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 誤魔化してでも、嘘をついてでも言ってはいけない事だってあると思う。
 リオラートという異世界のことだってその範疇にある。
 なぜなら命に関わる危険性をはらんでいる世界であることをよく知っているからだ。

第43話 MVP <<雄二>>


ピ〜ンポ〜ン
 俺は家で着替えを済ませ徒歩30秒のでつく春香の家のチャイムを押した。
 ここで逃げればピンポンダッシュなのだが、この家にやったら俺の寿命は縮むだろう。

「春香〜。来たぞ〜。宴会行くぞ〜」
 マイクに向かって話しかける。
「ご苦労。ちょっと待つヨロシ」
 今日、春香は中国風がマイブームらしい。
 しばらく待っていると春香が出てくる。
「行くべ、行くべ」
「あいあいさ〜」
 俺達は《湊宿》に向かって歩き出した。

「雄二、今日の戦いは燃えましたな〜」
「そうか?マラソンなんかやる意味すら感じなかったぞ」
「何を言う。あの古今東西にこそ意味があると思うよ?」
「俺にはその感性は理解できん」

「野球での一件でも新しい発見があったんじゃない?」
「斉藤さんのことか?」
「そそ」
「まぁ、確かにな。あそこまで宴会好きとはな……」
「……有香も報われないねぇ」
「何のことだよ」

「知らぬは本人ばかりなり……か……」
「わけの分からんこと言ってんじゃねぇよ」
「ま、いいけどね。実に雄二らしいぞ」
「何が言いたい。はっきり言えよ」
「べっつに〜」
「……なんかムカつくぞ」
「勝手にムカついてるヨロシ」

 本当にムカついてきたぞ……

 午後7時10分、《湊宿》に着いたのは俺達が最後だった。
「遅いぞ、バカップル!! とっとと始めんぞ」
 田村の一言に怒りを覚えながら俺達は席につく。
「え〜、では、これから打ち上げを始める。全員グラスを持て、乾杯すんぞ」
 俺は田村の号令にコップを持つ、ビールは準備済みだ。
「俺達の体育大会優勝とこれからの学校生活に乾杯!!!」

「「「 かんぱ〜い!!! 」」」

 宴会場のテーブルに4人一組で振り分けられている。
 俺のテーブルには春香、健吾、斉藤さんがいた。
 俺はビールを一気に飲み干しコップをテーブルに置く。
「ふぅ〜〜」
「おお、雄二。いい飲みっぷりじゃねぇか」
 俺はビールが嫌いだ。だって苦いじゃねぇか。

「ゴリ黙れ。俺はカクテルが飲みたいのだ」
「ゴリ言うな!! お〜いスクリュードライバーよこせ!!」

 さすが、健吾はわかっている。
 スクリュードライバーは俺の好きなカクテルだ。
 オレンジの味がたまらない。

「ハエたたきをマスターしたそうじゃないか。ゴリと言って何が悪い」
「お前はあの暇さが分かってねぇ!! 一人でジャンプし続けたんだぞ!!」
「練習してないで参加すればよかったじゃん」
 春香がつっこむ。

「パスこねぇんだよ。無視されるんだよ!!」
「そうか……。お前も大変だな。まぁ飲め」
 俺は健吾のグラスにビールを注いでやった。
「お前の酌など嬉しくない!! 斉藤さん注いでくれ〜」
「嫌。そんなことしたくない」

「…………」(雄二だったら喜んでやるくせに……)
ボカッ
「いってぇな!! 本当のことだろ!!」
「うるさい!!」

 健吾が何か言ったあと、斉藤さんは顔を真っ赤にして健吾を殴りつけた。
 健吾のやつ……何を言ったんだ?

「全員注目〜」
 田村が全員に呼びかける。
「体育大会のMVP発表するぞ〜。ちなみにヨッシーの独断だからな!!」

 は? MVP? んなもんいらん。
 春香も興味がないらしく食事を再開している。

「藤木。お前だ。マラソンに卓球、サッカーと全部得点に絡んでる。
ヨッシーから商品あるから、取りに来い」
「いらん。俺MVPなんか欲しくないぞ。頑張ってもねぇしな」
 そう言って酒を飲む。
「わざわざヨッシーが買ってくれたんだぞ。どうすんだよ!?」
 田村が商品らしきものを持って俺に尋ねる。

「ん〜、じゃ斉藤さんにやる。一番頑張ってたからな」
「わ、私!? 私、野球しかやってない!!」
「いいから行ってこいって。商品だぞ?貰っとけよ」
「い、いや、でも……。藤木君のものだし……」
「じゃあ、俺から斉藤さんにやるよ。それでいいだろ?」

 誰でもいいんだよ。奴の商品なんぞどうせたいしたもんじゃねぇんだから。
 どうせどっかのつまらん玩具かなんかだろ。

「……じゃあ……取ってくるね」
「おお、おお、行け行け」
 酒を飲みながら適当に言う。斉藤さんは立ち上がって商品とやらを取りに行った。
「雄二……最悪……」
「はぁ?春香に最悪と言われちゃ、おしまいだな」
「……それは挑発と受け取っていいのかな?」
「じょ、冗談ですよ、大佐殿」
「酒の場だからってあまり羽目を外しすぎたら……怒るよ?」
「わ、わかった。肝に銘じとく」
「よろしい」
 結局春香が最悪といった理由は分からずじまいだった。

「何が入ってんだ?」
 中身が気にならないかと言われれば気になるに決まってる。
「ち、ちょっと待ってね。今あけるから」

ガサガサガサ

「「 ………… 」」

 中身を見て俺達4人は絶句した。
「なぁ雄二……これってシャレだよな」
「多分な……春香はどう思う?」
「いやぁ、ヨッシーも悪戯好きだねぇ」
「本物だったらどうするの!?」

 箱一杯に“袋詰めの白い粉”が入っていた。
「どうしましょうか……」
「雄二、舐めるヨロシ」
「なんで俺!? 健吾曹長……やれ」
「冗談。俺、味なんかわかんねぇもん」
「俺だってわからねぇよ!!」
「よし、ここは……田村〜!!」
 春香は田村を呼び出した。

「なんだよ井上」
「これ舐めるヨロシ」
 スプーン一杯の白い粉……。
「? まぁ、いいけどよ……」

 田村はそう言ってスプーンを口に入れた。
 知らないとは恐ろしいものだ……。

「なんだこれ!! 小麦粉じゃねぇか!!」

「ちっ!! 小麦粉かよ」
「ヨッシーめ。このまま送りつけてやる」
「有香もいらないでしょ?」
「うん……いらないよ」

 後日ヨッシーの名前でヨッシーの親類縁者に白い粉が送られることになるが
 それはまた別の話……



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