30kmも歩いたというのに筋肉痛になっていない。 俺や有香は運動が得意だけど、レナと智樹は不得意なはずだ。 なんで平気なんだろ……? まぁ、健康であることはいいことなんだけどさ。 俺達は宿で朝食をとっている。 今朝は有香も寝坊せずにしっかりと起きていた。 「なぁ、これからどうすんだ?」 俺はジタル以降の道のりを全く知らない。レナに聞かないと分からないのだ。 「これから100km先にあるウィズという村に行きます」 「100km!? 一日じゃ無理だぞ!!」 「ええ、だから野営の準備もここでしますよ」 「野宿かよ……。俺はいいけど智樹も有香も大丈夫か?」 俺は『野宿もまた冒険』とか思ってるからいいけど……。 「僕は問題ないよ。有香さんは?」 「私も大丈夫。野宿くらいなんでもないよ」 さすが我等B組は逞しいな……。 「じゃあ、朝から買い物だな」 「ユージさん。ちょっと見たいものがあるんですけどいいですか?」 レナが俺に聞いてきた。 「買い物はレナに任せるよ。俺達はこの世界にまだ慣れてないからな」 「ありがとうございます。まずジュエリーショップを見たいんですよ」 「装飾品なんか見てどうするんだ?」 「前に来たときちょっと気になるものを見かけたので……」 「ふ〜ん。まぁ、任せるって言ったからな……別にいいぞ」 「じゃあ、朝食を済ませたら行きましょう」 俺達は再び朝食を食べはじめた。 ジュエリーショップに来た俺達はレナについていった。 レナは他の装飾品など目に入っていないようにそれに向かっていった。 「この指輪です。ユージさん何か感じませんか?」 俺はレナから他の指輪とはデザインの違う、変わった指輪を受け取った。 「……別に…何も……この指輪がどうかしたのか?」 「この指輪はおそらくソウルウェポンです」 「「「 !? 」」」 その指輪がソウルウェポン……!? 「じ、じゃあ、所有者はどこだよ!?」 叫んでから周囲の視線がこちらに向くのを感じた。 「あ、い、いや、なんでもないです」 「雄二、もう遅いよ。しっかり注目されてる……」 周囲の客からの視線を浴びて、有香も恥ずかしそうにしていた。 「……わ、悪ぃ、みんな」 だけどわかってくれ。叫んだ俺が一番恥ずいんだ……。 「とりあえずこの指輪買って外でるぞ」 「あ」 レナが何か言おうとしていたようだが俺は指輪を持って会計に向かった。 「おっさん、これいくらだ?」 「その指輪か? 3000リームだ」 は? こんなしょぼい指輪が日本円に直すと30万……? 「高けえよバカ!! ぼったくってんじゃねぇぞ!!」 ありえるわけねぇだろ。お宝レベルじゃねぇか!! 「ぼ、ぼったくってなどいない!! その指輪は珍品だぞ!!」 「じゃあ、ガラスケースの中にでも飾っとけよ!! 安物の指輪と一緒にしやがって!!」 「こっちだって早く手放したいんだ!! そんなところに飾ったら売れないだろ!?」 「そんなん知るか!!」 「ちょっと待って。手放したいってどういうこと?」 「ゆ、有香……?」 俺と店のおっさんが話している中、有香が割り込んで聞いた。 「手放したいってどういうこと? 珍品なんでしょ?」 「そ……そんなこと言ったか?」 店主はどう見ても嘘をついている顔でのたまった。 「確かに言ったわ。ね? 皆、聞いたでしょ?」 「言ったね。僕も聞いた」 「わ、私も聞きました」 「そんなこと言ったっけ?」 しかし俺だけは文句つけるのに夢中で覚えちゃいなかった。 「言ったわよね?」 「…………」 店主の顔色が悪くなり汗をかき始めた。怪しすぎだ……。 「言ったのよ。自分でも覚えてないの?」 「…………い、言いました」 「そう……。じゃ、話してもらうわよ……」 「は、はい」 な、なんか……有香が怖い……。 見えないオーラが出ているような気がした。 「こ、ここでは話せませんので奥の方へ……」 俺達は店主と共に店の奥に入った。 「じ、実はこの指輪は呪われておりまして……」 「呪い? 曰く付きを店に出したのかよ」 俺は呆れてしまった。 しかし呪いの正体もなんとなく分かるので店主を責めてみた。 「しかし……珍品でしたし……」 「ふぅん。私達はその呪いの指輪を買いそうになったんだけど……」 「あ、いや……すみません!!」 「呪いの指輪なのに3000はないんじゃない?」 「え? で、でも……」 有香の言葉に店主はあせりまくっている。 「手放したいんでしょ? 私たちが貰ってあげましょうか?」 「ほ、本当ですか?」 「ええ、本当よ。ただし、値段によるわねぇ……」 有香……こいつ………値切る気だ。しかもやり方が上手い。 俺は聞き手に回るしかない。出番はなさそうだ。 「いくらなら買い取ってもらえます?」 「そうねぇ……10リーム」 「そ、そんな……!!」 「何? 呪いの指輪にお金出してあげようとしてるのよ? 10で十分じゃない」 ひ、ひでぇ……。300分の1……。 「記録によれば買取値は2000ですよ!? 10なんて無茶苦茶です!!」 「記録? あなたが買ったんじゃないのね?」 「え、ええ、先々代くらいになると思いますが……」 「100年近くも売れ残った物をまだ買い値以上で売る気?」 「わ、分かりました。1900でどうです?」 「全然分かってないじゃない……。前提として、この指輪は呪われてるのよ?」 「じゃあ、半額の950ということで……」 凄い……あっという間に3分の1まで落ちた。 「まだまだね。私の希望は10リームよ」 「さすがに10では無理です!! 勘弁してください!!」 「あなた、私たち騙しといてただで済むと思ってるの?」 「だ、騙す!?」 「騙したじゃない。呪いの指輪を何もないように見せかけて……」 「あ、あれは……」 「あれは?」 「……なんでもないです。じゃあ慰謝料分を差し引いて450リーム」 この値段なら買える!! サンキュー! 有香。 「ばらすわよ? この店が呪いの指輪を置いていたこと……」 お、脅したーっ!! 有香さん脅しに入りましたっ!! 「わ、わわ、分かりました!! 100で結構です。これで本当に勘弁してください!!」 しかしこれでも有香の攻撃は終わらなかった。 「50よ」 「9、90」 「50」 「……85」 「50」 「7、70」 「50」 「ちょっとは譲歩してくださいよ!!」 「50!!」 「……もう……50でいいです……」 店主は半泣きだった。さすがにかわいそうに思えてくる……。 こうして俺達はソウルウェポンの指輪を手に入れた。 有香も……《春香系》かもしれないな……。怒らせないよう注意しよう。 |