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 こちら男子更衣室。全員が着替えを済ませた。
 雄二は体中に丸い痣を作っていた。
 そして僕の情報通りだったとするならば……

第85話 秘密は守るもの <<智樹>>


「俺……今日泳ぐの諦める……」
 雄二は上半身に集中した奇妙な痣のためTシャツを脱ぐことができなかった。
「だから自業自得だろ?」
 田村君がため息混じりに呟く。
「お前なぁ!! 盗聴まで予想できるかよ!!」
「あの井上ならやりかねんと思うが?」
 その意見には同感だが、まさか実際にやるとは思えるわけがない。

「くそぅ、せっかく泳ぎに来たのに……」
「まぁ、見学ってのも、おつなもんスよ」
 高槻君が雄二を慰めるように言う。

「ねぇ、高槻君」
「なんだよ」
「大丈夫なの?」
「何が?」
「だって、高槻君って……泳げないんでしょ?」
 ある筋の情報が真実なら彼はカナヅチのはずだった。
「知ってたのか。さすがだな……」
「まぁね」
「俺は足がつくプールにしか行かん」
 泳げるように練習する気はないらしい。

「春香にばれないように気をつけろよ」
「分かってるって」
 確かに井上さんにばれたら……どうなるか分からないな。

「お兄〜ちゃ〜ん」
 僕達が着替えてプールに向かうと千夏ちゃんが走ってきた。
「遅いよ〜」
 いや、君が早すぎるんだって……
「春香達は?」
「まだ着替えてると思うけど……」
 やっぱり……君が早いだけだよ。

「待たせたな」
 そう言って井上さん達が出てくる。
「…………」
 なんていうか……驚いた。
 目のやりどころに困る。
「どうした男共。あたしらの水着姿。よく拝んどけ」
「ち、ちょっと井上さん……」
「いいのよ有香。男子達に潤いをあげないとね」
 よ、余計なお世話だよ。

「さ、泳ぐぞ」
「おう、どこで泳ぐ?」
 高槻君が自分の身を案じて予め場所を知っておくことにしたようだ。
 ここのプールには様々な種類がある。
 波のプール、外周を回る流れるプール。
 水深3mのプールから30cmのお子様用プールまで多種にわたる。
「アレだ」
 井上さんが指差したのは2.5mの飛び込み台だった。
 その下には水深5mのプールがある。
「パス」
 即答だった。

「何故だ。好きだろ?」
「流れるプールでボートに乗りたい気分なんだよ」
 ちなみに水深1.3m。
 高槻君の勝負どころが早くもやってきていた。

「飛込みなら俺が行ってやるよ」
 田村君が名乗り出る。
 僕はちょっと遠慮しておきたい。
 正直かなり怖い。
「雄二は何故泳がん」
「……お前がそれを言うか?」
 同感だ。
「なんだ、あたしが言っちゃまずいのか?」
「おめぇのせいで泳げないんだよ!! 身体中痣だらけでな!!」
「なんのことだ? 記憶にございませんなぁ」
 井上さんは間違いなくプロだ。
 人を怒らせるプロに違いない。

「ま、まぁまぁ、とにかく泳ごうよ」
 有香さんが場を宥める。

「おお、いってらっさい」
「私もここで待機するわ」
 雄二と結城さんが残った。
 おそらく結城さんは泳ぐことに興味は無いのだろう……。

「よし、健吾。飛び込みに行くぞ」
「だからパスだっつってんだろ!!」
 溺れたくない為か高槻君も必死だ。
「たわけた事を言うな!! それともなんだ。怖いのか?」
「…………怖くねぇよ」
「じゃあ行こう、な?」
 なぜ井上さんはあそこまで高槻君を誘うのだろうか。


 ま、まさか……知っているのか?


「なぜ行かん。怖くないんだろう?」
「高槻。ちょっと来い」
 田村君が高槻君連れて僕のところにやってくる。

「おい、どうするよ」
 どうするって言われてもな……。
「もういい、正直に言う」
「い、いいの?」
 どうなるか分かんないよ?
「いいんだよ。隠し通すのも面倒だしな」
 
「何やってる。それでも曹長か!!」
「うるせぇな!! 俺は泳げねぇんだよ!!」
 ぎ、逆ギレ!?

「……そうだったのか?」
 し、知らなかったのか?
 あんなにしつこいから、てっきり知ってるのかと思ったが……。
 僕の予想は外れたらしい。
「だから足の届くプールじゃないと行けねぇんだよ」
「そういうこった」
「なら早く言え!!」

スパァン
「いでっ」
 
 相変わらず手が早いというかなんというか……。
「貴様は華麗に波に乗る電気ネズミより劣った生き物なんだな……」
「うるせぇよ」
 そんな架空の生き物と比べられても……。

「いきなり泳ぐ気が失せたなぁ……誰かさんのせいで」
「春香。泳ぎに行かないの?」
「へ?」

「俺達はだいぶ前に見送ったんだがな……」
「そうだよ。早く泳ごうよ」
「飛込みなら俺が付き合ってやるから……な?」
「ちっ、仕方ないな。田村、付き合え」
「イエッサー!!」
 井上さんと田村君は猛ダッシュで飛び込み台に走っていった。
 ふぅ、ようやく泳ぎにいける……

「あれ? 千夏ちゃんは?」
 気がつくと千夏ちゃんがどこにもいなくなっていた。
「ナツならとっくに泳ぎに行ったぞ。待ってられない、だそうだ」
 その気持ち……判る気がする。
 僕だって放っといて自由に泳ぎたいと思ったし……。

「この際、健吾も待機組になったらどうだ?」
「そうだな、そうするか……雄二と一緒に見学するとしますか」
 健吾君が待機組になった、ということは。

「じゃあ僕達も泳ごうか。斉藤さん」
 自然とこういうことになるね……。
「うん」
 僕は有香さんと流れるプールに向かった。



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