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 やっと俺もこの世界の住人らしくなってきた。
 服を借りている状態では、なんか俺がいるべき場所じゃないように思えた。
 服ごときで……と思うかもしれないが、結構重要なことだと思う。

第50話 密談と月光浴 <<雄二>>


 宿で食事を終えた時、有香に呼ばれて俺は今ここにいる。
 街から離れた草原……2つの月明かりが淡く照らしていていい感じだ。
 俺達2人は草の絨毯の上に座り、月を眺めていた。
「で?なんの用?」
「ちょっと雄二君に聞きたいことがあったから……」
「智樹やレナには聞かれたくないことか?」
「う、うん」
 呼ばれたときにちょっと期待した俺は駄目な男の子でしょうか……
 まぁ、ありえないことだとは思ってるけどな。

「今日、あのモンスターを倒したよね?」
「コブリンのことか?」
「う、うん」
「それがどうかしたか?」
「よ、よくあんなことができるなぁって思って……」
「殺したことか?」
 俺の言葉に有香はビクッとなる。
「その話か……」
 なんとなくコブリンを倒したときから有香の様子はおかしかった。

「前回の召喚のとき智樹がコブリンに刺されたんだ……」
「そ、それは智樹君に……聞いた」
「じゃあそのコブリン、俺が倒したコブリンだったって話は?」
「えっ!?」
 その様子を見るとどうやら智樹は詳しい話まではしていないみたいだ。

「あの時、俺は木刀で闘ってたんだ。俺には殺すことができなかったから……
でも、そのせいで智樹が刺された……。ウェポンのおかげで無事だったけどな」
 
 風華の力じゃ足りなくて神無が目覚めた時……
 智樹が後戻りできなくなった瞬間の出来事だ。
「その時に智樹に言われたんだ。この世界では守るために殺すことも必要な世界だってな」
「と、智樹君が?」
「モンスターの存在がある限り、文字通り……殺らなきゃ殺られるんだよ」
「…………」
「それとな……その時に決めたんだ。守るために全力を尽くすって……」
「そう……智樹君は変わったと思ってたけど、雄二君も変わってたんだね……」
 俺なんか変わったか? 変な短剣出せるようになっただけだぞ……

「もう一つ聞いていいかな?」
「ああ、なんでも聞いとくれ」
「なんで……この世界に来たの?」
「は? レナに呼ばれたからに決まってんだろ」
「そ、そうじゃなくて……この世界に来る理由よ」
「理由? う〜〜ん」

 この世界に来る理由ねぇ……。
 最初は昼寝中だったんだよなぁ……俺の意思じゃねぇし。
 次はコブリン騒動で緊急召喚だ。強制的に呼ばれたな……。
 で、今回は宴会にレナがキレて有無を言わさずに召喚くらったな。
 ……全部、俺の意思じゃねぇじゃん。

「……なんていうか……罠?」
「へ?」
「い、いや、なんでもない。え〜…理由は観光!!」
「か……観…光?」
 あ、有香が目を丸くしてる……。
「駄目か?この理由?」
「だ、駄目じゃない。全然駄目じゃない!」
 有香は慌てて首を横に振り、手をパタパタさせる。
 有香ってよく慌てるよな。そんなに慌ててどうするの?って感じだな。

「俺はさ、馬鹿だから智樹みたいに寿命とか時間とかそういうの考えられねぇんだ」
「…………」
「ただ、地球上の誰も来れない世界を純粋に楽しんでやろうって思っただけなんだよ」

「…………」(やっぱり凄いよ。雄二君……)
 有香が小声で何か呟いた。

「え?なんか言ったか?」
「ううん、なんでもない。聞きたいことはもう終わり」
「じゃあ、帰るか……」
 俺が立ち上がろうとすると
「あ、ああ、あの……もうちょっとだけ月を見ていかない?」

 月? まぁ、2つもある月なんてここだけだしな。

「そうだな。こんないい月……地球じゃ見れねぇしな……」
 俺は座りなおして空にある2つの満月を眺めた。
 ここはサ○ヤ人にとっちゃ聖地だな……大猿になり放題だ。
「綺麗だね……」
 有香が呟くように言った。
「そうだな……」
 俺もこう言うしかないほど綺麗な月だった。


「おかえり。ずいぶんと話してたんだね」
 俺が部屋に戻ると智樹が聞いてきた。
「ん? まぁな」
「告白でもされた?」
「バカ言ってんじゃねぇよ」
 からかい口調で言ってくる智樹にあっさりと返す。
「はぁ、有香さんも……苦労しそうだね……」
「は? 何言ってんだよ」
「いや、こっちのことだよ」
「あっそ、早く寝るぞ。明日も歩き尽くすからな」
「そうだね、じゃ、おやすみ」
「ああ、おやすみ」

俺達はとっとと眠りについた。


レナ&有香の部屋では <<有香>>

「何の話をしてたんですか?」
「た、たいしたことじゃないの」
「? そうですか……」
 雄二君は観光って言ってた。
 私も観光に来たと思うようにできればいいな……。

「レナさん。どうして雄二君をこの世界に呼んだの?」
 私はこの世界の話を聞いた時から疑問に思っていたことを聞いてみた。

「どうしてでしょうね……。私がグリズリーに襲われていたとき。
私の声が美空を通じて偶然ユージさんに届きました。
なぜユージさんだったのかは私にも分かりません。
もしかしたら……ユージさんは特別な人なのかもしれませんね……」

 雄二君が特別なのかな……それとも雄二君がレナさんにとって……。
 って何考えてんだろ……。
 私は嫌な考えを振り切った。

 だけど……この世界に来て雄二君との距離が縮まったような気がする。
 この世界の常識だったけど名前で呼んでもらって。
 私の考えを聞いてくれて……雄二君の考えを聞いて……
 一段と雄二君が好きになった。
 強くて、自分で何でも背負っちゃうくらい優しい人……。
 彼が危険と立ち向かうなら、私はそれを守ってあげたい。

「レナさん……私……この世界に来てよかった……」
「……? そうですか……それはよかったです」
「うん、おやすみ……レナさん」
「おやすみなさい。ユカさん」
 私は眠りに落ちた。そして夢を見た。



― 奴を守りたいのか? 守る力が欲しいのか? ―



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