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 最近訓練をサボりすぎている。
 倒れていた日数分も今日は真面目にやっておこう。
 さぁ、風華から言われる、今日の訓練メニューは……

第69話 走れ!! 雄二 <<雄二>>


『走りなさい』
 風華の第一声がこれだった。
(どこ行けっちゅうねん)
『そうねぇ……。シア村まで行って帰ってきなさい』
「シア村!?」
 馬鹿言ってんじゃねぇぞ……こっから何キロあると思ってんだよ。
 え〜っと、軽く250キロってとこか?

『<疾風>の精神力消耗量をマスターしてもらうわ』
 なんとなくで使ってるから消耗量なんか分かんねぇ。

『もう電池切れで二度と倒れたくないでしょ?』
(電池切れ言うな。俺はミニ四駆か)
 確かに精神力切れで倒れるのは勘弁願いたい。
 だからといって500キロも走るのは……。

『制限時間は日没まで。いい?』
 その上、制限時間までつけられたら、それなりのペースをキープしなければならない。
 日没……あとだいたい2時間ちょっとってところか……。

『はい準備運動して〜』
(いらねぇよ)
『だめ。途中で足痛めたら帰ってこれなくなるからね』
(治せばいいじゃねぇか)
『無駄な精神力使いたいの?』
「さぁて、準備運動はしっかりしないとな〜」
 俺は膝の屈伸から準備運動を始めた。

 500キロを2時間ということは……平均時速250キロ……。
 ま、精神力が大丈夫なら何とかなるな。

『じゃ、逝ってみよ〜』
(それは俺に死ねと?)
『冗談よ。はい、出発!!』
(へいへいほ〜)
 俺は街道を走りだした。


『ただ走るだけじゃなくて、どのスピードでどのくらいの精神力を使うのか理解しなさい』
「そんなこと言われてもなぁ……」
 スピードを上げると体力じゃない何かが疲れる。
 その疲れが精神力なのだろうけど、その度合いまでは分からない。
『じゃあ、最高速度を出してそれを100%としましょうか』
(OK!!)

 一気にMAXスピードまで上げる。
 周囲の景色が線になる。俺は今風になっている!!

「もう無理」
 最大速度は1秒ももたない。
『はい、今の精神力の減りを理解したわね?』
 できません……。
 分かったのは凄く疲れることだけだ。

『じゃあ今の消費量は何%?』
(……10%くらいか?)
『全然違う!!答えは23%!!』
(そんな端数まで分かるかよ!!)
『それでも誤差10%以上は酷すぎよ!!』
(ええい、黙れ黙れぃ!!こういうのは苦手なんだよ!!)
 細かいちまちました作業はイライラする。
『そんなこと知ってるわよ』
 こいつは知ってるくせにやれと言うのか……。

(鬼……鬼女……)
『厳しくしないと特訓にならないでしょ?』
 いつの間にか訓練は特訓へと名を変えていた……。


(なぁ、ジタルで休んでっていいか?)
 視界にジタルの町並みが見えてきたので聞いてみた。
『好きにしなさい。日没までに帰れるんならね』
 超放任主義だった。
(もうちょっとアドバイスとかあるだろ!!このペースなら休んでもいいとかさ!?)
『雄二のために今は鬼になるわ!!』
(俺がありがとう!!とか言って涙流すと思ったら大間違いだぞ!!)
『そんなこと思ってないわよ……』
 くそぅ、休んでいいのかどうなのか分からねぇ……
 
 結局俺は休憩なしでジタルを通過した。
(なぁ、俺の残りの精神力は?余裕ある?)
『さぁね』
(知ってんだろ!?教えろよ!!)
『知ってるけど教えない』
(有香から聞いたぞ!! ウェポンって主の命令は絶対なんだってな?)
『なにそれ?』
(とぼけんな!!壁雲からの情報だ!!)
『ちぇっ、そのとおりよ。で?』
(俺の精神力に余裕はあるか教えろ)
『やだ』
「…………」
 有香、ここに掟破りのウェポンがいるぞ……


「ああ〜、疲れた〜!!シア村着いたぞ〜」
『じゃ、戻って』
(俺って何しに来たんだろ……)
『シア村自体に用はないでしょ。あくまで目的地、折り返し地点よ』
 ここで皆が来るまで待ってようかな……。
『早くしないと皆がモンスターに襲われるわよ〜♪』
(…………)
『ああ、皆強敵にやられちゃうのね。雄二が守りきれなかったせいで……』
 このアマ……。
『そして皆は殺られ際に言うの、「雄二……どこへ行ったの?」と』
「行きゃあいいんだろ!!!」
 おれはUターンしてみんなの元へと走り出した。
 ったく誰かコイツを何とかしてくれ!!

(全然大丈夫なんだけど……)
 自分の精神力なんか分からない。
 今のところ、ちょっとだるい程度でそれほど問題ない。
『そうね。頑張りなさい』
 今日の風華は本当に放任主義だった。
(今思うんだけど、あのじゃじゃ馬のウェポンって無敵じゃねぇの?)
 埒が明かないので違う話を振ってみた。
『そうね……。攻略は難しいけど勝てないわけじゃあないわ』

(あんな能力にどうやって勝つんだよ)
『この世で難しいことほど使用精神力は大きいのよ。レナがいい例でしょ?』
 レナの使用精神力はどれ程のものなのか俺には想像もできない。
 けど一回召喚するたびに疲れきっているのを見ていればきついことは分かる。
『斥力の発生できる時間は無限じゃあないわ。智樹君の攻撃無力化もね』
(そりゃそうだけどさ)
 それまでどうやって相手の攻撃防ぐんだよ。
 ってなんであいつ等と戦う気になってんだよ……。

 
 
 げ、めっちゃキツイ……。
 ラスト20kmが死ぬほどキツイ。
『ほら、どうしたの?』
 こいつ、絶対分かってて放っておいたな……
 なんて主に優しくない奴だ……
『ほらほら、日没が近いわよ〜♪』
 精神力を数回使うことよりも使い続けることのほうが消耗が激しい。
 
 くそったれ、やってやろうじゃねぇか!!
 精神力なんて、ようはやる気の問題だろ?
 減り続けているだけじゃなく回復もしているはずだ。
 ただ回復量より消費量のほうが多いから減っているだけだ。
 じゃあ、回復分を上げてやれば……

 どうやって上げりゃいいんだ?

 やっぱ気合しかねぇよなぁ……
「こ、な、くそーーっ!!」
 これで消費量が減るのか?
『おお、スポ根だねぇ』
 コイツ…絶対……Sだ。……間違いねぇよ。

 
 あ、あとちょっと……。
 スピードアップ!!
 俺は最後の力を振り絞って馬車の近くに転がり込んだ。
「太陽は!?」
 辺りは既に暗い。西のほうを確認する。
『ギリギリね。ま、合格としましょうか』
 太陽は頭をちょっと出しているだけで既に9割方沈んでいた。
「もう立てねぇよ……」
 立つ体力はあるのだが立つ気力がない。
『しばらく休みなさい。お疲れ様』
 俺はそのまま大の字に倒れこんだ。

 もう二度と風華の特訓は受けないでおこうと誓った。



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