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 まさか春香が私を誘うとは……
 藤木君とはそれなりに交友があるが春香とはそれほど仲良しというわけではない。
 しかし、このチャンス……逃す手はないわよね。

第79話 For the Journey さやか編 <<さやか>>


 あれ? 有香?
 デパートをうろついている有香を見つけた。
 厳しい表情で水着のコーナーを右往左往していた。
 なるほどね……

 今回の旅行というチャンスを有香も逃す気はないようだ。
「有香。水着の下見?」
「あ、結城さんも?」
 ……この際、私もそういう事にしとこう。
「まぁね。有香も藤木君落とす水着チョイスでしょ?」
「ち、ちち、違うわよ!!」
 まぁ、慌てちゃって……バレバレよ。

「有香。聞いていい?」
 有香の気持ちを知ったときから疑問に思っていたことを聞いてみようと思った。
「なに?」
「何で藤木君なわけ?」
「え?」
 なぜ有香があの藤木雄二を好きになったのかさっぱり分からないのだ。
 容姿は普通、運動はできるが勉強は並以下。
 性格にいたっては変としか言いようのない奴だ。
 去年から友達だが有香が好きになるような要素が見当たらない。
 
 第一接点もほとんどないのだ。
 去年は違うクラスだし、今年同じクラスになったが、まだ半年も経ってない。
「いや、だからどうしてよりにもよってあの藤木雄二なわけ?」
「どうしてって言われても……」
「ああ、もう!! じれったいわね!! どうして藤木君を好きになったんですか!?」
「好きになったらおかしい……かな?」
 はっきり言いたい。おかしいわよ、と。

「そうは言わないけど、藤木君って変じゃない?」
 だが実際は、フォローしながら聞いてしまう。
「変……?」
 本当に分かってないのかこの娘は……
「だってアイツまともな高校生の思考してないわよ?」
「……そう…かな?」
 そうだ。絶対にアイツは変だ。

「あの、とにかく場所移さない? ここじゃちょっと話し辛いし……」
 有香の言い分ももっともだ。店員の視線が痛かった。
 私達は喫茶店に移動した。



 で、喫茶店。私はクリームソーダのアイスをつつきながら聞いた。
「なんで藤木君なわけ? 有香ならもっと上を目指せるのに……」
 有香はB組の中で容姿トップ3に入るほどだ。
 ちなみに私が一位で春香が三位。有香はB組で2番目に可愛いわけだ。
 これは谷口智樹の情報なので間違いない。
「藤木君はいい人だよ?」
「悪い奴じゃないけどさ。アイツ、変人じゃない?」
「あの、私の好きな人を変人扱いしないでほしいんだけど……」
 おっと失言。本音がポロリ。

「なんていうかさ。昔っから私たちとは次元の違うこと考えてそうじゃん」
 アイツの発言力には変な力がある。 
 去年はそれほどクラスに干渉しなかったアイツが
 今年、B組で井上春香と同じクラスになってから人が変わったように……弾けだした。

「それって欠点かな? 私には長所に見えるんだけどな……」
 有香……アンタも変なのか?
「だって、今年の体育大会。去年のアイツなら絶対あんなことしなかったわよ?」
「去年だって問題児だったよ。藤木君」
 私はクラスの中でのアイツしか見ていない。

「例えば、校長室でお昼寝したり、職員室に爆竹放ったり……」
「何で有香が知ってるの?」
 私にはそっちのほうが驚きだ。
 同じクラスだった私が知らないのに違うクラスの何の接点もない有香が知っている。
「有香って……ストーカー?」
「……違うわよ。私も後で知ったのよ」
「へぇ」
 私って噂には敏感な方だと思っていたんだけどな……

「とにかく、いろいろ問題は起こしてたよ。藤木君は去年と変わってないわ」
「ふぅん。でも今年は派手にやってるわよね」
 知らない話は無いくらいだ。同じクラスだということもあるのだろうが……。
「それは……井上さんがいるから」
「春香……ね」
 納得がいってしまう。藤木雄二あるところに井上春香あり。
 これが今年の生徒間で有名な標語だ。
 おかげで藤木君の危険度が跳ね上がった。

「藤木君のいい所はね。ちょっとやそっとじゃ分からないんだよ?」
「そう……なの?」
「うん、一緒にいたら分かると思うわ」
 アイツと一緒にいる=トラブルに巻き込まれる。なんだけど……

「じゃ、旅行の間ずっと一緒にいてみようかな……」
 ぼそりと呟く。
「えっ!?」
 わっ、凄い勢いで有香がこっちを見た。
「い、いい、いや、冗談よ」
「…………」
 怖い。
 有香は藤木君のネタになると怖い。

「ま、まぁ、藤木君もイチコロの水着を選びに行きましょう!!」
「ぶっ!!」
 あ、有香、噴出しちゃった……。
 発言のタイミングが最悪だった。

ギロリ

「ひぃっ」
 怖い、怖いよ〜
 ハンカチで口元をぬぐう。
「結城さん」
「は、はい……」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ
 と、言う音が聞こえてくるような気がする。



「あんまり怒らせないでね。死人は出したくないから」


 私は全力で首を何度も縦に振った。



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