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 ユージさんが目覚めないまま朝を迎えてしまいました。
 精神力の回復には休息しか方法がなく、私たちは目覚めるのを待つしかない。
 ユージさんを置いてお城に行くわけにもいかず、丸一日やることがなくなった。

第60話 レナの葛藤 <<レナ>>


 ユカさんもトモキさんもユージさんに付きっきりだ。
 おかげで朝から女部屋には私一人しかいない。
 朝食を暗い雰囲気のまま食べて、そのまま2人は男部屋に行ってしまう。
 私だって心配していないわけではない、2人と同じくらい心配している。

『責任を感じてる?』
(美空……)
『レナ……あのとき「私を使え」と言ったのは私ですよ?』
 
 グリズリーに襲われたとき、私は初めて美空による空間操作を使った。
 あのときまで私は干渉だけを使いチキュウを見ていた。
 見たこともない物、聞いたこともない言葉。リオラートの何倍も進んだ技術。
 私はチキュウという世界に大きな憧れを持つことになった。

(あの時は呼ぶことを躊躇している時間はなかった。でも前回、今回は……)
『私たちは間違っていない。誰も間違えていないの』

 それもわかってる、誰も悪くない。だけど原因を作ったのは間違いなく私だ。
 あのとき、必死だった私は美空に助けを求めた。美空はユージさんを召喚した。
 
 だけど……
 本当にチキュウから人を召喚するしかなかったのか?
 グリズリーを地球に送るという選択肢もあったのではないか?
 空間削除を使ってでも二世界を繋げてはいけなかったのではないか?

『レナ、これでよかったのよ』
(よかった? 何がよかったって言うんですか!!)
『少なくとも、レナ。あなたはこの結果を喜んでたはず』
(なにを!?)
『レナは地球を求めてた。地球の未知を求めてたでしょう?』
(それは……)

 美空は私をよく理解している。
 私は知りたかった、ここと違う世界がどのようなものなのか……
 
『見ることしかできないなんて可哀想だわ。実際に見えてしまう夢のような世界……』
(…………)
『悩むのはわかるわ。それが私のせいだということも。
 私さえいなければレナは悩むことすらなかったでしょうね……』
(美空は悪くないです。絶対に悪くない)

 美空のせいにするのは間違っていると思う。
 目覚めさせたのは他の誰でもない。自分なのだから……

『これだけは言わせて。後悔はするだけ無駄かもしれない……
 でも、そのとき考えたことは無駄になることはないわ。レナにとって必ず役に立つ』

(そう…かもしれません)
『私の…いえ、レナの能力は使い方一つで恐ろしいものになる』
(だから、使いどころを間違わないように気をつけなさい。ですね?)
『そう』

 この言葉は美空から何回も聞かされていた。
 地球にモンスターを送ることもできてしまう。こんな能力だから……

『《地球に迷惑をかけない》というレナの誓いは十分に理解してます。
 ユージたちも迷惑だと思っていたら素直に呼ばれたりしないわ』
(そうだといいですね……)
『それとも今回限りでもう呼ばないと言ってみる? たぶん怒ると思うわ』
 
 ユージさんの性格を考えるとそうかもしれない。でも他の2人は何も言わないかもしれない。
 私としてもこの貴重で奇妙な出会いを大切にしたい。
 
ごめんなさい……もう少しだけ、私のわがままに付き合ってください……


『でも、今回のレナの行動には驚いたわ』
(なんのことですか?)
『トモキに私のことを話したことよ。何故ユージではなくトモキなのか』
(私の戦い方を身近で見ていた人だから。それだけですよ)
『そう……』

 嘘だ。本当の理由は別にある。
 神無さん、あのウェポンでの戦い方に嫌な予感がした。
 私の削除能力と同じくらいの恐ろしい能力を身につける恐れがあると思った。
 ただの思い過ごしであればいいのだけれど……

『レナ、私は何があってもレナの味方よ』
(わかっています。ありがとう、美空)

 私はおそらくユージさん達を召喚することに関して悩み続けるだろう。
 それこそが美空というソウルウェポンに目覚めた者の責任なんだと思います。

コンコン

「はい」
「レナさん。お昼どうします?」
 ユカさんが顔を覗かせた。自分の部屋でもあるのだから入ってくればいいのに……
「そうですね。食べましょう」
 私は立ち上がって部屋を出た。
「レナさん、考えすぎは体に毒ですよ?」
「えっ?」

「部屋に入ったとき、難しい顔してました」
 ユカさんは鋭い人ですね……。
 でも、今の言葉を聞いて気持ちが楽になりました。
「そうですね。気楽に考えることにします」
 するとユカさんは笑顔で返してくれた。

「有香さん、お待たせ」
 トモキさんが隣の男部屋から出てきた。
「じゃあ、食事にしましょ」
 朝食とは違って楽しい昼食となりそうだった。



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