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 僕とレナさんは馬からひたすら逃げていた。
 走ってもスピードは変わらないというのに全力で走っていた。
 僕達の進むスピードよりわずかに早く2頭の馬が追いかけてきている。

第57話 抵抗 <<智樹>>

「まずいな……クェードに着く前に追いつかれちゃうよ……」
「どうします? 何か方法は無いですか?」
 このままでは追いつかれてしまうのは時間の問題だ。
 こんな見晴らしもよく何の障害物もない平原では戦うしかないかもしれない。
 この戦力で果たして勝てるのだろうか……。

「ユージさん達は大丈夫でしょうか……」
 レナさんは自分の命がどうなるか分からないっていうときにまで仲間の心配をしていた。
 僕にはそんな余裕は全くなかった。自分達が助かることを考えるのが精一杯だった。

「もう、戦うしかないのかもしれませんね……」
 レナさんは相手との距離が徐々に詰まっていることを確認して言った。
「勝てる自信……あるの?」
「……ありません」
 一瞬、レナさんの戦闘能力に期待してしまった。

「ギリギリまで雄二を待とう。僕達じゃ勝てそうもないよ
馬がへばってスピードが落ちれば逃げ切れるかもしれない」
「そう……ですね」
 レナさんはなんだか納得していないみたいだった。


「オラオラァ!! どこまで逃げるんだ? ガキどもが〜!!」
「くっ」
 その後、5分ほどで追いつかれた。
 攻撃はできないもののそれもいつまでもつか分からない。
「トモキさん。もう、戦うしかありませんよ!!」
「…………」
 分かっていた。分かっていたけど戦うことが怖かった。

『何を恐れているのですか? あなたは私を持っているというのに……』
(神無……僕には無理だよ。盗賊相手に武器もなしなんて)
『無理などではありません。私と……自分の力を信じるのです』
(でも、痛みを消すだけじゃ……)
『お言葉ですが……智樹様がやらなければ彼女は……』
(雄二が来てくれる。雄二が来れば何とかしてくれる)
『……しかし、彼女はやる気ですよ?』
 隣を見るとレナさんは美空を出して戦闘体勢に入っていた。
「レナさん!?」
「もう、逃げ切れないじゃないですか……私達だけで何とかするしかないんですよ」
 僕達は立ち止まった。これから戦闘が始まるんだ……。

「あきらめたか? いい覚悟だ。痛みの無いように終わらせてやるよ」
 盗賊2人は馬から降りる。

「<<美空の主が命ずる。空間の支配を我に授けよ>>」
 レナさんが呪文を唱える。
「なっ!? 俺の剣が!!」
「俺の剣もなくなっている!!」
 盗賊たちは取り出そうとした剣がないことに驚いている。

「あなた達の武器は既にこの世にはありません」
 レナさんは美空の力を使って奴等の武器を地球に送っていた。
「このアマ。覚醒者か!!」
「私の力見せてあげますよ……」
 レナさんは構えた。
 これはブラフ……はったりだ。
 レナさんにこれ以上の戦闘能力なんてありはしない。
 しかし、盗賊たちはソウルウェポンの存在に警戒している。
 彼女の作戦は成功しているといえるだろう。

『……智樹様。いつまで戦闘を人に任せるおつもりですか?』
 神無が話しかけてくる。
(…………)
 僕はいつまで他人に自分の身を任せるつもりなんだろうか……。
(……僕は自分の力が一番信用できないよ)
『智樹様、相手には武器がないんです。素手の戦いなら……こちらが有利ではないですか』
(痛みを消せても勝てる気がしないんだ。町のチンピラ相手とでは勝手が違うよ)
『……あなたは戦えないんですか? 彼にあれだけの言葉を投げかけておいて!!』
「!?」
 神無が怒るのは初めてだった。
『この世界では生かしたい人を生かすためにはやらなきゃいけないんでしょう!?
 それなのに……あなただけはやらないというのですか? そんなの…………卑怯です』

 丁寧な言葉遣いのせいで忘れがちだけど彼女は女の子だった。
 彼女にまでこんなことを言われる……彼女の言うとおり、僕は…卑怯者だ。

『あなたは私が選んだ人なんですよ!? 私は守られるだけの人を選んだつもりはない!!』

(…………)
 普段の敬語を使うことすら忘れて涙声で僕に訴える。
 魂の一部とはいえ女の子を泣かせている。これで戦わなかったら僕は男として……最低だ。

「……やるよ。もう、戦うしかないんだね」
『あなたはこういう可能性も含めて、この世界に来ることを望んだはず。
 ならば、戦ってください。私も全力でサポートします。何も恐れることはありません』

 恐れることはない。彼女の言葉を鵜呑みにするわけじゃないけど恐怖心が少し和らいだ気がする。
 相手との戦力差は歴然だ。こちらに唯一有利な点といえば縮地札の効力が持続していること。
 間合いを詰めることは簡単だ。しかし、そのあとの決定打がない。
 
一撃必倒というわけにはいかないな……

「レナさん、下がってて。僕が相手をするよ」
「トモキさん……大丈夫ですか……?」
「大丈夫。神無がついてるからね」
 僕は袖をめくり神無をレナさんに見せた。レナさんは後方に10m程下がった。

「カンナ? まさか……こいつも覚醒者!?」
 盗賊の一人がレナさんの隙を窺っていたのをやめてこちらを向き、目を見開いた。
「ウェポン所有者のことをそういうなら、その通りだよ」
(神無……全力でダメージを無くしてくれ)
『承りました』

「僕は喧嘩なんか嫌いだからね。退いてくれると嬉しいんだけど……。
素直に退く? それとも、覚醒者を相手にするかい? 君達じゃ僕に攻撃はできない」

 その瞬間レナさん向いていた2人の敵意がこちらに向くのが分かった。
 僕が言ったこともはったりだ。攻撃はできないんじゃない。効かないだけだ。

言葉通りにこのまま退いてくれるのが望ましいけど……

「覚醒者っつっても戦闘用とはかぎらねぇだろ!!
こいつらは避難した奴等なんだ。戦闘はできないに決まってる!!」
「そ、そうだな。ボコボコにしてやるぜぇ」

そういうわけにもいかないよな……

 仕方ない。喧嘩なんかあまりしたことないから分からないけど、やるしかないようだ。
「かかってきなよ!!」
 この一言が戦闘開始の合図となった。

 
 殴られる。何発も殴られる。
 痛みは無いけど血は流れているわけで、内出血が酷い。
 僕は防御を無視して殴り返している。神無による鈍器攻撃だ。
 骨も何本か折れているだろう。神無を消したら痛みのショックで気絶してしまうかもしれない。
 2対1だということも構わず、僕はひたすら見える人間を殴り続けた。
 そして……


「か、勝った……かな?」
 目が腫れているし、血が目に入っているので視界はほとんどない。
 だけど倒れている盗賊2人が小さな視界の中に入った。
「トモキさん!! 大丈夫ですか!!」
 レナさんがこちらに向かって走ってきたようだ。
「大丈夫。見た目は酷いかもしれないけど、ダメージはないよ」
「……どう見ても重傷人のようにしか見えないです」
 どうやら僕の姿は相当酷いらしい。全く痛くないんだけどな……。
「雄二を待とう。治してもらわなくちゃ神無を消せないよ」
「その姿でクェードになんて行けません!!」
 
ごもっともだ。



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