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 この男はいきなり何を言い出すのだろう。
 やはり到底理解できそうもない。
 あのときのあの態度が嘘のように思えてきた。

第72話 馬車の中では <<エリス>>


 窓から景色を見ているだけでもまったく飽きない。
 こんなに新鮮な世界が広がっているというのに、この男は……
「暇すぎる」
 少しは黙って景色でも見ていればいいのに……
 ユージは5分に一度はこのセリフを吐いていた。
 まぁ普通の人にとってはこの景色はたいして珍しいものではないのだろう。
 かといって邪魔なものは邪魔だ。
「暇なら寝てなさいよ」
「眠れるか。昨日ばっちり寝てるんだぞ」
 そんなことあたしの知ったことか。

「あ〜、モンスターでもこねぇかなぁ」
 ついに化け物にまで暇潰しの希望を持ち始めた。
「だめだよ雄二君。冗談でもそんなこと言っちゃ」
 ユカに窘められている。
「だって暇すぎるぞ」
「じ、じゃあ、なんかお話しよ」
「お話……ねぇ……」
 ユカ達の会話を聞きながら視線は窓の外だ。
「そうだ、自己紹介とか、ね?」
「自己紹介っていまさら紹介することもねぇぞ」
「エリスのことほとんど知らないし、エリスに私たちのこと知ってほしいでしょ?」
「……悪いけど、別に知りたくないし知ってほしくないぞ」
 同感だ。ユージのことを知っても何の得にもなりゃしない。
「え……そ、そう……」
 ユカも可哀想に。フォローの方法がまずかったね。
「そう落ち込むな。仲間なんだから自己紹介なんかしなくてもそのうち分かるだろ?」
「う、うん。そうだね」
 本当にそのうちユージのことが分かるのだろうか。この謎の多い男のことが……


「レナ〜。運転手代わってくれ〜」
 ついに暇に耐えられなくなったか……
 ユージは運転することで暇を解消することにしたようだ。
「落ち着きのない奴……」
「それが雄二君だから……」
 あたしの呟きにユカが返事を返した。よく聞こえたわね……
「レナさん。お疲れ様」
 ユージと入れ替わりでレナが馬車の中にやってくる。
「トモキさんはまだ寝てるんですね」
「うん、徹夜だからね」
 私もそんなに寝ていないがトモキの話を聞いてるうちに眠ってしまった。
「エリス、夜に智樹君と何話してたの?」
「たいした話じゃないわよ。トモキも戦うって話」
「戦う? 智樹君が?」
「そ、雄二ばかりに任せてたら駄目だって」
「そう、そんなことを……」

「だから負けそうになったらあたしが守ってあげるって言ったの」
「それは……トモキさん、喜べないと思いますよ」
「へ? どして?」
 レナが会話に参加してきた。
「エリスにまもってもらう智樹君。格好いいと思う?」
「……思わないわね」
「智樹君も強くなって守ってあげたいんだよ。きっと」
「ふ〜ん。じゃ、トモキに守ってもらおっかな」
 ちょっと頼りないナイトだけどね。
「そうしたほうが喜んでくれますよ。トモキさん」
 あたし、晃斥の力があれば守ってもらう必要ないんじゃないの?
 でも、ま、いっか。守りたいって言うなら素直に守られとこ……


「おはよう。みんな」
 しばらくしてトモキが起きた。
「雄二は運転?」
「そ、暇に耐え切れずに運転でなんとか紛らわそうと努力中」
「……なるほどね」
 状況が認識できたようだ。
「じゃ、僕も運転席にいくよ」
「何で? 別に運転を代わる必要もないのに」
「ちょっとね」
 訳分かんない……。
 結局、トモキは運転席に行ってしまった。

しばらく何の会話もないなぁと思っていたらユカがうたた寝していた。
「トモキが起きたと思ったら今度はユカ?」
「いいじゃないですか。ユカさんもお疲れなんですよ」
 馬車に乗ってただけじゃん……
 レナがユカに毛布をかけてあげていた。

「気づかなかったかもしれませんが、ユカさん、後ろに気を配ってましたよ」
「え?どういうこと?」
「後ろからモンスターの襲撃があった場合、ユージさん達は気づきませんからね」
 あ、なるほど。
 まったくユカのそぶりに気がつかなかった。
「まぁ、街道上ではそんなにモンスターは出てこないんですけどね」
「そうなの?」
「モンスターが頻繁に出る場所に街道は作られませんよ」
 そりゃそうだ。街道にはそんな意味もあるのか……

「ジタルに着くぞ。降りる準備しとけよ!!」
 運転席からユージが言ってきた。
 さて、あたしも準備をしなくちゃ……



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