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奴隷制度の存在に驚いたが、それ以上にこの盗賊どもを許せなかった。 怒りに任せて周囲のやつらを柄で殴って昏倒させた。 残っているのはリーダーのみ。奴はそれに気付いてはいないが…… ｢アンタ、今まで何人の人間を奴隷商人に売ってきたんだ？｣ ｢じゃあ、おまえは今まで食った飯の回数を覚えているのか？｣ ニヤリと笑って奴は言った。 コイツ……人間の命と食事を同等だと思っているのか!? ｢覚悟はできてんだろうな？｣ ｢この人数相手にやるって言うのか？｣ コイツ、まだ気付いていないのか？ 俺が全力で走ったのはこれが初めてだ。まさかこれほどのスピードが出るとは……。 ｢……気付いてないの？ 残ってるのはあなただけよ……｣ 有香が親切にも教えてあげていた。有香は気付いたというのに、どこまで間抜けな盗賊だ……。 ｢なにっ!?｣ 奴が隣にいた部下の様子を確認した。当然、気絶している。 ｢おまえ……ただのガキだと思ったが、覚醒者だったか……｣ ｢覚醒者？ 何のことだ？｣ ｢これのことだ。<<彼の者の動きを止めよ!!>>｣ 奴が俺に向かって手をかざし呪文を唱えた。 ｢!?｣ 体がピクリとも動かない。 それにあの呪文……。 ｢有香!! 気をつけろ!! コイツ、ウェポン所持者だ!!｣ ｢雄二君!!｣ ｢ソウルウェポンに目覚めたものを覚醒者と言うんだよ。そんなことも知らねぇのか、田舎者が｣ 知るわけねぇだろ……こっちはこの世界の人間じゃねぇんだ!! ｢さて、この『止怨<<しおん>>』は痛いぜ？｣ 背中から弓矢を取り出す。 ｢その弓矢がソウルウェポンか？｣ ｢ご名答。能力使いすぎるのは疲れるんでな、とっとと殺らせてもらうぞ｣ 奴はぎりぎりと弦を引き始めた。 (くそっ!! 『風華』、何とかなんねぇのか!!) 『なるわけないじゃない。剣を相手に向けてないと魔法も効果ないし……』 今の俺の状態は直立状態。剣は下を向いている。 (このままじゃ、マジで殺られちまうぞ) 『癒しでしばらくは大丈夫だけど……相当のダメージを覚悟してね』 (簡単に言いやがって……) ｢有香!! 逃げろ!!｣ ｢そ、そんな!! 雄二君は!?｣ ｢俺はいいから!! 早く行け!!｣ こうなったら有香だけでも逃がすしか方法は無い。 ｢逃げられちゃこっちが困るんだよ!!｣ ヒュン!! ｢ぐあっ!!｣ ｢雄二君!!｣ 野郎、マジで撃ちやがった!! 俺の右太ももに矢が深々と突き刺さる。 ｢『止怨』｣ 右足に刺さった矢が消え失せて奴の手に矢が戻った。 くそっ!! 何か手は無いのか!? 守る力を…… <<有香>> ｢!!｣ また一発矢が打ち込まれる。今度は左足だ。 ｢『止怨』｣ 奴の弱点は撃った直後に隙があることだ。矢が一本しかないのは有利な点だ。 (もう一発、もう一発だけ我慢して雄二君!!) ｢クイックムーヴ｣ 縮地札を起動させ、機会を窺った。 チャンスは一度きり、奴が撃った直後!! 私はいつでも攻めれるように身構えた。 ｢おい、おかしな真似するなよ？ こいつを殺すぞ……｣ ｢!?｣ 気付かれてる!! ｢……おい、有香。俺のことは気にすんな。やっちまえ!!｣ できるわけない。できるわけがないじゃない!! 私が動いても動かなくても……雄二君は……。 ｢<<風よ。我が身の傷を癒せ>>｣ 雄二君の傷が癒えていく。 ｢俺はまだまだ余裕だぜ？ 有香、やっちまえ｣ 雄二君はにやりと笑った。 私がここにいる理由……それはあなたを守ること…… (これじゃあ駄目なの。あなたを犠牲にすることだけはできない!!) ― そう、有香ちゃんは奴を守るためにここにいる ― (誰？) ― 有香ちゃんは守る力を必要としている……だろ？ ― (う、うん) ― もう有香ちゃんは俺を呼ぶ権利を持っている ― 権…利？ ― あとは呼ぶだけだ。奴も言っていたかもしれないが……後戻りなんてできねぇぞ？ ― (わかってる!! 元々戻るつもりなんてない!!) ― じゃあ、守る力……有香ちゃんにやる。俺の力をくれてやる!! ― ｢有香!! 俺に構わずボコっちまえ｣ ｢動くなよ!? 動いたら奴の心臓を撃つぞ!!｣ 私は思いっきり盗賊のリーダーを睨んだ。 ｢あなたは私の法に触れた。許せるわけないわよ……。ねぇ『壁雲<へきうん>』？｣ 両手が何かに覆われていく。これは……グラブ？ ｢おまえも覚醒者か!!｣ 奴が雄二君目掛けて矢を放つ。 『叫べ!! 有香ちゃん!!』 ｢<<アブソリュートウォール!!>>｣ 雄二君の前に紫色の薄い壁ができる。 カキィン!! 奴の矢はあっけなく弾かれた。 ｢…………｣ 雄二君は私の壁を見て目を丸くしている。 『さぁて、お仕置きタイムだな』 (そうね。償ってもらいましょ) 『右の拳で奴を殴ってみな。ぶったまげるぜ？』 (右？ なんで？) 『いいから、いいから』 (……うん、わかった) ｢覚悟はいいわね？｣ 縮地札の効果を使って一瞬で間合いを詰める。 ｢ていっ!!｣ ｢<<彼の者の動きを止めよ>>｣ ｢!?｣ しまった……奴にはこれがあった……。 ｢やってくれるじゃねぇか。お嬢ちゃん｣ ｢くぅ……｣ どんなに力を入れても体が動かない。 ｢俺の能力を忘れてたみたいだな……。馬鹿じゃねぇの？｣ ｢オマエもな｣ ｢!?｣ ガッ ｢ぐっ!!!｣ 気付けば雄二君が頭の後頭部を殴っていた。 ｢オマエはどうやら一人しか動きを止められないみたいだな……。馬鹿じゃねぇの？｣ 雄二君は奴のセリフを真似て、既に意識のない盗賊の頭に言い放った。 ｢有香も一発気晴らしに殴っとけばどうだ？｣ ｢そ、そうだね……じゃあ｣ 雄二君の勧めで私は一発殴っておくことにした。 ｢ええいっ!!｣ ボキボキゴキッ!! ｢……有香。やりすぎじゃねぇか？｣ おそらくあばらが何本か折れているだろう。 ｢そ、そんな!! 私そんなに力入れてないのに!!｣ 『俺の力が入ってるからなぁ……』 (ぶったまげるって……こういうことなのね……？) 『俺の基本能力、右腕の強化。力が５倍くらいになるぜ。 ちなみに追加能力は壁の魔法と魔法の呪文化な』 ｢……『壁雲』消えて……｣ 私はこのソウルウェポンと上手く付き合っていく自信が早くも無くなっていた……。 |