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 集合時間は朝8時。集合場所は俺の家。
 荷物は各自自由。所持金も自由。バナナはおやつに入らない。
 さぁ、いよいよ井上企画の旅行の始まりだ。

第83話 猛者共の集合 <<雄二>>


ドゴスッ!!
「ぐああっ!!」
 睡眠中だった俺の腹に衝撃が走る。


「起きろ。あたしだ」
「…て、てめぇ。どうやってこの部屋に入った……」
「ん? 鍵のこと? 鍵ならここにある」
 俺の目の前に銀色の鍵をちらつかせる。
 春香は普通に俺の部屋の鍵を開けて侵入していた。

「何でお前が合鍵持ってんだ!!!」
 俺はこいつに合鍵を渡した覚えは無い。
 と、いうより合鍵を作った覚えも無い。
「この前作った」
「作んな!!」
 なんて奴だ。コイツにプライベートというものは無いのか!?


「だいたい今何時だよ……」
「時計見る?」
 春香は俺の目覚まし時計を持ってくる。
「4時!? お前何考えてんだ!! それにどうやって俺の家に入った!!」
「玄関の合鍵はこれだ」
 新たな鍵をポケットから取り出す。
「だから勝手に作んな!!!」


「こんな夜中に何の用だよ……」
「起きたのだ。8時まであたしに付き合え」
「お、お前は遠足前日の小学生か……」
 こういうときだけ早く起きやがって、毎日この時間に起きろ!!

「で、俺の腹に何をした」
「踵落としを少々」
 ……踵落としが少々?
「お前……」
「そんなことはいいから、なんかして遊ぼ」
 そんなこと……。
「とにかく合鍵をよこせ。没収だ」
「ん、どうせサブキーだからいいわよ」
「合鍵にマスターもサブもあるか!!!」
 何で2本以上作ってんだコイツは……。
 もういい、コイツにつっこんでると精神的に疲れる。

「何して遊ぶんだよ?」
「雄二が近所にピンポンダッシュをするのはどう?」
「お前は?」
「見てる」
「……て・め・ぇ・で・や・れ!!!」
 もう、この人ヤダ……。

「あ〜、あと4時間も何してりゃいいんだよ……」
 時間だけはたっぷりあるのにやることが無い。
「ん……? お、ちょうど眠くなってきた」
 こてん、と床に眠りだす。
「……人起こしといてそれかよ」
 恐ろしいほどに寝つきのいい幼馴染を見て呟いた。

「で、俺はどうすりゃいいんだよ」
 無理やりとんでもない方法で起こされたので眠気はなくなっていた。
 俺はこのあと4時間、眠る春香を横目にゲームで時間を潰すこととなった……。




ピーンポーン
 午前7時。1時間前だというのに誰かがやってきたようだ。
 俺の家にはカメラ付きのインターホンなど存在せず、来客の度に見に行く。
「あいよ〜」
 父さんにも母さんにも今日の来客は俺が出ると言ってあるので
 宣告どおり俺が玄関まで行くことになっていた。
「お、おはよう」
 有香だった。
「早いな。まだ一時間前だぞ?」
「なんとなく早く起きちゃったから……」
 どうやら有香も春香と同じだったようだ。
「ま、上がってくれ」
「お邪魔します」
 俺の部屋に有香を通す。
「今なんか入れてくるから待ってろ」
「う、うん。ねぇ、藤木君」
「ん〜?」
「何で井上さんがここで寝てるの?」
「聞くな……」
 こんなアホらしい話を聞いてほしくなかった。

 冷蔵庫を覗き込む。
「げ、麦茶が無い……」
 何やってんだ母さん!! 夏の定番だろ!!
 麦茶を入れる容器は逆さになって放置されていた。
「ジュースも無い。水なんかだせねぇし……」
 何か入れてくると言ってしまった以上、何か持っていかなければ。


「かき氷?」
「気にしないでくれ」
 結局俺は冷蔵庫にあるシロップを発見し、かき氷を作った。


「ち〜っす」
 二人でかき氷を食べているとき、健吾がやってきた。
「おう、早いな」
「おはよう」
 健吾のセカンドハウスと化している俺の家。
 よって、健吾は無断で入ることを許可されている。
「何で、かき氷食ってんだ?」
「飲みもんねぇから」
「……ま、いっか」
 そう、そうやって普通に流してくれればいいのだよ高槻曹長。

「俺にもかき氷一丁」
「自分で作ってこい」
「ちっ、サービスの悪い店だ」
「店じゃねぇよ」
 渋々健吾が台所に向かう。
「いいの? 勝手にやろうとしてるけど……」
「いいんだよ。アイツは春香と同じくらいこの家来てるから親も何も言わねぇんだ」
「ふ〜ん……」

「お〜い!! 飲みもんあったぞ〜!!」
 キッチンから健吾が大声を上げる。
「じゃあ、それごと持ってきてくれ!!」
「OK!!」

ドタドタドタッ
「あ〜!! それあたしの!!」
 どうやら千夏の私物に手をつけてしまったらしい。
「ゆ、雄二〜。ちょっと頼む〜!!」
 早速、健吾からのヘルプだ。
「悪ぃ、ちょっと待っててくれ」
「う、うん」
 キッチンの近くまで行くと健吾と千夏が言い合っていた。

「な、頼む。これからたくさん来るんだから」
「ダメ!! 絶対ダメ!!」
 千夏が健吾からペットボトルを死守していた。
「ほら、ここにもちゃんと名前書いてあるでしょ!!」
 ペットボトルのキャップに書いてある名前を見せる。
「んなもん気づくかよ……」

「千夏、俺からも頼むよ」
「お、お兄ちゃん……」
「帰ってきたら新しいの買うから。な?」
「……わかった。絶対に買ってよ?」
「絶対買う。約束だ」
「うん」
 こうして飲み物を獲得することに成功した。
 
ピーンポーン

「おっと客だ。行ってくる」
「俺は先に部屋に戻ってるぞ」
「コップ8つ持って行け。御盆はキッチンにあるから」
「了解」

 玄関に向かう。
 扉を開けると智樹と田村だった。
「おはよう、雄二」
「おっす」
 それぞれ朝の挨拶。
「みんな待ってるぞ。部屋にあがって待っててくれ」
「そんなに遅かった?」
 現在時刻は7時30分。
「いや、今部屋にいる奴等が早すぎただけだ」
 特に春香がな……。

 あとは結城だけか……。
 智樹たちに続いて部屋に入る。
「何だ春香はまだ寝てんのか?」
「俺達には起こせんよ。な?」
 健吾が有香に言い、有香も同感と頷く。
「何でここで寝てるの?」
 智樹の純粋な好奇心が俺には痛い。
「聞くな。悲しくなってくる」
 俺のプライベート空間が崩壊し安眠妨害をされた。

「井上さん何時に来たの?」
 !!?
 鋭い。鋭すぎるぞ智樹……。
「…………」
 言えない。午前4時なんて口が裂けても言えない。
 不法侵入されたなんて、春香のためにも言えない。
「分かったよ。もういい」
 智樹がこう言ってくれなければ俺は奇声を発し、窓からダイブしていたかもしれない。

「とりあえず、ベッドに運ぶか……」
 俺は春香を抱えてベッドに運んでやった。
 布団をかけて、はい、どうぞお休みなさいませ。

ピッピッピ ピッピッピ ピッピッピッピッピッピッピ

「雄二、携帯鳴ってんぞ」
「あいよ」
 健吾の投げてきた携帯をキャッチ。
 液晶画面には知らない番号が表示されていた。
「はい、もしもし」
 とりあえずとってみた。

「あ、藤木君?」
「結城か? 何でこの番号知ってんだ?」
「え〜? 春香に聞いたけど?」
「マジ……?」
「全員知ってるわよ。今日のメンバー」
「は!?」
 俺はここにいる全員の顔を見た。
 俺の番号を知らないのは……有香だけか。
「斉藤さんも春香に俺の番号聞いたのか?」
「う、うん。聞いたけど……」
 コノアマ、イチドコロシテヤロウカ……
 安らかに眠る春香を見て思った。

「で、何の用だ?」
「今、全員集まってる?」
「集まってる。あとは結城だけだぞ」
「了解、すぐ行くわ」
「っていうか早く来い」
「はいは〜い」

ブツッ
プープープー

 切りやがった。
「すぐ来るってさ」
 
ピーンポーン
「早っ!!」
 玄関まで猛ダッシュ。
「おまえなぁ、家の前で電話すんな!!」
「連絡先の確認をしただけよ……」
「もういい、あがれ。みんな待ってるから」
「おっ邪魔しま〜す」
 今日の結城はやけにハイだなぁ……。
 ま、旅行だから仕方ないか。


 全員集まったところで一つ問題が……
「さぁて……コレどうしようか」
 コレとは当然、春香のことだ。
 俺的には置いてってもいいんだが後が怖いので起こさねばならない。
「いつも通りお前が起こせよ」
「そうよね。藤木君が一番よね」
「雄二、よろしくね」
 健吾、結城、智樹の三連コンボに俺はやられた。
「……しょうがねぇなぁ」
 渋々、春香に近づく

「お〜い、起きろ〜」
 
ゆさゆさゆさ

「出発だぞ〜。リゾラン行くんだろ〜?」

ゆっさゆっさゆっさ

 やっぱアレをやるのか?
 やらねば起きないのか?
 OK、やってやろうではないか。
 
ヒゴロノウラミ、オモイシレ!!

「起きろ!! このクソアマがぁ!!!」

ドゴスッ!!
「ぐふっ」
 踵落としの礼は踵落としで返す。

「起きろ、全員集合したぞ」
「我の眠りを妨げるのは誰だぁ〜」
「魔王ごっこは後にしろ。お前、旅行の企画者だろうが」
「大丈夫。準備はすでにできている」

プップー!!
「来たようだな……全員乗車せよ」
「く、車かよ……」
 俺は電車で行くものだと思っていた。
 おそらく春香以外の全員がそう思っていたはずだ。

 俺は全員部屋から出たことを確認すると鍵をかけて部屋を出た。
「千夏〜、行くぞ〜」
「は〜い!!」
 しばらくして荷物を持ってやってくる。
「じゃ、行くか」
「うん!!」
 こうして俺は千夏と家を出た。
 この先に何があるのかも知らずに……



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