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 帰ってきた雄二は疲れ果てていた。
 僕も今後の戦闘のために訓練をしたほうがいいのだろうか
 しかし、どのような訓練をしたらいいのか僕は分からない

第70話 一夜 <<智樹>>


「ごちそうさま」
 エリスの作る料理は本当に簡単なものだったが味はよかった。
「片付けぐらいトモキがやってよね」
「わかったよ」
 まぁ、食べるだけというのは不公平だよね。
 雄二もレナさんもダウンしてるし……
 僕は後片付けに取り掛かった。

「『神無』」
(ねえ、神無。僕はどうしたら強くなれるかな?)
『強くなりたいのですか?』
(いつまでも雄二に戦闘を任せてちゃ駄目だ。そう言ったのは神無じゃないか)
『ですが智樹様は……』
(僕が戦闘に向いてないのは分かってるよ。でもサポートぐらいできるだろう?)
『……それならば弓を扱ってはいかがでしょうか』
(弓?やったことないよ?)
『智樹様の計算能力があればすぐに扱えますよ。それに敵との距離もとれます』
 弓か……。シア村に帰ったら練習してみようかな。

 一通り片づけを終えた僕は馬車に戻って野営の準備を整えた。
 僕たちは外、女性は馬車の中で寝ることになっている。
 そして雄二はダウンしている。僕は必然的に見張りになる。
 今夜は徹夜だな……
 夜はまだまだ長かった。

『智樹様。大丈夫ですか?』
 正直眠い。だが僕が見張っていないと全員が危険な目にあうかもしれない。
(大丈夫。徹夜くらい余裕だよ)
『無理はなさらないでくださいね』
(分かってるよ。ありがとう、神無)
 神無は心配性だな。
 火を絶やさないように、用意してある薪を適度に入れ続ける。
 雄二はすでにこの世界の布製寝袋で眠っている。
 真っ暗な闇の世界の中ここだけがオレンジ色に光っている。
(テレビで見たことあったけど、こうして火を見つめているのも悪くないね)
『あまり目によくありませんよ?』
(じゃあ、目へのダメージを無くしてくれる?)
『かしこまりました』
 これで目への微弱なダメージは無くなる。

「ご苦労様」
 馬車から降りてきたエリスが背後から僕に言った。
「まだ起きてるの?」
「床が固くて眠れないのよ」
 これだからお姫様は……
「じゃあ、見張り代わる?」
「冗談。徹夜なんて肌に悪すぎるわ」
 代わってくれるとは最初から思ってない。
「隣いい?」
「え?うん」
 僕は丸太の即席椅子のスペースを半分譲った。

「今日一日だけでも驚きの連続だわ」
「そう?そんなに変わった事はないと思うけど……」
「今日初めて見たのよ。モンスター」
「へぇ、その割には冷静な対応……でもないか」
 あの暴走を冷静だという人がいれば僕は精神病院に行くことをお勧めしたい。
「それに馬車の窓から見える景色も馬車の運転も、こうして野宿するのも全てが……初めて」
 僕が見ているこの世界はエリスにとっては新しく開けた世界なのだろう。

「エリス、君はまだまだこの世界で体験することがたくさんあるよ」
「楽しいことばかりじゃなく辛いことも体験することになるでしょうね」
 エリスは分かっているようだ。楽しいことばかりじゃないことを……
 でもなるべく僕は楽しいことを見せて、教えてあげたいと思う。

「私達が苦労しているというのにコイツは……」
 コイツとは言うまでもないと思うが雄二のことだ。
 それと聞き捨てならないことが一つ、『私達』って何だい?
「雄二は訓練の直後だからね。疲れてるんだよ」
「今寝てるときに襲われたらコイツの苦労は無駄に終わるわね」
 それを言っちゃおしまいじゃないか?
「……僕が戦うから大丈夫だよ」
「トモキって戦えるの?」
「さぁね。でも、雄二に全てを任せていたら雄二はいつ休むんだい?」
 僕は雄二の苦労を少しは身をもって知る必要がある。見張りもその一環だ。
「そりゃあ、そうだけど……」
「僕だって戦うことはできるよ。勝ち負けは別としてね」
「ふ〜ん、でも大丈夫。負けそうになったらあたしが助けてあげるから」
「…………」
 年下の女の子に助けてあげるといわれて喜ぶ男がいるのだろうか……
 僕は心の中でかなり落ち込んだ。

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 一通り話し終わった後、話題もなくなりパチパチと焚き火の音だけがしていた。

「トモキ」
「なに?」
「なんか話して」
「話?」
「何でもいいからさ。今までの旅の話とかさ」
 旅といっても僕はこれが初めての旅のようなものだ。
 だが名目上は旅人となっているので、何かを話さなくてはならない。

「そうだなぁ。何の話をしようか……」
(どうしよっか。神無)
 エリスと会話をしつつ、神無に相談する。
『そうですね……地球の話をこちらの事のように脚色するのはどうでしょう』
(地球で旅なんかする機会はないじゃないか)
『架空のお話でもいいのではありませんか?』
 架空の話といえば童話……昔話……。
 桃太郎でいっか……。

「これは僕が昔いた村に伝わる伝承なんだけど」
「うんうん」

「昔々あるところに……」
 こうして僕は桃太郎をリオラート風に脚色して話し始めた。




「そして、オーガから宝を取り返した若者は村に帰って勇者と崇められたんだ」
「…………」
「エリス?」
「…………」
 寝てるよ……。
 本当に子供みたいだな……。

「ふぅ」
『お疲れ様でした。とてもよくできていたと思います』
 僕にはとてもそうは思えない。
 桃太郎の名前を出すわけにいかないから最後まで若者としか言ってないし
 その若者はいつの間にかモンスター使いになっていた。
 第一、モンスターが団子一つで仲間になるとは到底思えない。

『よく眠ってますよ』
(だね)
 座ったままの体勢でエリスは眠っていた。
 よくその体勢で眠れるもんだ……。
 僕は自分が羽織っていた毛布をエリスにかけてあげた。
「う〜ん……」
「うわっ!」
 エリスがこっちに傾いてきた。僕としては退くわけにもいかなかった。
 その結果、エリスは僕に寄りかかって眠ることとなった。

(ど、どうしよう……)
『あまり動かないほうがよろしいかと』
(かといってこの状態は……)
『起こしてしまいますよ?』
 せっかく眠ることができたのに起こすのも可哀想だ。
 僕はこのままの体勢でいることにした。


「ふぅ、まったくしょうがないな……」
『そうですね』
 神無の声がどこか嬉しそうに聞こえた。



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