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智樹が斉藤さんを起こしに行ってからずいぶんと時間が経った。 斉藤さんは俺達の説明を聞いてどんな決断を下すんだろうか。 そして足にしがみついてまでリオラートについてきた理由ってなんなのだろうか……。 ｢お待たせ雄二｣ 智樹が斉藤さんを連れて居間にやってきた。 ｢ずいぶん時間かかったな｣ ｢なかなか起きてくれなくてね……。ね？斉藤さん｣ ｢う、うん｣ ｢じゃあ、説明しようか……｣ 智樹たちは席についた。 ｢僕からある程度のことは説明しといた。ここの危険性もね｣ ｢そうか……時間のことも命のことも聞いたんだな？｣ ｢う、うん｣ ｢斉藤さんは帰りたいだろ？ 巻き込まれただけだもんな？｣ ｢雄二……残ることに反対だからってそんな訊き方はないと思うよ……？｣ ｢……そうだな、ごめん。斉藤さん、どうしたい？｣ ｢わ、私……残りたいよ｣ ｢!? なんでだよ!! 危険なのは分かっただろ!?｣ ｢…………放っておけないから……｣ ｢え？｣ ｢ふ、藤木君も谷口君も……死ぬかもしれないって知ってしまったから……｣ ｢…………｣ ｢力になってあげたいの……助けになってあげたい。 私……藤木君にも谷口君にも死んでほしくない!!｣ ｢……わかってるじゃん。俺は斉藤さんに死んでほしくないから反対なんだよ｣ ｢で……でも、事情を知っちゃったら……協力してあげたいよ｣ なんでこう頑固なんだよ!! 死ぬかもしれないんだぞ!! ｢雄二……僕は賛成だよ｣ ｢智樹!?｣ ｢さっきも言ったけど……これは斉藤さん本人が決めたことなんだ｣ ｢…………｣ 納得できなかった。もし斉藤さんが死んでしまった場合……。 俺は巻き込んでしまったという自責の念に耐えることはできないだろう。 ｢藤木君……巻き込んだ……って思ってるよね？｣ ｢!?｣ ｢わ、分かるよ。藤木君分かりやすいもん。 でもね、私は藤木君に巻き込まれたんじゃない……。 私から巻き込まれたの。自分から首を突っ込んだの｣ ｢…………｣ ｢だ、だから……気にしなくていいの。気に病む必要はないの｣ ｢でもさ……｣ ｢心配してくれるのは嬉しい……でも、自分で決めたことなの……｣ ｢…………｣ ｢ふ、藤木君が反対しても私は行くからね｣ ｢雄二、雄二の負けだよ。斉藤さんはもう決断をしてる｣ もう……何を言っても無駄なのか？ 負けってそういう意味かよ……智樹……。 ｢……他人の意思じゃなく、自分の意思で来たんだな？｣ 俺の言葉に斉藤さんは首を縦に振る。 ｢今更だけど……智樹もそうだな？｣ ｢当然だよ｣ 俺は人の意志を捻じ曲げようとするほど自己中じゃない……と思う。 いいだろう……こうなったらとことん付き合ってもらおうじゃねぇか ｢死んでも文句言うなよ!! 俺の責任じゃねぇからな!! 智樹!! 有香!!｣ ｢元々そのつもりだよ。雄二に責任とって貰おうなんて思ってないよ｣ ｢!? ゆ、有香……？｣ 有香は呼び方を変えたことに慌てふためいている。 ｢ん？有香でよかったよな？｣ ｢う、うんうん｣ ｢こっちじゃファーストネームで呼び合うのが常識なんだよ｣ ｢じゃ、じゃあ私も……？｣ ｢当たり前だろ。な？智樹｣ ｢そういえばそうだね。当たり前すぎて気付かなかったよ｣ ｢そ、そうなの？｣ ｢｢ うん ｣｣ ｢智樹くん……ゆ、ゆゆ……雄二くん……｣ ｢君付けじゃなくてもいいけど、まぁ……それでいいや｣ ｢そろそろ寝なきゃね。明日から長旅だよ？｣ ｢そうだな……ん？｣ 有香の腕に擦り傷ができていた。 ｢有香。その傷……｣ ｢え!? あ、ゆ、雄二くんを捕まえたときに……ちょ、ちょっと……｣ ああ……あのタックルか……。 ｢早く言えよそういうことは……『風華』｣ 『結局巻き込んじゃったわね〜』 (うるせぇ!! 有香自身の意思だ。俺のでる幕じゃないだろ？) 『そうね。ちょっとは成長したわね雄二』 (ああ、そうかい!! とりあえず傷癒すぞ) ｢<<風華の主が命ずる。風よ、この者の傷を癒せ>>｣ ｢!? す、すごい……｣ 跡形もなく消えた傷を見て有香が驚く。 『あ、そうそう。あたし７級に昇格したわよ』 (は？いつ？) 『前回のジタルの街に行ったとき』 (言うのおせぇよ!! もっと早く言わんかい!!) 『雄二……言わせてくれる雰囲気じゃなかったじゃない』 (ぐ……) 『追加能力……聞く？』 (当たり前だ。何だよ？) 『《春風》と詠唱短縮よ』 (はるかぜ？効果は？) 『眠りを与える魔法』 (…………なぁ、もしかして……それを有香に使ってたら……) 『無事に地球に帰せたでしょうね』 (やっぱり言うのおせぇ!!) 『済んだことをいつまでもグチグチ言わない!!』 (ちっ!! ……で？詠唱短縮ってのは？) 『<<風華の主が命ずる>>って部分を省略できるようになったわ』 (じゃあ、今の癒しも省略できたんだな？) 『当然♪』 ｢ちくしょう!! 言うのが遅せえんだよ!! クソ剣!!｣ ｢!? どうしたの？雄二!?｣ 思わず口に出してしまっていた…… ｢い、いや、なんでもねぇ｣ 『気は済んだ？続けるわよ？』 (好きにして……) 『《春風》の呪文は<<風よ、彼の者に安らかな眠りを与えよ>>よ』 (了解……覚えとく……) 『詠唱短縮すると威力落ちるからね』 (はいはい) 『あと……二度とあたしのこと《クソ剣》と言わないように!!!』 キレよったで……。怖いわぁ…… ｢風華、消えろ｣ こういうときは強制的に消してしまうに限る。 ｢じゃ、寝ようぜ｣ 俺達は寝室に入った。 ｢さすがにこのまま眠れないよね｣ 寝室にはベッドが４つ。それは問題ないんだが…… ｢わ、私のことなら気にしないでいいよ!!｣ 智樹の言った意味を理解した有香が慌てて言った。 嘘言っちゃいかんよ、有香君……。 それに、有香が気にしなくてもこっちが気にするんですよ……。 ｢智樹。ベッド一個運び出すぞ。隣の部屋……空いてるだろ？｣ ｢了解｣ 俺は智樹とベッドを隣の部屋へ運び出した。 その後ようやく俺達は床に就くことができた。 これからもいろいろと面倒なことになりそうだ……。 |