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 風華の成長をもっと早く知っていればこのような事態にならなかった。
 まぁ、来たいって言うなら、一緒に行ってもいいけどさ……。
 これから召喚するたびにレナは倒れるくらい疲れることになるのか?

第48話 貿易 <<雄二>>


 飲んだ酒の量がそれほど多くなかった俺は二日酔いになることなく起きることができた。
 こんなこと言うといけないのだが、前のシア村での宴会では鬼のように飲まされたのだ。
 ある程度の量なら二日酔いになることはない。

「おはよう。雄二」
「おう、おはようさん」
 智樹は既に起きていて、二日酔いになった様子もない。

「有香は?」
「さぁ? さすがに部屋に入るわけにもいかないしね」
「そりゃそうだな……」
 今後はその点を気をつけなければならないだろう。
 俺達は居間でレナが来るまでくつろぐことにした。

「今日から300kmの道のりを旅するんだな……」
「ある程度の資金がいると思うんだけど、レナさん大丈夫なのかな……」
 この世界での生活は今のところ全てレナに頼りっきりだ。
 金を稼ぐ方法が分からないというのもある。
 長期にわたってバイトをするわけにもいかないので短期の仕事が必要だ。

コンコン

「レナさんかな……。ちょっと見てくる」
 智樹がそう言って出入り口に向かった。
 ここに来る奴なんてレナぐらいしかいないと思うが……。

「ユージさん、おはようございます」
 案の定、来訪者はレナだった。
「おはようさん。体は大丈夫か?」
「はい。美空を使うのはまだ無理かもしれませんが大丈夫ですよ」
「そっか、無理すんなよ」
 美空が使えないということは俺達は今日は帰れないということだ。
 有香は結局のところ一緒に来ることになっていたんだな……。

「レナさん。それでさっきの話なんだけど……お金のほうは大丈夫なの?」
 智樹はさっき俺と話していたことをレナに聞いていたようだ。
「大丈夫ですよ。お城から旅の資金5000リーム受け取ってますから」
「5000とはまた多くないか? 何日旅すんだよ……」
 リームを日本円に換算すると5000リームはだいたい50万円くらいだ。
「そうですね……何日くらいになるんでしょう……」
「レナも行ったことないのか?」
「行く必要がありませんからね。今回のようなことがないと……」
 今回のことというのはコブリンの大群のことだろう。
 シア村はこれまでモンスターに襲われるということを体験していないようだ。

「行くのはレナさんでいいの? こういうときは普通村長のリーブさんじゃないの?」
 智樹の疑問に俺も同感だ。
 村の重要事項に村長が何もしないのは異常に思える。
「村長がこの村を何日も空けるわけにもいかないものですから……」
「それも……そうだな……」
 確かにレナのいうことも一理ある。
「そのかわりに封書を預かってますから」
「ふ〜ん。まぁレナのほうがいろいろ動きやすそうだからいいけどな」
「そうだね。リーブさんには悪いけどね」
 リーブ村長と旅をするなんて想像できないものがある。
 しかもコブリン騒動のときに俺は彼女に怒鳴っている。
 気まずさ10倍って感じだ。

「お、おはよう」
 有香がようやく部屋から出てきた。
「おはようさん、ずいぶん寝てたんだな」
「ちょっと眠れなくて……」
 まぁ無理もねぇな。俺もこの世界で1日過ごしたときは寝つけなかったし……

「レナは昨日見てるけど紹介はしてねぇな。ユカ・サイトー。俺の友達だ」
「あ、おはようございます。レナ・ヴァレンティーノです」
 レナはいきなりの紹介に、慌てて有香にお辞儀をした。
「お、おはようございます。有香です。よろしくお願いします」
 有香も礼儀正しくレナにお辞儀を返す。俺達とは大違いだな。 

「ところで有香。なんで地球の格好のままなんだ?」
 俺達は既にこの世界の服装に着替えている。有香の格好はかなり浮いていた。
「え? え?」
 有香は俺達の格好を見直して驚いている。
「服装はこっちのにしないと……かなり目立つぞ」
 俺は経験済みである。しかも有香のように私服じゃなく、制服着用時だ。
「ユカさんの服は用意してませんよ。私の服でよければ貸しますけど……」
「う、うん。じゃあ、お願いします」
 そう言ってレナと有香は家を出て行った。

「そういや俺達ってレナの親父の服借りてるんだったな」
「でもレナさんのお父さんって見たことないね」
 智樹の言うとおりそういえば見てない。コブリン騒動のときにも見ていない。
「それってさ、もしかして……」
 言いたいことは分かる。レナの親父はもうこの世にいないのかってことだ。
「聞いてみたいが……聞きづれぇな」
「気にしないでおこうか……」
「そうだな」
 俺は頷いた。いつか機会があれば聞いてみよう。

「ジタルで服買おうぜ。5000もありゃ服ぐらいなんとでもなるだろ」
「そうだね。借りっぱなしじゃ悪いしね」
「それに、正直サイズがな……」
 ぶっちゃけるとズボンがでかい、紐で縛って何とか止めている。
 何も処置をしないでいた場合、ずり落ちてくる。
「僕のほうもサイズが合わないからね。レナさんに頼んでみようよ」
「いや、絶対に買わせる。もうこんなん嫌や」
 そのときレナと有香が帰ってきた。
「おまたせしました」
「と、いうわけでジタルで服買うぞ」
「は、はい?」
 突然話を振ってやったため、レナは何がなにやら分からないようだ。

「ゆ、雄二くん。どうかな?」
 赤い顔した有香が俺に感想を聞いてくる。
 有香の服装は《布の服》だ。上は半そで、下はスカート。防御力は皆無だ。
「攻撃されたら痛そうだな」
 俺は思ったことをそのまま述べた。
 かくいう俺達も型は違うが同じ《布の服》を着ていて防御力的には変わりないのだが……。
「…………」
 有香はこっちを向いたまま黙り込んでしまった。
「有香さんはそういう意味で言ったんじゃないと思うよ……」
 智樹は即座につっこんだ。まぁ、そうじゃないかとは思っていたけどな……。
「似合ってると思うぞ。うんうん」
「あ、ありがとう」
 言い直した俺のセリフに有香が礼を言う。

「さっそく行こうぜ」
「待ってください。その前にちょっと買い物を……」
 俺の号令にレナのストップがかかる。
「なに買うんだよ。買い物はジタルのほうが絶対いいぞ」
「ちょっとお金増やしていきましょう」
「何か、方法があるの?」
 智樹が不思議そうにレナに聞く。
「プーチ酒を買います。この村の特産品なんです。それを今度はジタルで売ります。
シア産のプーチ酒は世界でも有名ですから隣町でもそれなりに稼げますよ」

 確かに宴会のときに飲んだプーチ酒は美味かったな……。
 それにしても旅を利用して金稼ぎをやるとは……レナも結構侮れない。

「どれくらい稼げるんだ?」
「1割程度ですけど5000リーム分買えば500の稼ぎになります」
「よし、酒屋に行くぞ」
 独断即決で簡易貿易をやることに決めた。
 俺達は酒屋でプーチ酒を買った。


「絶対に割るなよ……」
 《最高級プーチ酒》を5本購入し酒屋をでた。
 一本10万円の高級酒。割ってしまえばその時点で俺達の旅の資金が激減する。
 緩衝材に包み、リュック型のバッグにいれる。
「それじゃ、今度こそ出発。絶対に走るなよ」
 バッグを持つ智樹に言い聞かせ、俺達はそろそろと出発した。



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