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 壁雲を手に入れてはじめて雄二君達の仲間になれた気がする。
 それと同時に地球人からかけ離れた存在になったことを実感する。
 私はこれからこの能力を使ってどのような人間になるのだろう……

第58話 合流 <<有香>>

 盗賊合計13匹。何とか倒すことができた。
「さぁって、智樹達に追いつかなきゃな」
「うん、急ごう。追われてるはずだよ」
 私達は2人の逃げた方向に走り出した。

 全力で走ってるはずだったんだけど……。
「遅すぎる!! 智樹達が襲われてるかもしれないんだぞ!!」
 これでも全力で走っている、というか歩いている。
「雄二君が速すぎるだけだよ……」
「仕方ねぇなぁ……一回止まれ」
 私達は立ち止まった。
 雄二君が屈みこんだ。
「ほれ、乗れ」
「え?」
「おんぶだよ。早く乗れよ」
 
 今なんて言ったの?
「時間ねぇんだぞ。俺が背負ったほうが早く追いつけるんだよ」
「お、お…お……おんぶ〜〜!!?」
 そ、そんなの無理!! 恥ずかしくて死ぬ!!

「雄二君先行ってて。私は後から追いつくから!!」
 彼におんぶされながら運ばれるなんて……
「何言ってんだ? 有香を待ってる余裕はないぞ。縮地札の効果が切れちまうからな」
「…………」

選択肢はないのね……
 
 私はおずおずと雄二君の背に乗った。

「なんだよ。体重とか気にしてんのかと思ったけど軽いじゃねぇか」
 雄二君は立ち上がっていった。
 
なんでそういうこと言うのよ!! 気になることが増えたじゃない!!

 体重のことなんか気にしていなかった。おんぶという行為自体に焦点が絞られていた。
「じゃ、行くぞ!!」
 そんなことを気にする様子もなく雄二君は走りだした。
「きゃっ」
 
 速い、速すぎる。周りの景色が電車のように流れて見える。
「しっかり捕まっとけよ。落ちたら命ねぇぞ!!」
 確かにこの速度で落ちれば新幹線から飛び降りるようなものだ。
 私は恥を忘れて首に腕をまわし、しっかりとしがみついた。


「ん? 智樹……倒れてねぇか?」
 雄二君の後にいる私にはよく見えなかった。
「到着っと。って智樹!!」
「ユージさん。早くトモキさんを治してください!!」
 私は雄二君の背中から降りると2人の様子を見た。
 智樹君は大怪我を負っていた。レナさんは無傷だった。
「遅かったね。有香さんも無事でよかった」
 智樹君の口調は見た目とは裏腹にしっかりしている。
「智樹、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。悪いんだけどさ、風華で治してくれない? ダメージ無くしてるとはいえ重傷なんだ」
「お、おお。 <<風華の主が命ずる。風よ、彼の者の傷を癒せ>>」
 周囲の風が智樹君に集まる。
「こいつはちょっと時間かかりそうだな。風華、頑張りどころだぞ」
「盗賊2人相手だったんだけどさ。何とか勝てたよ」
 すぐそばに盗賊2人が倒れている。
 智樹君はB組の中でも戦闘能力的には最弱だったと思う。
 それでもレナさんの手を借りずに戦ったことは賞賛に値する。
「お前、ダメージくらい過ぎ。もうちょっと無傷で勝つこと考えろよ」
「防御無視しなきゃ勝てたかどうかも怪しいね」
「癒すほうの身にもなってくれ。あぁ、だりぃ〜」
 言葉ではあんなこと言ってるけど、顔は怒っても責めてもいない。
 まったく……素直じゃないね。


 智樹君の怪我を完全に癒すまでに30分の時間を要した。
「お、終わったぞ」
「ありがと、雄二」
「礼はいいから早いとこクェードいこうぜ。一刻も早く眠りてぇ」
「わかったよ。縮地札の効力が切れる前に行こう」
 私達は再び歩き出した。

「しっかし、智樹もこれで武闘派の仲間入りだな」
「そんなことないよ。神無がいなきゃ喧嘩もできない」
 確かに生身での喧嘩だったら即KOだっただろう……。
「レナさんが剣を消してくれなかったら死んでただろうしね」
「レナ、剣を消したって……どこに送ったんだ?」
「チキュウに決まってるじゃないですか。海に沈めておきました」
「……それなら、安心だな」
 ということは、地球の海底にはこの世界の剣が沈められていることになる。
 海底発掘とかされなきゃいいけど……。


 それから2時間ほど猛スピードで歩いた。
「あっ、見えてきましたよ」
 目の前に壁が広がる。
「あれがクェードか……でけぇな」
 さすがはクェード王国の首都だ、町や村なんかとは規模が違う。
 夕暮れのオレンジの中、石壁に囲まれた都市は幻想的に見えた。
 急に智樹君とレナさんのスピードが落ちる。
「あっ、僕の縮地札の効果切れたみたい」
「私もです」
 クェードまで残り数kmの地点で智樹君とレナさんの縮地札の効力がなくなった。
「どうする? 有香さんの効力はまだ続きそうだよね」
「仕方ねぇなぁ。有香、レナを運んでくれ。できるか?」
「う、うん。じゃ、レナさん、乗ってください」
「はい。お願いします」
 私はレナさんを背中に乗せた。その間に雄二君は智樹君を背中に乗せていた。
「じゃ、いくぞ〜」
 そのまま歩いて城門付近で私の縮地札も効果が切れた。

「つ、ついたぁ」
 智樹君が雄二君から降りて気が抜けたように言った。
「一日で着くなんて計算外でしたね。お金も結構余っちゃいましたよ」
 レナさんも既に私の背中から降りている。
「有香さんが指輪を値切ったのもおおきいよね」
 ……あれは、買い手としては当然の行為でしょ。
「野営の準備が無駄になっちゃいましたね」
「まぁ、いつか使うことになるかもしれないし、僕等の家に置いておけばいいよ」
「そうですね」

 あの家は物置になるでしょうね……

「じゃ、行きましょ。宿を探さないと……」
 私は雄二君を見て絶句した。顔が真っ青だ。
「わりぃ。俺…限界だ……」

ドサッ

「雄二君!!!」
 クェードの街に入る前に雄二君は倒れてしまった。



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