壁雲を手に入れてはじめて雄二君達の仲間になれた気がする。 それと同時に地球人からかけ離れた存在になったことを実感する。 私はこれからこの能力を使ってどのような人間になるのだろう…… 盗賊合計13匹。何とか倒すことができた。 「さぁって、智樹達に追いつかなきゃな」 「うん、急ごう。追われてるはずだよ」 私達は2人の逃げた方向に走り出した。 全力で走ってるはずだったんだけど……。 「遅すぎる!! 智樹達が襲われてるかもしれないんだぞ!!」 これでも全力で走っている、というか歩いている。 「雄二君が速すぎるだけだよ……」 「仕方ねぇなぁ……一回止まれ」 私達は立ち止まった。 雄二君が屈みこんだ。 「ほれ、乗れ」 「え?」 「おんぶだよ。早く乗れよ」 今なんて言ったの? 「時間ねぇんだぞ。俺が背負ったほうが早く追いつけるんだよ」 「お、お…お……おんぶ〜〜!!?」 そ、そんなの無理!! 恥ずかしくて死ぬ!! 「雄二君先行ってて。私は後から追いつくから!!」 彼におんぶされながら運ばれるなんて…… 「何言ってんだ? 有香を待ってる余裕はないぞ。縮地札の効果が切れちまうからな」 「…………」 選択肢はないのね…… 私はおずおずと雄二君の背に乗った。 「なんだよ。体重とか気にしてんのかと思ったけど軽いじゃねぇか」 雄二君は立ち上がっていった。 なんでそういうこと言うのよ!! 気になることが増えたじゃない!! 体重のことなんか気にしていなかった。おんぶという行為自体に焦点が絞られていた。 「じゃ、行くぞ!!」 そんなことを気にする様子もなく雄二君は走りだした。 「きゃっ」 速い、速すぎる。周りの景色が電車のように流れて見える。 「しっかり捕まっとけよ。落ちたら命ねぇぞ!!」 確かにこの速度で落ちれば新幹線から飛び降りるようなものだ。 私は恥を忘れて首に腕をまわし、しっかりとしがみついた。 「ん? 智樹……倒れてねぇか?」 雄二君の後にいる私にはよく見えなかった。 「到着っと。って智樹!!」 「ユージさん。早くトモキさんを治してください!!」 私は雄二君の背中から降りると2人の様子を見た。 智樹君は大怪我を負っていた。レナさんは無傷だった。 「遅かったね。有香さんも無事でよかった」 智樹君の口調は見た目とは裏腹にしっかりしている。 「智樹、大丈夫か?」 「大丈夫だよ。悪いんだけどさ、風華で治してくれない? ダメージ無くしてるとはいえ重傷なんだ」 「お、おお。 <<風華の主が命ずる。風よ、彼の者の傷を癒せ>>」 周囲の風が智樹君に集まる。 「こいつはちょっと時間かかりそうだな。風華、頑張りどころだぞ」 「盗賊2人相手だったんだけどさ。何とか勝てたよ」 すぐそばに盗賊2人が倒れている。 智樹君はB組の中でも戦闘能力的には最弱だったと思う。 それでもレナさんの手を借りずに戦ったことは賞賛に値する。 「お前、ダメージくらい過ぎ。もうちょっと無傷で勝つこと考えろよ」 「防御無視しなきゃ勝てたかどうかも怪しいね」 「癒すほうの身にもなってくれ。あぁ、だりぃ〜」 言葉ではあんなこと言ってるけど、顔は怒っても責めてもいない。 まったく……素直じゃないね。 智樹君の怪我を完全に癒すまでに30分の時間を要した。 「お、終わったぞ」 「ありがと、雄二」 「礼はいいから早いとこクェードいこうぜ。一刻も早く眠りてぇ」 「わかったよ。縮地札の効力が切れる前に行こう」 私達は再び歩き出した。 「しっかし、智樹もこれで武闘派の仲間入りだな」 「そんなことないよ。神無がいなきゃ喧嘩もできない」 確かに生身での喧嘩だったら即KOだっただろう……。 「レナさんが剣を消してくれなかったら死んでただろうしね」 「レナ、剣を消したって……どこに送ったんだ?」 「チキュウに決まってるじゃないですか。海に沈めておきました」 「……それなら、安心だな」 ということは、地球の海底にはこの世界の剣が沈められていることになる。 海底発掘とかされなきゃいいけど……。 それから2時間ほど猛スピードで歩いた。 「あっ、見えてきましたよ」 目の前に壁が広がる。 「あれがクェードか……でけぇな」 さすがはクェード王国の首都だ、町や村なんかとは規模が違う。 夕暮れのオレンジの中、石壁に囲まれた都市は幻想的に見えた。 急に智樹君とレナさんのスピードが落ちる。 「あっ、僕の縮地札の効果切れたみたい」 「私もです」 クェードまで残り数kmの地点で智樹君とレナさんの縮地札の効力がなくなった。 「どうする? 有香さんの効力はまだ続きそうだよね」 「仕方ねぇなぁ。有香、レナを運んでくれ。できるか?」 「う、うん。じゃ、レナさん、乗ってください」 「はい。お願いします」 私はレナさんを背中に乗せた。その間に雄二君は智樹君を背中に乗せていた。 「じゃ、いくぞ〜」 そのまま歩いて城門付近で私の縮地札も効果が切れた。 「つ、ついたぁ」 智樹君が雄二君から降りて気が抜けたように言った。 「一日で着くなんて計算外でしたね。お金も結構余っちゃいましたよ」 レナさんも既に私の背中から降りている。 「有香さんが指輪を値切ったのもおおきいよね」 ……あれは、買い手としては当然の行為でしょ。 「野営の準備が無駄になっちゃいましたね」 「まぁ、いつか使うことになるかもしれないし、僕等の家に置いておけばいいよ」 「そうですね」 あの家は物置になるでしょうね…… 「じゃ、行きましょ。宿を探さないと……」 私は雄二君を見て絶句した。顔が真っ青だ。 「わりぃ。俺…限界だ……」 ドサッ 「雄二君!!!」 クェードの街に入る前に雄二君は倒れてしまった。 |