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 さて、エリス姫が僕なんかに何の用なんだろう。
 厄介事になると雄二がうるさいからなぁ。
 なんだかんだいっても厄介事が好きなくせに……。

第65話 姫の依頼 <<智樹>>


 嫌だなぁ。
 最初に思ったことがこれだった。
 どう考えてもいい話ではなさそうだった。

「それで、一国のお姫様がただの旅人である僕に何の用かな?」
「バレバレってわけね」
「自分で名乗ってたじゃないか。誰でも想像つくと思うけど?」
「ま、そりゃそうね」
 姫様の話となれば、かしこまって聞くのが普通なのだろうが
 僕はエリス姫に対してはこの態度が普通のように思えた。

「それじゃ、いくつかの質問に答えてね」
「なんでさ?」
「いいから答える!!!」
「はいっ!」
 人がいなくなったらこれだもんなぁ。
 
「出身はシア村で間違いない?」
「間違いないよ」

「コブリンの大群を食い止めたのよね?」
「そうだけど……」
 食い止めたのは僕ではなく村人達で、僕はただ戦略を練っただけだ。

「これからどうするの?」
「シア村に帰ると思うよ」
 
「最後の質問。キール盗賊団の一味をやったの…あなた達よね?」
「違うよ」
 冷静に答えられてはいるが心臓はバクバクだ。
「本当に違うの?」
「本当だよ。キール盗賊団なんて今日初めて聞いたよ」
 これは本当だ。盗賊団の名前は初めて聞いた。

「とぼけるつもり? 盗賊団の一人がユージという名前を吐いたんだけど」
「雄二なんて名前どこにでもあるんじゃないの?」
 残念だけど、そんなブラフには引っかからないよ。
 報告があったのはつい2時間ほど前だ。
 そんな短時間で情報が得られるとは考えにくい。

「……嘘をつくのが上手いようね」
「嘘なんかじゃない。本当のことだよ」
「…………」
「…………」
 沈黙の時間が流れる。頭の中では次にどのような手段で口を割らせようか考えているはずだ。
 僕もどんな手段で来ても誤魔化しきる対抗策を考えている。

「逆に聞くけど、僕達がやったとして君に何の関係があるの?」
「ないわね。ただあなた達がどれほど強いのか知りたいだけよ」
「知ってどうするの?」
「……別に」
 形勢逆転だ。このまま一気に攻めてやる!!

「僕達が強かったら君は僕達に何を望むの?」
「!!?」
 エリスさんは目を見開いてこちらを見る。

「君は一国のお姫様だ。強い人なら騎士団の中に山ほどいる。
それでも僕達のところに来た。国にも秘密で何をしようっていうんだい?」
「…………」


「ふぅ、降参。相当の曲者ねトモキって」
「さ、真意を聞こうか」
「あなたにお願いがあるの」
「お願い?」

 
「あたしをこの街から連れ出して」
「……はい?」
 僕は何を言われたのか分からなかった。
「あなたは勲章を貰うほどの人でしょう。それくらいできるわよね?」
 できません。
 僕の戦闘力は平凡です。

「一人で出ればいいじゃないか」
「一応これでも王女だからね。一歩も外にでたことが無いのよ」
「街には自由に出てるじゃないか」

「私はこれまでクェードから出た事がないの。姫だから王女だからってね。
私の力のおかげで街に出ることはできるけど街から出ることは絶対にできない」
「どうして?」
「ソウルウェポンって知ってる?」
「うん」
 知ってるし、僕も持っている。

「『晃斥<こうせき>』」
 彼女はウェポンを呼び出した。
「これが私のソウルウェポン晃斥よ。斥力を操る能力があるの」
 彼女はペンダントを取り出して先に付いた赤い宝石を見せた。
「晃斥、消えて」
 ネックレスの宝石が消えてただのチェーンに戻る。
「これがないと私はただの女の子。
そして私の監視役にはウェポン封じがいる。脱出は不可能になるわ」

「ウェポン封じ?そんなことが可能なの?」
「彼は古代魔法が使えるの。封魂の法って厄介な魔法をね」
「魔法……か」
 ソウルウェポンも万能ではないということか……。


「私はこの小さな世界から出たいの。
城なら姉さんが継ぐし、私は城なんて要らない。
お願い!! 私をこの世界から連れ出して!!」

 困ったことになったな。お姫様の誘拐をしろってことだよね。
 けど……その前に……

「悪いけど、君は2つ間違えていることがあるよ。
1つ目、勲章を貰ったのは村の代表としてだよ。僕達が特別強いわけじゃない」
「そう……でも、できるでしょ!? キール盗賊団を一掃したあなた達なら!!」
 だから僕達じゃないって言ってるのに……いや、僕達だけどさ。
「仮にそうだとして、僕に言うのは間違いだ。パーティの決定権を握ってるのは僕じゃあない」

「え? あなたじゃないの? 一番優秀そうに見えたんだけどな……」
「褒めてもらって嬉しいけど、僕はリーダーなんて向いてないからね」
 僕には参謀がお似合いだ。それでいいとも思ってる。

「じゃあ、誰に言えばいいの?」
「君の嫌いな雄二だよ。説得してみる?」
 リーダーは間違いなく雄二だ。
 レナさんには悪いけど……雄二のほうが向いている。
「うっ……よりによってアイツなの?」
 エリスさんは顔をしかめて考えはじめた。

「……わかった。やってみる」
「僕も協力するよ。大丈夫、雄二なら分かってくれるよ」
 あとは雄二の判断に任せよう。
 僕は僕でこの姫に協力してやればいい。
 雄二がどんな判断を下そうとも……
「うん、お願いね」

「君は悪く言うけど雄二はそんなに酷い奴じゃないよ」
「どこが?」
 うわ、キッパリ言われてしまった。

「そのうち分かるよ」
僕は自信を持ってそう言うことができた。



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