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 あれから私達は3時間(時速約50kmで)歩き続け、街道で休憩をとっている。
 当初行く予定だったウィズ村は5分と経たずに視界から消えた。
 見た感じシア村よりは都会的だったように見えた……

第55話 強襲 <<有香>>


 縮地札は本当に凄い。この世界に来て2日しか経っていないのに徒歩で200km近く歩いてしまった。
 食料も地球と似ていて食べるのに何の抵抗もなかった。
 世界が違うことは日本ではめったに見れない地平線が証明してくれていた。
「3人ともお疲れだな」
 私はそんなに疲れていなかったが、智樹君とレナさんの疲労はかなりのもののように見える。
「僕は武闘派じゃないんだって言ったでしょ?」
「私も長旅はあまり得意じゃないんですよ……」
 智樹君、レナさんの2人は座り込んで体力を回復させている。
 雄二君は風華のおかげで体力をたいして使っていない。
 羨ましい能力だ……。
「この世界じゃ長旅に車なんか使えねぇもんなぁ……」
「どっちの世界でも僕等は乗れないよ」
「こっちには道交法はない。乗れるだろ?」
「運転はできるけど……、鉄の車が走ってたら大問題だよ」
「魔法だって存在してるんだ、車ごときじゃ驚かんよ」
 話している2人。だけど、それ以前に……なんで運転できるの?
「ガソリンがないよ。こればかりはどうしようもないね」
「いや、ガソリンすら調達できる。美空でポリタンク入りのを持ってくればいい」
 
 雄二君と智樹君の会話を聞いてレナさんが聞いてきた。
「ユカさん、クルマとか、ガソリンとか……何の話ですか?」
「地球の乗り物の話。縮地札以上のスピードで走れるの」
「すごいですねぇ。乗ってみたいです」
「レナさん……やめたほうがいいと思う」
「何故です?」
 何故なら……
「確かに私達は楽になるけどね。レナさんはかなり疲労するわ……」
 車の召喚、数時間おきのガソリンの探索と調達。
 美空を使い続けることになるだろう……。
 それに……。
「な、なんで!?」
「車の大きさは人間3人の体積以上よ。召喚できる?」
「…………そんな計画をユージさんは立ててるんですか?」
「じ、冗談だから……」
 レナさんは私の言葉が聞かずに雄二君のほうへ向かっていった。

「そんなひどいことを私にさせるつもりですか!!」
「レ、レナ!? 何のことだ?」
「ユカさんに聞きました!! そんな大きいものを召喚させる気ですか!?」
「バカッ、有香!! 余計なこと教えるなよ!!」
 え〜!! 私のせい!?
「ご、ごめん……」
 それでも謝ってしまう私……弱いなぁ。
「雄二……酷過ぎ……」
「智樹!! お前もか!!」
「レナさんの体力のこと……忘れてたね?」
 智樹君の質問のあと、数秒の静寂が場を制した。
「……忘れとりました」

「酷いです!! ユージさん!!」
「ええいっ!! 黙れ黙れぃ!! 元々冗談なのだぁ!!」
「雄二……醜い言い逃れだね」
「黙らっしゃい!! 休憩終了!! とっとと行くぞ!!」
 雄二君が先を歩き始める。

「私達の体力は回復していないのに……」
「酷いよね。レナさん……」
「トモキさん……私達はゆっくり行きましょう」
「そうだね」
 いつの間にか智樹君とレナさんの間に同盟ができあがっていた。
「雄二は道すら知らないのにね」
「私がいないとクェードに着くことすらできないのに……」
 雄二君が止まった。

「ああ、もう!! 俺が悪かったよ!! 何時間でも休憩しやがれ!!」
「わ、私達とは体力が違うから……仕方ないよ」
 雄二君にフォローを入れてみた。
「そうだな。ふん!! 虚弱同盟め!! 有香を見習え!!」
 い、言い方が酷い……。
「どうせ私達は虚弱同盟ですよ」
「急ぐ旅でもないじゃないか」
 虚弱同盟の反論。
「夜になっちまうだろ!?」
「どうせ到着は夜の予定だよ」
「……ぐ……有香!! なんか言ってやれ!!」
「ええっ!!」
 なんで私……。
「えっと、その……夜遅くなると宿が取れなくなるかもしれないわ」
「そうだ!! クェードで野宿でもする気か!?」

「じゃあ、ここらで一泊して朝に行こう」
「そうですね。無理してクェードまで行かなくてもいいですよね」

「や、やめよ? もう私達の負けだよ」
「ゆ、有香……お前も俺を裏切るのか……」
「ち、違う……裏切るとかじゃなくって」
「ああ、3対1になっても俺は戦い続けるぞ」

ドドドドド

 かすかに馬の蹄の音が聞こえる。数はおそらく3。
「雄二君、黙って!!」
「ひ、酷いぞ。いくらなんでもそこまで言わなくても……」
「いいから!! お願い!!」

ドドドドドドドドドドド

 静かに耳をすませる。音が少しずつ大きくなってきている。
 こっちに向かってる!?
「なんか……あったのか?」
 間違いない!! まっすぐこっちに向かってる。狙いは私達だ!!
「馬がこっちに向かってきてる!! 3匹……え? 嘘……」
 後続が……たくさん……音だけじゃ数えられない……
「おい!! 有香!! どうしたんだよ!?」
「馬が向かってくる!! 数は10匹以上!! 早く逃げなきゃ!!」
「ああ、もう肉眼で見えたよ!! 出ろ!!『風華』!!」


「おい!! お前等は逃げろ!! 俺はカモになる!!」
「大丈夫なの!? 雄二一人じゃさすがに無理だよ!!」
「風華なら逃げれる!! 馬なんかじゃ追いつけない」
「……本当に大丈夫なんだね?」
「当たり前だろ? 俺を誰だと思ってんだ」
「…………わかった。レナさん、有香さん。行こう」

 本当に大丈夫? 私には分かる。雄二君は何かを覚悟してる。
 逃げるだけじゃ終わらせない決意をしてる!!
 

「行くよ。有香さん!!」
「う、うん」
「「 クイックムーヴ!! 」」

 もう既に馬に乗った人間の姿が肉眼で確認できている。
 あれが……盗賊。

 そして………囲まれた。

 数匹の盗賊がレナさん達を追っていくのが見えた。
「有香!! なんで行かなかった!!」
 私は縮地札を起動させなかった。クイックムーヴと言えなかった……。

 私達を盗賊が完全に囲んだ。リーダーらしき男が私達を見た。
「有り金全部よこしな。命だけは助けてやるぞ?」
「冗談だろ? 俺達は1リームも持ってないぜ?」
 これは本当。お金は全てレナさんに預けてあった。
「ジャンプでも何でもしてやるぞ。本当に1リームもない」
「……じゃあ命はなくなったと思え。当然、全員な」
 冷ややかな瞳を私達に向ける。
「命だけは助けるんじゃなかったのか?」
 私はもう声も出ない。そんななか雄二君は冷静だった。
「金があれば……の話だ。だが…そうだな……助けてやってもいい」
「当然、条件付なんだろうな……」

「ああ、全員奴隷商人に売り飛ばしてやるぜ。
いや、男はたいした値にならない。女の命だけは助けてやるよ」

 リーダーのセリフに周囲の盗賊たちは笑い出した。

「よく見りゃ、なかなかの上玉だ。さぞ高く売れるだろうぜ」
 褒め言葉だが盗賊から受け取りたくはない。
「…………」
 雄二君は黙り込んでしまった。
「おい、ガキ。残った女がどうなるか教えてやろうか?」
 リーダーの隣の男が言ってきた。
「死んだほうがマシな目にあうぜ。自殺すら許されない。一生こき使われ、痛めつけられる。
傷を与えられ続ける。どんな目にあっても逆らうことすら許されない」
「…………」
「奴隷にもいろいろあってな。そういう風にする奴隷商人のほうが高く売れるんだ」
「…………」
「さぞ、このお嬢ちゃんは立派な奴隷になるだろうぜ!!」
 大笑い。盗賊たちの下卑た爆笑が聞こえる。
「…………………いねぇ」
 雄二君がぼそりと言った。私にも聞こえないくらい小さな声で。
 その唇の動きを見た男が言った。
「なんか言ったか?」

「てめぇらにこの世は勿体ねぇ!!!」
「!?」

 え? 雄二君が……
「ほぅ……じゃあどうする? 俺達に向かってくるか?」
 気付いてないのだろうか……雄二君が一瞬消えたことに……
「てめぇは最低だな……絶対にボコボコにしてやる……」
「できるかな?」
 雄二君は突然こっちを向いた。
「ちょっと待っててくれ。こいつらにはお仕置きが必要だ」
 雄二君は笑顔で言ったが、目は笑っていなかった。



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