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 こんなもんのために旅をして、こんなもんのために死闘を演じたと思うと
 自分のとった行動が馬鹿馬鹿しくなってきた。
 さしずめ、メダルのために倒れた男ってところか……

第64話 じゃじゃ馬 <<雄二>>


「…………」

バタンッ

 ヤツの面を確認して俺は即座に扉を閉めた。

ドンドンドンッ
 室内に強いノックの音が響く

「なんで閉めるのよ!!」
「帰れっ!! なにしに来やがった!!」
 扉を挟んだ攻防。俺は扉を必死になって押している。
 鍵がついていればそんなことをしなくてもよかったのだが……

「入れてあげなよ……」
 トモキめ……俺の気も知らないで……。
「アイツだぞ?厄介事になりそうじゃねぇか」
「でも、いつまでも扉を押してるわけにもいかないだろう?」
 そりゃ、まぁ、そうだけど……

「どうしても入れない気なら、私にも考えがあるわよ?」
 ふん、開けれるもんなら開けてみな。
 小娘程度の力じゃこの守りは崩せん!!

「やばいよ雄二!!」
 トモキが慌てて叫ぶ。
「大丈夫だって、じゃじゃ馬の力じゃどうにもできん」
「忘れてるみたいだけど彼女は男4人を吹っ飛ばしてるんだよ!?」

 …………。
 ワスレテタ…………。

 全力で扉の前から飛び退く。それと同時に扉が勢いよく開いた。

ドカァン!!

 ドアノブが壁にめり込んでる……。
「あ、危ねぇ……」
 ヘッドスライディング後の体勢のままで俺は恐怖を感じた。
「や、やぁ。いらっしゃい」
 トモキは引きつった笑顔でエリスを迎えた。
「さぁて、聞きたいことが山ほどあるんだけど……」
 じりじりとエリスがトモキに迫る。

「この人がエリスさん?」
「お城で会いましたよね」
 盗賊の件で話をするために全員が男部屋に集合していた。
 有香もレナも当然いるわけで……

「……はじめまして♪ エリス・クェーデリアですぅ♪」
「いや、もう本性バレバレだから」
 モードチェンジしても無駄ッス。
「ちぇ」 
 コイツはそういう奴だったんだな。

 しかもクェーデリアって何よ。
 最初はデリアとか言ってたじゃんよ。
 何?偽名?

 
「で、今度は何の用だ?」
「アンタなんかに用なんて無いわよ。ね、トモキ?」
「え、僕?」
「そそ」
 こりゃめでてぇ、トモキ、リオラートにて恋愛の予感!!

「あっそ、じゃあ俺達は席を外すか」
「そうですね」
 俺達3人はトモキとエリスを残し部屋を出た。

「俺、これからどうしよっかな〜」
 女部屋に入るのも気が引けるし、かといって行くところもない。
「あ、あの雄二君。よ、よよ、よかったら買い物にでも行かない?」
「ん?まぁいいけど……」
 別に用事も無いので有香の誘いに乗ることにした。

「じ、じゃあ行こうよ」
「レナはどうする?」
「い、いえ、私は遠慮しておきます」
 レナの顔はよく見ると少し青白い、気を張って疲れてしまったのかもしれない。

「そうか?じゃ行こうぜ有香」
「う、うん」
 と言ったはいいけど俺ここの地理まったく知らねぇぞ。


「どこ行くんだ?」
「か、買い物?」
「いや、俺に聞かれても……。なんか欲しいもんでもあるのか?」
「…………ない」
 俺もこの世界で欲しいものなんて……今のところ無い。

「トモキ君、エリスさんに好かれちゃったのかな?」
「さぁな」
「もし、トモキ君とエリスさんが結婚しちゃったら…トモキ君、王子様だね」
「そりゃあ、あのじゃじゃ馬にとっちゃ王子様だろうな」
 その前に結婚の話をトモキが断るだろうけどな。
 異界の人間と結婚なんて無理だ。

「…………雄二君。女王様の名前知ってる?」
「そういや聞いてねぇな」
 目覚めた翌日に俺は城に行ったわけでこの国の情勢などは全く知らない。

「ルーシィ・クェーデリアっていうんだよ」
「……すると何か?あのじゃじゃ馬は……」
 セリフの先を予想したように有香が頷く。

「ただのじゃじゃ馬じゃなくて『じゃじゃ馬姫』だったんだな……」
 人間を吹っ飛ばす姫か……お約束っていえばお約束だな。
 ゲームでも大抵姫はおしとやかか無茶苦茶元気だもんな。
 奴は明らかに後者だ。
 それにしてもあのじゃじゃ馬姫に言い寄られるとは
「智樹も災難だな」
「え、なんで?」 
「いや、なんとなくそう思っただけ」
 
 ああ、早いとこ地球に帰って宴会に戻りたいな……。

「なぁ、とりあえずどこか行こうぜ。喫茶店でもどこでもいいからさ」
「そ、そうだね」
 適当な喫茶店を探すため俺達は歩き出した。

「壁雲とは仲良くやってるか?」
 歩きながら話す。
 有香のソウルウェポンのことは盗賊との戦闘時に見ている。
「うん、ちょっと変な気分だけど……」
「それにしてもすげぇよな。あんなバリア張っちまうんだから」
「そんなことないよ」

「お、あそこでいいんじゃねぇか?」
 小さな喫茶店を見つけた俺は有香に聞いてみた。
「私はどこでもいいよ」
「じゃ、決定な」

 店に入って席に座る。
 メニューを見ると見慣れた文字で見慣れないメニューが書かれている。
「そういえば、注文は全部レナに任せてたな……」
「料理名だけじゃなんなのか分かんないもんね……」

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
 まいった。どうしよう……
「俺はあの人が食ってるやつ」
 我ながら凄い注文の仕方だと思うが、文句は言わないでほしい。
「<ぺクール>ですね。そちらのお客様は?」
「わ、私は……この<ヨッテ>ってやつをください」
 有香は味も名前も分からない料理にチャレンジすることを決めたようだ。

「かしこまりました。<ぺクール>と<ヨッテ>が一つずつでよろしいでしょうか」
「はい」
「しばらくお待ちください」
 
 定員が去ったあと
「俺達ここの文化のこと全く知らないよな」
「そ、そうだね。智樹君なら少しは知ってるんだろうな……」
「まったくだ」


「おまたせしました。<ぺクール>と<ヨッテ>です」
「ありがと」
「ごゆっくりどうぞ〜」
 <ぺクール>はカツサンドみたいなもんで肉眼で確認済みだ。
 しかし、この<ヨッテ>とかいう飲み物(飲み物だった)は色がやばそうだ。
「俺、こんな色した飲み物は見たことないぞ」
「う、うん。私も……」
 その色は不透明なスカイブルーだった。

「じゃ、いただきます」
 <ぺクール>は味もカツサンドだった。なかなかうまい。
 有香は<ヨッテ>に口をつけようとはしなかった。
「飲まないのか?」
「ち、ちょっとこれは……」
 飲むのに勇気がいるだろう……
「じゃ、じゃあ、飲むよ?」
「ああ、逝ってこい」
 有香が恐る恐る口につける。

「……おいしい」
「マジで!? 俺にも飲ませろ」
 有香からコップを受け取り飲んでみる。
「う、うめぇ」
「でしょ?」
 なんていうか程よい甘味っていうか……そんなのが口に広がる。
「地球では味わえない飲み物だな」
「うん」
 俺は異世界のジュースに感動した。



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