光と共に親友は消え、代わりに顔も名前も知らない女がそこから現れた。 そして、その女は泣きながら俺の胸を何度も何度も叩いていて…… そのぜんぜん痛くないはずの攻撃が、親友に刺されるよりも痛かった…… 悔しい……。アイツが腹を括ったとき、なんで俺はアイツの隣に立てないんだろう。 どうしてすべてが終わってから、ようやくその場所にたどり着くのだろう。 ただひたすらに泣き続ける少女に、俺は何を言えばいいんだ? 俺には何の責任もなく、責められる謂れもない。だから謝る必要もない。 (なのに……なんだよ、この罪悪感は……) 少女の両手は止まることなく俺の胸を叩き続ける。 俺があと30分早くこの場所に来ていれば、結果は変わっていたかもしれない。 けど、俺は早く来れなかったんだ。それが変えようもない結果だ。 (ったく、泣きてぇのは俺の方なんだぜ?) 雄二が死んじまった……。 まだまだ言いたいことも、やりたいこともあったのに……。 全部、終わっちまった。俺の大事な親友があっさりといなくなっちまった。 (なぁ……雄二。お前、本当にもうどこにもいないのか?) 俺達がこの世界に来たときみたいに、どこかに移動したんじゃないのか? 本当は生きていて「かかったな、ドッキリだ」とか言ってくれるんじゃないのか? そんな考えに、俺の中の何かが確実にNOと答えてくれる。 分かっているんだろう? 本当に消えちまったんだよ、と訴えてくる。 (ああ、分かってる。なんせ俺の目の前で光って消えたんだからな……) 「なにが"楽しくしろ"だ!! なにが"同じクラスで良かった"だっ!!!」 身体はいまだに痺れていて、ほとんど動かない。 「楽しくしたのも、同じクラスで良かったって思わせたのも!! 全部てめぇじゃねぇか!!!」 だから俺は叫んだ……悔しさを開放するように叫びまくった。 「ふざけんじゃねぇぞ!!! そんな面倒なもん俺に任せんじゃねぇよ!!!」 「ちくしょう……」 もう、これからどうすりゃいいのかも分からねぇよ……。 「なかなか感動的な話じゃないか……」 また知らねぇ奴の登場だ。今度は野郎か? てめぇら、とりあえず名を名乗れよ。 しかし、いつの間に近づいたのか、いつから見ていたのか、ぜんぜん気付かなかった。 それほど俺は隙だらけだったってことか……。 周囲のことなんか、どうでもよくなるほどのショックだったらしい。 「消えていく仲間と仲間を失い嘆き悲しむ者達。実に感動的だ……」 その一瞬でそいつのことが判断できた。 気に食わない、コイツはクソ野郎だ……と。 「まぁ、いい。ところで、これをやったのは貴様等か?」 そいつの言う"これ"が何のことを指しているのか、倒れている俺には分からない。 「だったら、なんだよ?」 田村はうざったそうに、そいつに言い返した。 どうやら田村もそれどころじゃないと思っているらしい。 こっちは人一人消えちまった直後なんだぜ? くだらねぇ質問に詳しく応えていられるほどの精神的余裕はねぇよ。 「帰ってみれば、まだクェードが落ちていない。 その上、ここに送った下僕共はほぼ全滅。気にもなるだろう?」 今の言葉を聞いて、その意味が理解できない奴はいない。 (コイツが黒幕かっ!!!) 「そう……。アンタがそうなの……」 俺に覆い被さっていた少女は、奴の言葉を聞くや否や、静かに立ち上がった。 「ほぅ……疾風の風華が宿主の死に泣くか。血も涙もないのかと思っていたがな」 「…………」 少女は何も言わない。ただ黙って奴を見据えている。 しかし、分かったことが二つほどある。 少女が風華という名前であることと、彼女が味方であることだ。 もし、彼女が味方じゃなければ、俺はもう死んでいるはずだ。 彼女が握る双剣によって……。 「健吾君、立てる?」 彼女……風華さんは俺の方をちらりと見ながら、俺の身体の状態を聞いてきた。 身体中が痺れているような感覚はまだ続いていて、ピクリとも動きそうにない。 「……あ、いや。まだ、動けそうもない」 いきなり、初対面の人間に名前を呼ばれるのは妙な感覚だった。 そして、さらに身体を気遣ってくれるとなると、ますます変な感じがする。 「そう、じゃあすぐに立ち上がって、皆とここから離れなさい」 オイ……俺は動けそうもないって言ったんだぞ? 聞こえてんのか? 俺の言葉なんか聞く耳持たねぇってことか? 俺の意見は完全無視か? 「……だから動けねぇって」 「あのねぇ……。動けるようにしたから、とっとと逃げなさいって言ってるのよ」 「へ?」 そう言われて、身体中にあった痺れが、既になくなっていることに初めて気付いた。 え? どうやったんだ? しばらく動けそうにないと思ってたのに……。 俺は何事もなかったように立ち上がることができた。 「えっと……サンキュ?」 お礼を言うべきなんだろうが、どうやったのか分からなかったので疑問形だ。 「お礼なんていいから。早く離れないと危ないわよ?」 「危ないって何が?」 「アレが、よ」 風華さんが短剣で指した先には、例の男とその後ろから来るモンスターの大群。 (げっ!! なんだよありゃ!!? 数十匹じゃすまねぇぞ!!!) 百匹は優に超えているだろうモンスター達がゆっくりと歩いてきている。 「皆はとっくに逃げちゃったわよ?」 そう言われて振り向くと、結城達3人は100mくらい後方に避難していた。 (あいつら……俺を放って逃げやがったな) 信じられん奴等だ。そして、それに気付かない俺もかなり抜けている。 「準備はいいか? では、そろそろ始めよう……」 ちょっと待て!! てめぇの目は節穴か!! 準備できてねぇのが、ここに一人いるのが見えてねぇのかよ!!! 「ええ」 風華さん!! アンタもかい!! 俺はまだ避難完了してねぇって!!! タンッ 滑るように走り出した風華さんは一瞬で数十m先にいた。 そして、俺なんか存在していないかのように、戦闘が始まった……。 |