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 斉藤さんが一体俺に何の用だろう?
 小さなその公園には人影は無く、俺達はベンチに座った。

第42話 言い逃れ <<雄二>>

「あ、あのね。聞いていいかな……」
 斉藤さんは言いづらそうに俺に聞いてきた。

「ああ、内容によるけど答えるぞ」
「リオラートって何?」
「!?」

 は?なんで斉藤さんがリオラートなんて言うわけ?

「谷口君との会話聞こえちゃって……私、耳いいから……」

 聞かれた!! リオラートの話を!? 全部!?

「な、何って……言ったろ?ゲームだよ。智樹に貸したゲーム」
「じゃあ、レナって誰?」
「ゲ、ゲームの登場人物だよ。よくある名前だろ?」
 ヤバイ、ヤバすぎる。
「ゲームの登場人物が人を呼ぶの? ……藤木君、言ったよね『レナがお呼びだぞ』って」

 なんでそんなことまで聞いてんだよ!!

「あ〜、あれはゲームの用語!! オンラインゲームなんだ。
レナっていう名前の人が俺達を呼んでるから智樹にも知らせたんだ」
「…………」
 よし、我ながらナイスな言い訳だ。
「リオラートっていう異世界を探検するオンラインRPGなんだよ
面白いぞ。斉藤さんもやってみればどうだ?」

「……本当にゲームだよね?」
「当たり前だろ」

 斉藤さんにじっと見られている。無言の空間が嫌な感じだ。

「……わかった。藤木君、変なこと聞いてごめんね」
「本当に変なこと聞くなぁ……。斉藤さん、どうかしたのか?今日はやっぱり変だぞ?」
「ち、違うの。ただちょっと気になっただけ。ゲームの話にしてはおかしいなって」
「じゃあ、もう行こうぜ。打ち上げに遅れちまう。斉藤さんもそのために頑張ったんだしさ」
「へ? う、うん、そうだね、行こ」
「送ってこうか?」
「い、いい、いいよ!! 家すぐそこだから!! じゃあ、またあとでね!!」
 斉藤さんは走って公園を去っていった。

「ふぅ〜。危なかった……」
 俺はベンチに座ったまま大きくため息をついた。

 何とか誤魔化しきった。智樹にも口裏合わせなきゃな……
 俺は携帯を取り出し智樹に連絡した。
「よう、俺。雄二」
「わかってる、どうしたの?」
「春香とは別れたか?」
「うん……リオラート絡みだね? 斉藤さんかな?」
 智樹と話すときは前置きが必要ないときが多い。話は早くて助かる。

「さすがだな。斉藤さんにばれたかもしれない。
何とかリオラートっていうオンラインRPGってことにしといたけど」
「斉藤さんは耳がいいらしいからね」
「知ってたのか?」
「噂程度には知ってたよ」
 噂程度じゃ俺の耳には入らないな。
 なんせ俺は自他共に認めるほど情報に疎い。

「俺達の会話が全部聞かれてた」
「全部!? あんな小声でしゃべってたのに!?」
「ああ、全部聞かれててかなり問い詰められた」
「予想以上だね……で、僕は何をすればいい?」

「レナは俺達の友達、顔も名前も知らないプレイヤー。
リオラートはゲームの名前。
俺が言い訳したのはこれだけだ。口裏合わせといてくれ」
「了解。斉藤さんには警戒が必要だね」
「ああ、気をつけようぜ」
「別にばらして連れてっちゃってもいいけどね」

「それは……なるべく避けたい。それが斉藤さんのためだ」
「そうかもね。じゃ、あとでね」
「おう、遅れんなよ」
プチッ

 久々に疲れた。体育大会なんかよりこっちのほうが精神的にくるな……
 斉藤さんがあそこまで鋭いとは……完璧に予想外だった。
 たったあれだけの情報で疑うんだから相当警戒が必要だろう。

「『風華』」
 周囲を見渡して人がいないことを確認してから呼び出し、制服の中に風華を隠した。
『こっちでは使わないんじゃなかったの?』
(うるせぇな。ただ話を聞いてほしかっただけだよ)
『斉藤さんのこと?』
(さすが、プライバシー無視の女)
『人聞きの悪いこと言わないでよ!! 魂の共有と言って!!』
(わかった、わかった。で、どう思う?)
『ばれてはいないけど納得もしていないと思うわ』
(そうか?なかなかの言い訳じゃなかったか?)
『雄二にしてはうまい言い訳だったけどね』
(じゃあ、何が問題なんだよ)
『う〜ん、あえて言うなら目かな』
(目?)
『あれは納得した人間の目じゃない。半分以上疑ってる目だよ』
(なんでそんなこと分かるんだよ)
『女の勘。それと観察眼』
(勘かよ!! それにその観察眼とやらも説得力ねぇ!!)
『でも、多分当たってるよ』
(まぁ俺も100%納得させたとは思ってなかったけどな……)

『頑張って注意しなさいな。ばれたらまた巻き込むことになるわよ?』
(分かってる。それだけは避けたいな)
『雄二は自分のせいで人を巻き込むのが大嫌いだからね〜』
(風華。お前って奴は……)
 自分の本心が風華に知られていることに軽くいらついた。
『雄二の想いはあたしの想い。それくらい分かるわよ』
(……あっそ)


『隠し事っていうのはいつでもばれる可能性を秘めているの』
(どういうことだよ?)
『隠し続ける限り、いつか誰かにばれるかもしれないってことよ』
(そうだろうな。でも俺は隠し続けるつもりだぞ)
『それも間違いじゃないわ。あの世界にはこっちの常識は通用しないからね』
(まったくだ)
「もういい。ありがとな、風華」

 ベンチから立つと、俺は全力で家に向かって走った。



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