わない。
 ちゃんとした計算に基づいた高確率の予想だけを口にする。

「風華がいるでしょ? 痣は簡単に消せるんだ」
「……あ」
 そうだ。風華を使えば痣は消えて、プールに入ることもできる。
 じゃあ、なんで使わなかったんだろう……。
「あ、あれ千夏ちゃんじゃない?」
 なんで使わなかったの?
 決して使えない状況だったわけでもない。
 考えることに夢中になって、智樹君の声は聞こえなくなっていた。

 何か理由があるはず……使わなかった理由が……
「…藤さん、斉藤さん!!」
 気がつくと智樹君が私に呼びかけていた。
「え、あ、ごめん」
「何か考え事?」
「うん、ちょっと……」
「雄二のこと?」
「うん……」
「ふぅ、ちょっと上がろうか。そんな調子だと、ここじゃ危ないよ」
 確かに流れるプールでぼーっとしてると危ないよね……。
 私は智樹君に続いてプールを上がった。

「で、雄二の何を考えてたの? 僕でよければ相談に乗るけど?」
 智樹君にしか相談できないことだ。
 同じ覚醒者の智樹君にしか聞けないことだ。
「藤木君。なんで風華を使わないのかな?」
「悩みってそれ?」
 頷く。

「なんだ。ずいぶん簡単なことで悩んでたんだね」
「えっ!? と、谷口君分かるの?」
 勢いで智樹君と言いそうになった。
「僕達が楽しそうにしてたら雄二が来るかもしれないってさっき言ったよね」
「うん」
「雄二は我慢強くない方だからね。楽しそうにしてたら風華を使ってでも遊びたくなるよ」
「じゃあ、なんで今は使わないの?」
 これが今回の悩みのメインだ。
「う〜ん。これは僕の予想なんだけど……」
 智樹君は確実性がないとき、たいていこのセリフを言う。
「風華……使いたくないんじゃないかなぁ。極力……」
「使いたくない……?」
 そんなはずない。雄二君は風華と仲良くやっているようだった。
 暇さえあれば風華と話していた。

「もちろん、地球での話だよ。地球では使いたくないんだよ」
 そうか!! 地球ではありえない能力になってしまう風華は使いたがらない!!
 けど……この前、保健室で使ってた……。
 私は雄二君が井上さんに昏倒させられたときに風華を使っているのを見た。
「けど、この前使ってたわ」
「え、いつ?」
 私は保健室の出来事を話した。

「ふ〜ん。なるほど……それって恐らく、斉藤さんがいたからじゃないかな?」
「私?」
 私がいたから風華を使った?
「嫌な言い方になるけど、待っている斉藤さんに迷惑をかけないために使ったんだ。」
「迷惑……」
 確かに雄二君は誰かに迷惑をかけることを嫌っている節がある。
「雄二はそういうところあるからね」
「もし、私が待っていなかったら……」
「風華は使わなかっただろうね」

 智樹君の予想が正しかったとしたら……
「楽しく泳いでいても来ないんじゃないかな?」
「まぁね。でも、全員で雄二の目の前で楽しく泳いでたら来るよ。間違いなく」
「全員って……」
「僕達だけだったら来る可能性があるだけなんだ」
「ふぅん……」
 彼の予想は当たっているかもしれない。

「何やってんですか?」
「うわっ」
「!?」
 いきなり人の声がしたので驚いた。
 しかもまったく気配がなかった。
「さっきから何周回っても二人で話してるじゃないですか」
 雄二君の妹の確か……千夏ちゃんだ。
「泳がないんですか?」
「泳ぐよ。ね、斉藤さん」
「ごめん、私もうちょっとここにいる」
 考えたいことができた。雄二君のことじゃなく私のこと……

「そう……。じゃあ千夏ちゃん、一緒に泳ごうか?」
「はい!!」
 智樹君は千夏ちゃんを連れてプールに入っていった。
 恐らく気を使ってくれたんだろう。

 私は地球に帰ってから一度も壁雲を呼んでいない。
 使ってはいけないというのも分かるが、私の場合、使う機会がない。
 雄二君の能力は使い勝手が良すぎるんだ……。
 それにひきかえ私の能力は地球で使う必要のない力だ。
 だから私は雄二君のように使うときについて悩まされることがない。

 
私は……まだ救われているほうなのかもしれない…………


「ねぇ、彼女。一人?」
 うるさいのが来た。
「俺と一緒に泳がない?」
「結構です」
 私は男を無視してプールに入る。
「ねぇねぇ、そんなこと言わないでよ〜」
 しつこいわね……。
「…………」
 私は無視し続けた。
 よりによってこんなイラついているときに……
「無視しないでよ〜」
 私の肩をたたいてきた。
「しつっこい!!」

パァァン!!

 周囲から見れば普通に水をかけたようにしか見えないが音は普通に水をかけたような音ではすまない。
(武技、水当て……)
 手のひらに集めた水を腰、肩、腕の遠心力と手首のスナップを使って敵に当てる技だ。
 威力は軽いパンチ一発程度だが顔面に当たれば目潰しになる。
(今のうちに……)
 私はこの隙に逃げ出した。



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