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 まったく春香の奴、友達同士の旅行になんで妹持参やねん
 俺、今回も苦労しそうだなぁ
 さて、金の当てはあるにはあるが……

第75話 For the Journey 雄二編 <<雄二>>


「なぁ、ナツ」
「なに?お兄ちゃん」
 俺は部屋で漫画を読んでいる千夏に声をかけた。
 コイツ……喜んで来るんだろうな……。

「夏休みだけどさ。俺の友達とリゾラン行くか?」
「えっ、本当?連れてってくれるの?」
 デスペナルティは勘弁だからな……。
「ああ、春香も来るぞ」
「やったぁ!!」
 喜びのあまりぴょんぴょん飛び跳ねている。
 俺達の旅行がただの旅行になるわけねぇのに……。

「言っとくが相当の度胸が必要だぞ」
「なんで?」
 聞くな。俺が知りたい。
「……とにかく必要なんだよ」
「ふぅん。ま、いっか」
 この、お気楽娘め。

ピッピッピ ピッピッピ ピッピッピッピッピッピッピ

 部屋に三、三、七拍子が流れる。俺の着メロだ。
 ん? 健吾が何のようだ?
「あい、こちら少佐」
「井上からなんか聞いてねぇか? お前に聞けって言われたんだが……」
 ああ、コイツも誘われたんだな……可哀想に。
「夏休みにリゾランに行くんだ。少なくとも二泊はするだろうから金貯めとけ」

「アイツの暴走的な行動はどうにかならんのか?」
「なれば俺の学校生活はとっくに平和になってる」
「だよな……」
 アイツはそういう奴だ。もう諦めも十年近く前についている。

「仕方ねぇな。短期バイトでもして金つくっとく」
「期末テストが控えてるときに大変だな」
「お前は大丈夫なのか?」
「ちょっと秘策があるからな」
 とびっきりの秘策がな……。
「羨ましいこって。じゃ、これにて」
「うい」

ブツッ

ピッピッピ ピッピッピ ピッピッピッピッピッピッピ

 切ったとたんに電話がかかってきた。
 相手は智樹。智樹も誘われたか……。
「あいよ」
「僕も旅行に誘われたんだけど……」
「ご愁傷様。相応の覚悟はしとけよ」
「……やっぱり?」
 当然だろ。井上企画の旅行だぞ?

「向こうの世界と変わらないね。ある意味」
「ああ、まったくだ」
 しかも地球だから、なおさら性質が悪い。

「これからは僕もどんどん巻き込まれていくんだろうなぁ」
「すまん、俺のせいだ」
「そんなつもりで言ったんじゃないよ」
「わかってる」
 お前は本気でそんな嫌味を言う奴じゃねぇよ。

「詳しい話、まったく聞いてないんだけど」
「ああ、おそらく二泊くらいするから3万くらい用意しといた方がいいぞ」
「了解」
「じゃ、頑張ってな」
「うん、雄二もね」
「ああ、じゃあな」

ブツッ

 春香はいいよな。金持ってるからこんな計画立てれるし……
 奴は中学の頃、宝くじを当てている。1000万だ。
 家族に半分渡し、半分を自分の隠し口座に放り込んだ。
 500万を持つ高校生はかなり珍しいだろう……

 余談になるが俺は当選金が来た次の日に100万円の札束で殴られた。
 100万で殴られる男子中学生もレアだろう……

「二泊っつうと二人で6万くらいか?」
 なんとかなるだろ……。
 そんなことよりナツの方が心配だ。
 楽しい旅行になると信じて疑っていない。
 まだ中学生の千夏にとんでもない思い出ができること必至だ。
 スムーズに旅行を進めるよう努力しよう……。

「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん? 何だ?」
「お兄ちゃんの友達、何人くらい来るのかなぁ」
「知らん」
 すべては春香の決定次第だ。
 奴が100人と言えば100人が参加することになる。
「たぶん、5、6人じゃねぇか?」
「ふぅん。あたし大丈夫かなぁ」
「何が?」
「中学生、あたしだけなんでしょ? ちゃんと話とかできるかなぁ」
 そう思うなら春香に断りの電話を入れてくれ妹よ……。
「大丈夫だと思うぞ。みんなノリがいいからな」
「そっか」
 それでも俺はデスペナルティが怖い。許せ、千夏……。
「ま、でも、いざとなったらお兄ちゃんがいてくれるから大丈夫だよね」
 悪い。お前を予想されうる大波乱から守りきる自信ないです……。
「あ、ああ」
 それでも俺はこう答えるしかなかった。



 その夜、俺は親父に掛け合うことにした。
「なぁ、親父」
「ん? どうした?」
「頼みがあるんだが……」
「何だ改まって」
「金くれ。6万」
「6万!? なめんなよ。俺の小遣いの倍額じゃねぇか」
「旅行行くんだよ。千夏と俺の分で6万」
「もっと安いとこ行け!!」
 ふん、否定されることなんざ想定済みだ。



「下駄箱にある茶封筒の存在を母さんに知らせてもいいんだが?」
「!!? バカッ、声が大きい!!」
 その後、声を潜めて
「何故その存在を知っている……」
「偶然見つけたんだよ。二重底とは考えましたなぁ……」
 下駄箱の底板がはずれ、中に厚い茶封筒があるのを俺は偶然発見していた。

「あれを知られるとどうなるかなぁ……。まぁ、まず没収だろうな」
「お、お前、親を脅すのか?」
「脅すなんて人聞きの悪い……。口止め料ですよ」
「……お前、ろくな大人にならんぞ」
 アンタの息子だろ……。

「あ、ちなみにもう下駄箱にはねぇぞ。俺が隠した」
 回収なんかさせるもんか。
「……どこに隠した?」
「6万」
「分かったから。で、どこだ?」
「後で渡すよ。よかったな、全部とられるよりマシだろ?」
「…………」

 その後、俺は二人分の旅行代金6万円を確保した。
 まぁ、これに俺の貯金ちょこっと継ぎ足せばなんとかなるだろ……



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