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 俺が目覚めて2日以上眠っていたことを知った。
 今回はさすがに無理をしすぎたようだ。
 だけど……俺はこれっぽっちも後悔はしていない。

第62話 路地裏の少女 <<雄二>>


 俺の身体のことを考えて謁見は明日にすることになった。
 かといって俺は仲間から外出禁止を言い渡されてしまっている。
 はっきり言って暇だった。
「あ〜暇だ〜」
『暇ならお相手しましょうか?』
 倒れたときから風華は出しっぱなしだった。
(いらねぇよ)
『じゃ、お説教などいかが?』
(説教されるようなことしてねぇっつうの)
『皆がどれだけ心配したか分かってて言ってる?』

 確かに皆には心配をかけたようだ。
 そんなことぐらい百も承知だった。
『あたしは目覚めっぱなしだったからね。雄二が倒れてる間、皆の会話も聞いてるわ』
(なんて言ってた?)
『無理しすぎ。これはあたしの意見でもあるわね』
(けど、全員無事に着けたじゃねぇか)
『雄二が無事じゃないでしょうが』
(そりゃ反省してるって)
『最大速度をあんなに使うなんて正気じゃないわ』

 風華の疾風を使った場合、その速度に応じて消費精神力が違う。
(確かにあん時の俺は正気じゃなかったな。なんせキレてたからな)
『だからって、あそこまで力を使う必要はないでしょ?』

(じゃあ聞くけどよ。お前、あいつ等のことを許せるか?)
『……許せるわけ……ないじゃない』
(だろ?じゃあ俺がキレたのも分かってくれるだろ)
『……うん』
(仕方なかったと思って諦めてくれ)

『わかったわ。でも、もう倒れるようなことはしないように自重しなさい』
(あいあいさ〜)
『もう!! ほんとに分かってんの!?』
「風華消えろ」
 もういい、既にやってしまったことはどうしようもない。 


「分かってるよ。二度と倒れてたまるか」
 誰に言うわけでもない、自分に言い聞かせるために呟いた。


 それにしても暇だ。俺は窓から路地を見下ろした。

コンコン

「あいよ〜」
「雄二。調子はどう?」
 智樹が自分の部屋でもあるのに関わらずノックをして入ってきた。
「元気すぎて暇だぞ」
 智樹のほうを見ないで答える。
「早く外に出たいみたいだね」
「いや、そうでもない」

 面白いものが見えた。少女が男に囲まれている。
 本来なら即座に助けに行くのだがあの女の子はそんな心配がなさそうだった。
 4対1にもかかわらずまったく動じた様子は見られない。むしろ余裕にも見える。
「智樹も見るか? ちょっとした見ものだぞ」
「何見てんの?」
「見れば分かる」
 智樹が窓際によってくる。
「大事件じゃないか!!」
「大声出すなよ。ばれるじゃねぇか」
 よく見れば余裕の程が分かるはずだったんだが……
「助けに行かないと」
「いってらっさい」
 彼女に助けは必要ない。
「雄二!! 放っておく気!?」
「落ち着けよ。やばかったらとっくに助けに行ってるっつうの」
「……僕は行くよ。そうは見えないからね」
「あっそ、頑張りな」
 たぶん智樹が到着する頃には終わってる。
 そう思っていると男達が4人同時に殴りかかった。
 前後左右、避けようのない攻撃だった。
 しかしその瞬間、4人同時に吹き飛んだ。まだ触れてもいないのに、だ。

ドォン

 この宿にも一人の男が激突した。
 俺は窓を開けて下にいる女の子に話しかけた。
「強ぇな。嬢ちゃん」
 彼女はキョロキョロと辺りを見回した。
「上だよ上」
 すると上を見上げた。へぇ、なかなか可愛いじゃん。
「見てたんなら助けてよ!!」
「……悪いな。外出禁止くらってんだ」
「何よそれ!! こんなにか弱い女の子なんだからそんなもん無視して助けなさいよ!!」
 どこがか弱いんだよ。完勝じゃねぇか……。
「いつまで見下してんのよ!! ちょっとこっち来なさいよ!!」

 なんかムカつくな……からかうか。 
「足がないから歩けないんだ……」
「えっ、嘘……」
 暗い顔をした俺に彼女の怒りの顔が一気に影を潜めた。
「悪いけど見下されたくなかったらそっちがこっちにきてくれるか?」
「うん、あ、あの、ごめん……」
 うっわ、やべぇ。マジで気にしてる。ばれたら死ぬかもしれん。

「君、大丈夫!!」
 ちょうどいいところに智樹が走ってやってきた。
 かなり必死な様子だ。ご苦労さん。
「よぉ、智樹。もう終わってんぞ」
 智樹は周囲に倒れている男達を見て
「雄二がやったの?」
「そこのじゃじゃ馬がやったんだよ」
「じゃじゃ馬じゃないわよ!!」
「え〜と……何があったの?」
「とりあえず2人とも上がって来いよ。話はそれからでいいだろ」
 ということになった。

 しばらくして

バンッ!!

 物凄い音を立てて扉が開く。
「扉を壊す気か?」
「うるっさい!! シャレにならない大嘘ついて、マジでびびったじゃない!!」

「智樹……喋ったのか……」
「いきなり「彼はどうして足を失ったの?」とか聞かれて困ったよ。
いくらなんでも酷いと思ったからね。そしたらいきなり走り出して」

「お願い、一発だけでもいいから殴らせて」
 拳を握り締めてじりじりと歩いてくる。
「落ち着け、暴力で解決なんていけないことだと思うぞ」
「殴られても文句言えないと思うよ……」
 智樹め、余計なことを言いおって。
「まぁ、でも…あれだ。ちょっとしたジョークで怒るとは、器の小ささが知れるぞ」
 すると少女はぴたりと動きを止めた。

「……もういい。怒る気も失せた」
 はぁっとため息をついて席につく。
「で? 何の用?」
「お前が呼んだんだろ? なんか用か?」
「ぼ、僕は席を外そうかな……」
「智樹、お前が出て行ったら俺は死ぬかもしれん」
 智樹が立ち上がろうとした状態で動きを止める。

「はっきり言うけど、このガキ、俺より強いぞ」
「はい?」
 座りなおして俺に聞きかえす。
「こいつは俺より強い…。たぶんな」
「この子が?」
「あの男達、どうなったか教えてやろうか? 吹っ飛んだ。一瞬でな……」
「!?」
「触れてない。動いてもいない……と思う」
 あのとき、何が起きたのか分からなかった。
 俺のように超高速で動いたわけでもないようだし、4人がまったく同時に吹っ飛んだ。
 ありゃどうやったんだ?
「アンタも只者じゃないみたいね。けど間違いが一つ」
 人差し指をピンと立てて続ける。
「アンタより強いわけないじゃない。そこのあなたよりも私自身は弱い」
「僕より?」
「ただ私に挑んでくるのなら話は別。絶対に私には敵わない」
 智樹の声に頷きながら話す。
「わけ分からん。もうちょっと詳しく話せ、じゃじゃ馬」
「……なんかムカつくから教えない。一生考え続けるがいいわ」
 こいつ顔は可愛いが口が最悪だな……。
「あっそ、そこまで気になんないからいいや」
「えっ、僕は結構気になるから聞きたいんだけど」
 すると智樹の方を向き、
「あなた名前は?」
「智樹。トモキ・タニグチ」
「変わった名前ね。それで、コレは?」
 俺のほうを親指で示しながら聞く。
「コレ扱いかよ……」
「彼は雄二。ユージ・フジキ」
「ふん、どうでもいいけどね」
 どうでもいいなら聞くなよ……。
「てめぇも名乗れよ」
「アンタに名乗る名前はないわ」
「けっ、所詮は礼儀知らずのガキンチョか。こっちは名乗ったのにな」
 軽く煽ってやった。
「アンタは名乗ってないじゃない!!」
「お前は名乗らせなかっただろうが……」
 コイツ…滅茶苦茶だ。だが滅茶苦茶さならアイツに負ける。
 俺は不本意だがこういう相手には慣れてしまっている。

「じゃあ改めて、俺は雄二。お前は?」
「……エリス。エリス・……デリア」
「よろしく、そしてさようなら。じゃじゃ馬」
「ええ、さようなら!! 嘘つき男!!」

バンッ!!

 入ってきたとき以上の大きな音をたてて去っていった。
「雄二……。なんでそこまで」
「いや、ああいう言い方されるとつい…な」

 なんか対抗したくなるじゃねぇか。
 それにああいうノリって大好きだしな……。

「まぁいいじゃねぇか、もう会うこともねぇし」
「こういう場合さ、そのセリフを言うとまた会うことになるんだよね……」
「…………」 
 嫌なこと言うな。俺もそんな気がしてきたじゃねぇか……
 ま、ああいう奴なら何度会ってもいいけどな。



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