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 長かった旅も終盤になり、いよいよ僕たちも地球に帰る日が近づいてきた。
 地球に帰ってすぐに宴会が再開されるとなると心の準備が必要だ。
 まるで何事も無かったように振舞わなければ……

第73話 乾杯 <<智樹>>


 ジタルでまた同じ宿をとり、同じ部屋で雄二と話す。
「明日には帰るんだよね」
「そうだな」
「地球では、まだ宴会の真っ最中なんだよね」
「ああ」
 シア村への帰還が僕達にとって地球へ帰るときだ。

「何か考え事?」
 どうも雄二の受け答えは適当である。
「ん、じゃじゃ馬の対応について、ちょっとな……」
「エリスの?」
「アイツにばれないように、どうやって地球に帰るか考えてる」
 僕達が異世界の人間だということはレナさん以外に知られてはならない。
 けど、エリスになら知られても大丈夫だと思った。
「別にばれてもいいんじゃないの?」
「……ばれたらアイツは間違いなく地球に来るぞ」
「そうだね……」
 あの子の性格で地球に来ないわけがない。

「と、いうわけで今回は<春風>で眠らせることにした」
「なんだ。いい案が出てるじゃない」
「俺は次回からのことを考えてんだよ」
 次回といっても次いつここに来るかも分かっていない。
「レナさんには旅に出たってことにしてもらうにしても召還する時のことを考えなきゃね……」
 何とか目撃されないように世界の行き来をしなくてはならない。
 やれやれ、厄介な問題を抱えたなぁ。

「さすがに毎回眠らせるわけにはいかないだろ?」
「だね。ちょっと僕も考えてみる」
「ああ、頼む」
 ま、時間はたっぷりあるし、暇なときにでも考えとこ……

「あ、雄二。お願いがあるんだけど……」
「ん?何だ?」
「<春風>。僕に使ってくれない?睡眠のリズム狂っちゃってるからさ」
 夜になっているというのに僕はまったく眠くなかった。
「ああ、そうだった。<<『風華』の主が命ずる。風よ、彼の者に安らかな眠りを与えよ>>」
 こうして僕は眠りにつくことができた。


 翌日、僕達はシア村に帰ってきた。
「くそぅ、全然懐かしくねぇ……」
 雄二が呟くように言う。
「そう?僕は結構懐かしく思うけど」
「お前等はそうだろうよ」
 ?
 意味分かんないよ。雄二……。

「どう?初めて見るシア村は」
「……ど田舎ね」
 エリスの感想はこうだった。
「けど、いい所だよ」
「こんな所であのプーチ酒が造られているとは思わなかったわ」
 エリスもシア産のプーチ酒のことは知っていたのだろう。
「でも、この村はもっと発展することができると思うよ」
「そうね。もっと特産物をアピールすればいいのに」
 同感だ。
「おいしいプーチを育てるためには自然が必要なんですよ」
 僕たちの会話にレナさんが解説してくれた。
「ふ〜ん。わざと村で留めてるわけね」
 街と呼ばれるくらいに発展させることができるが、あえてそれをしないわけか……

「じゃ、帰ろうぜ」
 やっぱり家があるのはいい。
 自分たちの帰る場所があるのは正直嬉しいものだ。
「夜まで自由行動な」
「OK。その前に雄二、ベッド、運ばなきゃね」
「……そうだったな。またかよ……」
 僕達はエリスのためにベッドを運ぶことになった。



「よし、準備はできたか?」
「うん、あとは着替えるだけだよ」
「僕も準備OKいつでもいけるよ」
 と、言っても帰る準備なんてほとんどないけどね。
「じゃ、アイツ眠らせてくる」
 雄二のセリフがなんだか変に聞こえた。


「じゃあ、レナさん。辛いかもしれないけど頑張って」
「はい、次回までには楽に呼べるようにしておきたいですね」
 召喚時の地球の私服に着替え、あとは帰るだけだ。
「レナ、今回も楽しかったぞ」
「またね。レナさん」
「はい、ユージさん、ユカさん。トモキさんもお元気で」


 そして僕達は旅館<<湊宿>>の廊下に戻ってきた。
「今回も大波乱だったな」
「そうだね」
 有香さんの乱入、盗賊との闘い、エリスとの出会い。
 大波乱と言うに相応しい冒険だった。
「席に戻りましょ。みんなが怪しむわ」
 さすが有香さん。切り替えが早い。
「そうだな、斉藤さん」
「うん、藤木君」
 呼び方もきちんと戻し、何事も無かったように……
 誰も何も言わなくてもそのことを理解していた。
 
 その後、たいして怪しまれることなく席に戻った。
「おい、智樹。ちょっと来い」
「ん?何?」
 雄二達の席に行くとグラスを渡された。
「どうしたの?」
「はい、斉藤さんも」
「な、何?」
 有香さんは声をかけられたことに驚きながらもグラスを受け取る。

「じゃ、今回もいろいろあったけど無事に終わったってことで」
 なるほどね……
 雄二のやりたいことが分かった。有香さんも理解したみたいだ。


「「「 乾杯!! 」」」


 こうして僕の二度目の冒険は終わった。



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