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 リオラートに行ってから僕の生活がどんどん変わっていく。
 決して誘われることのない行事に誘われるほどに……
 そしてそれをまったく驚かずに受け入れている自分がいる。

第77話 For the Journey 智樹編 <<智樹>>


 僕はお金を稼ぐ必要はない。そのくらいのお金なら貯金から下ろせばいい。
 高槻君はコンビニでアルバイトを始め、有香さんは旅行の準備に大忙しだ。
 もうすぐテストだというのに……。
 僕はいつもどおりテスト勉強に励むのであった。

「智樹、放課後空けといてくれ」
 ある日、雄二がいきなりこんなことを言ってきた。
「いいけど……ゲーセンでも行くの?」
 雄二が資金の調達を終えているのを僕は聞いていた。
「ちょっと、な」
 こういう秘密的な言い方をするときは大抵リオラート絡みだ。
 まだ、2ヶ月も経っていないのに何の呼び出しかな……。


「よし、智樹。行くぞ」
「何処へ?」
「行けば分かる」
 そう言って雄二は一人で歩き出した。
「ちょっと待ってよ」
 僕は慌てて雄二の後を追った。


「で、ここに何の用?」
 雄二が連れてきたのは学校の裏山だった。
「ちょっと訓練でもしねぇか、と思ってな」
「訓練?」
「戦闘の訓練だよ。いつまでも神無に頼ってばかりじゃいられねぇだろ?」
 そりゃそうだが、いきなり言われても困る。
 第一、服装が制服のままだ。
「大丈夫。そんなに時間はとらせねぇからよ」
「この格好で運動するのかい?」
「大丈夫だって、俺に抜かりはねぇよ。……じゃ、レナ、始めてくれ」
 そう言ったところで雄二の小指に指輪がはまっているのに気がついた。
「……なるほどね」
 確かに時間はまったくかからないね。地球上では……
 光に包まれながらそう思った。


「じゃ、まず軽くやってみるか」
 エリスに見つからないように、村から離れて召喚された僕達。
 こっそりと家で服を着替え、旅から帰ってきたようにエリスと接し、平原へ移動した。
「僕はそういう経験まったくないんだけど……」
「大丈夫。簡単だから」
 訓練に簡単も何もあったもんじゃないと思うんだけど……
「んじゃ、頼むわ」
 後ろに控えるレナさんとエリスに指示を出す。

「了解よ。ごめんねトモキ」
「いいんですか?本当に……」
 女性陣の一言。いったい何をしようというのだろう……。
「じゃ、よ〜い、はじめっ!!」

ヒュン

「うわっ」
 エリスがいきなり石を投げてきた。
「何するんだよっ!!」
「ごめんね。トモキの為だってユージが言うから…さっ」
 喋りながら石を投げてくる。
「すみません。トモキさん」
 この行為がどうやったら僕のためになるんだよ!!
「しっかり避けろよ〜」
 雄二……。これが訓練? ただの私刑にしか見えないよ!!

ガッ
「いたっ」

右肩に石が当たる。
「しっかり見ろ。避けれるもんも避けれなくなるぞ」
「無茶言わないでよっ!! あいたっ」
 2つ同時に飛んでくる石を見て避けるなんて僕にはかなりの難易度だ。
 1つ避けるのが精一杯だ。
「か、『神無』」
 たまらず神無を呼び出す。
「コラァ!! 神無を呼ぶなぁ!! 怪我したら俺が治してやるから」
 無茶苦茶だ!!

「ええいっ、後で絶対なんか奢ってもらうからね!! 神無、能力停止!!」
『よろしいのですか? かなり理不尽なのですが……』
(僕もそう思うけどね!!)
 石を神無で弾きながら答える。
 その後、僕は無数の石つぶてにボロボロにされた……。


「ありがとな。ご協力感謝する」
「いえ、気にしないでください」
「あたしもちょっとストレス解消になったからいいけどね」
 エリス……僕はストレスの捌け口じゃないよ……。
「じゃ、<<風よ、彼の者に安らかな眠りを与えよ>>」
 エリスを眠らせたあと、着替えを済ませ僕たちは地球に帰還した。

「これ、絶対訓練じゃないよ」
「そうか? 俺は春香にこれで鍛えられたんだけどなぁ……」
 井上さんの訓練方法を僕にもやったのか……
 帰り道、雄二にコロッケを奢ってもらった。
「まぁ、ちょっとは避けれるようになったからいいじゃねぇか」
「……まぁね」
 確かにそうだが納得できないのは僕だけだろうか……
「受けるダメージが減るから消費精神力が減るぞ」
「訓練なんて言うから組み手とかやるのかと思ったんだけどね」
「そういうのは無理だ。俺、武道の経験はないからな」
「けど、喧嘩……できるじゃないか」
 何回も不良を一掃したという情報が入っていた。
「あれは我流だ。我流は我流でも井上流格闘術だけどな」
「井上流?」
「春香の自称格闘術だ。強制的に学ばされてな」
 雄二の強さは井上さんの影響だったのか……

「俺には正式に習ったものなんかねぇよ。風華流双剣術も我流みたいなもんだし」
「風華流双剣術……」
「それは俺が名付けた。アイツの剣術って結構使えるんだよ」
「ふ〜ん」
「俺が学びたいと思って学んだものなんか一つもねぇ。全部成り行きだ」
 成り行きで学んでしまうのもすごいと思うが……

「ところで智樹。今回の旅行……誰が来るか知ってるか?」
「ん、雄二は知らないの?」
「アイツ、電話即切りしたからな」
 僕はその翌日、誘われたB組メンバーを把握したが……
「まず、高槻君は知ってるね。斉藤さんと結城さん。あと、田村君だね」
「すると合計……八人か。大規模だな」
「八人?」
「男が俺達と健吾と田村だろ。女が春香に有香に結城、で千夏で八人」
「千夏っていうと雄二の妹さん?」
「ああ、知ってたのか。春香につれてこいと言われてな」
 雄二の妹の存在は知っている。名前も年齢も……
 どうやって調べたかは企業秘密だ。

「でも、どうも田村君は一泊だと思ってるらしいよ」
「アイツは春香が呼んだピエロ役だからな。可哀想に……」
 ピエロ役……。
 僕は田村君に同情した。可哀想に……
「言っとくが密告なんか考えないほうがいいぞ」
「分かってるよ」
 僕だって自分が大事だ。わざわざ地雷を踏むようなことはしない。
 可哀想に思うが田村君には思う存分ピエロを演じてもらおう。

 やがて、雄二と別れる交差点へやってきた。
「さて、今日の訓練。絶対いつかお前の役に立つよ」
「そうだといいけどね」

「……お前、エリス守ってやれよ」
「へ?」
「俺よりお前が適任だ。じゃあな」
 雄二は言うだけ言って走っていった。

「まったく……なんなんだよ」
 
 雄二に言われなくたって守りたいと思えば誰でも守るよ。
 仲間なら当然のことじゃないか……



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