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 雄二君が起きたら何か文句を言ってやろうと思っていたけど……
 丸2日寝ている姿を見ていたらそんなことどうでもよくなった。
 早く目覚めて安心させて欲しい。ただ…それだけ……。

第61話 彼等の存在 <<有香>>


 まだ目覚めない。3日目も朝からずっとこの部屋にいる。
 彼は私を助けるために、仲間を助けるためにどれだけの能力を費やしたのだろうか。

「はやく……起きてよ……」

 普通に寝ているようにしか見えないのに……
 私は祈るように両手を組む。
 祈ることで願いが叶うならいくらでも祈る。

 彼はこんな目に会うためにここに来ているというのだろうか。
 彼はこの世界のどの部分に何を求めているのだろうか。

 私が考えても分かるわけがない。
「『壁雲』」
 この世界にきて与えられた守る力……

『奴が心配か?』
(当たり前じゃない。心配してないとでも思ってるの?)
『いや、聞いただけ。で? なんか用?』
(別に……用なんてないわよ)
『じゃ、暇つぶしに俺達の話でもしようか……』
(俺達?)
『ソウルウェポンについて。詳しい話聞いてないだろ?』

 確かに智樹君から魂の一部だということしか聞いてない。
(聞かせて)
『まず俺達は主を選ぶ。人や動物、モンスターまで俺達の好きな主を選べる』
(……続けて)
『次に選んだ相手の魂との相性をみる。相性が悪いと主の選びなおしだ』
(壁雲は私を選んだのね?)
『まぁな。そして主の生まれた瞬間に魂の一部として生きる』
(その魂の一部っていうのがよく分からないんだけど)
『文字通りさ。生物の魂が10だとすると俺達は10+1の1の部分だ』
(追加された魂ってわけ?)
『そんなところだ』

 なんでそんな存在があるのだろう……。
『主を選んだあと、俺達は主を呼び続ける』
(地球では目覚めないのに?)
『地球でだって目覚める奴は目覚める。滅多にいないけどな』
(…………)
『俺のように目覚めてもらって主と一緒になれる奴もいるが
当然主が死ぬまで目覚めない奴もいる』
(目覚めたほうが幸せなのね)
『そういうわけでもない。メリットとデメリットってヤツだ
 メリットがある代わりにデメリットもある』
(目覚めたときのデメリットって?)
『主と魂の共有をすること。どのような主だったとしても……
 そして主側のデメリットは……必ずしも良いウェポンじゃないことだ』
(悪いウェポンもいるってことだよね)

『……マイナスが無いとプラスは成り立たないだろ。どの世界であってもな』
(悪いウェポンに目覚めた場合どうなるの?)
『聞かないほうがいい……』

 ……そんなに酷いことになるのだろうか。
『メリットだってあるだろ? 俺の壁の力。奴の風の力。その他諸々な』
(あなた達にメリットはあるの?)
『もちろん。メリットなけりゃ呼びかけはしないだろ?』
(教えてよ。まさかそれも聞かないほうがいいって言うの?)
『いや、秘密だ。だが俺達も幸せになれるとだけ言っておくよ』
(……そう、幸せになれるといいわね)

 彼等が何のために存在するのか、私が知っていい事ではない気がした。
「ありがとう、壁雲。良い時間つぶしになったわ」
『願わくば俺達の魂が救われんことを……』

 消える直前に言った壁雲の言葉が気になった。
 救いを求める魂。私たちが彼等の救いとなれるのだろうか……

「よっ、なにやら難しい話をしてたみたいだな」
 目を開いてこっちを見ている彼がいた。
「迷惑かけたな有香。智樹とレナは?」
「……今、買い物に行ってる」 
「そっか……」

 当たり前のように会話をしている。驚くべきことのはずなのに。
「おはよう。雄二君」
「ああ、おはようさん」
「調子はどう?」
「バッチリだ。今なら春香にも勝てそうだ」
「それは……絶好調だね……」
 拍子抜けだ。彼が起きたときには泣き出してしまうかとも思っていたんだけど……

「雄二君」
「ん?」
「……なんでもない」
「なんだよ、気になるじゃねぇか」

「風華に目覚めて良かった?」
「そうだなぁ……」
 私は壁雲に目覚めてよかった。共存していく自信がついた。
「良かった……かな?」
「そう……」

 ソウルウェポンについてはまだまだ知りたいことがたくさんある。
 これからもたくさんのことを知ることになるだろう。
 だけどそのことで彼等が幸せになれるのなら私は喜んで協力しようと思う。



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