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 しっかし、女王も気前がいいな
 エリスを連れて行くことが決まったら即行で馬車一台プレゼントだ。
 馬の世話とか地球に戻ったらどうしよう……。

第67話 馬車の旅 <<雄二>>


 馬車の運転ってやつは思ったより簡単だった。
 左右の手綱を引くだけで方向を決めることができる。

 女王との謁見を終えた俺とエリスはすぐにクェードの街を出ることとなった。
 それもあのじゃじゃ馬が「すぐに出たい。早く行こう」と急かしたからだ。
 おかげで逃げるように街を出る羽目になってしまった。
「はぁ」
 せめてもうちょっと観光とかしたかった……。
 そのことを思うとため息が止まらない。

 有香やレナと同じような旅人の服に着替えたエリスはどっから見ても一般人だ。
「ユージ、遅い。もっと早く」
 エリスが馬車から顔を出して言う。
「黙れじゃじゃ馬。お前も他の馬と一緒に馬車引っ張るか?」
「嫌よ。ユージが引っ張りなさいよ!!」
「やなこった。嫌ならこのスピードで我慢しな」
 ガキのお守りなんか冗談じゃねぇぞ……

「『風華』」
 暇つぶしに風華を呼ぶことにした。
『今回もまた思い切ったことをしたわねぇ』
(帰りが楽になったんだからいいじゃねぇか)
『しっかし雄二はやることが無茶苦茶だよ……』
(お前は性格が無茶苦茶だろ)
『……余計なお世話よ。雄二、最近あたしで遊んでない?』
(気のせいだろ?)
 実を言うとかなり遊んでいるような気がする。

『エリスに言うの?地球の存在と雄二達がそこから来てること』
(そこなんだよなぁ。外に出すことしか考えてなかったからな……)
『いいんじゃない?言っても、あの子なら問題ないと思うわよ?』
(アイツ……レナに頼んで地球に来たりしねぇかな……)
『……やりそうで怖いわね。黙っときましょ』
(どうやって秘密にするかを考え中だ)
『春風で眠らせるってのはどう?』
(これから毎回やるのかよ……)
 今回はそれでいけるかもしれないが次回からは策が必要だ。
 智樹にでも相談してみるか……。

『雄二、モンスターよ』
(どこだよ)
 周囲を見渡してもそれらしい姿は無い。
『上よ』
 言われると同時に見上げると怪鳥が空を飛んでいた。

「おい、敵襲だ!! 智樹、運転してくれ!!」
「わかった」
 智樹と運転を代わり、馬車から飛び出す。
(風華、どう戦う?)
『そうね……とりあえず矢でも撃ってみる?』
「OK!! <風よ、矢となりて我が敵を討て!!>」
 収束した風が怪鳥に向かって撃たれる、が余裕でかわされた。

『やっぱり無理よねぇ……』
「なら言うな!!」
『そういうことは自分で戦略考えてから言いなさい!!』
「ったく!!しょうがねぇな。<風よ、彼の者に安らかな眠りを与えよ>」
 広範囲の風だ。避けれるもんなら避けてみな!!
『鳥に春風は効かないわ。見て!!』
 奴は春風に乗って上昇しただけで眠ることはなかった。

『相性悪すぎ。お手上げね』
(間接攻撃ができるのは俺だけだろ?どうすんだよ?)
『参ったわね……カウンターでも狙ってみる?』
(それしか手はないか……)
 しかし怪鳥は様子を見るだけで攻撃してくる気配は全くない。
(あいつ、やる気あんのか?)
『モンスターの考えることなんて分かるわけないじゃない』
(だよなぁ……)
 一向に降りてこない。上空をぐるぐる旋回するだけだ。

「逃げれるんじゃないの?」
 いつの間にか隣にエリスが来ていた。
「いや、あのスピードじゃ追いつかれるぞ」
「まぁ見てなさいって」
 数十m先に止まった馬車に向かう。
「トモキ、運転代わって」
「え、エリスが運転するの?」
「いいからいいから」
 智樹はためらいを見せながらも運転を代わる。

「いっくわよ〜」
 嫌な予感がする。
「それっ!!」

パシンッ

 やりやがった……
 猛スピードで馬車は動き出す。
「追いつけるものなら追いついてみなさい!!」
 全員馬車にしがみつく。
「エリス。早すぎだよ!!」
「あははっ。いけいけ〜」
 智樹の言うことも聞かない。トランス?
 おかげで馬車の中はとんでもないことになっている。
 荷物が室内を飛び交い、ぐちゃぐちゃになってしまった。
 怪鳥の様子を見る。しっかり追ってきている。

「おい、追ってきてるぞ!!」
「何人たりとも私の前を走らせはしないわ!!」
「人じゃねぇし走ってねぇ!!」
『無駄よ。自分の世界にトリップしてるわ……』
「ちくしょう!! 任せるんじゃなかった!!」
「もう、遅いよ雄二!!」

「こ、この揺れ……耐えられません」
「レナさん!! 雄二君、レナさんが酔っちゃった!!」
 有香がレナの看病に回る。
「ええい、次から次へと……エリス!! ちょっとは自重しろ!!」
「まだまだ〜!!」
「…………」
『聞こえてないわね……』
(やっぱコイツはじゃじゃ馬姫だ……)
『あたしもナイスネーミングだと思えてきたわ』
 その後も馬車は暴走を続けた。



 数十分後、怪鳥から逃げ切ることはできたがパーティに多大な被害を及ぼした。
「おい、じゃじゃ馬。お前……馬車の運転禁止」
「え〜。逃げ切れたからいいじゃない」
「俺達の身が危険だ。レナなんか倒れちまったじゃねぇか」

「……止めてください………止めてください」
「大丈夫よ。もう止まってますから……」

 レナの看病をする有香。それを見てエリスは気まずそうに言う。
「まぁ、大事の前の小事ということで……」
「ぜんぜん小事じゃねぇ!!」
「あれはトラウマ決定だね……」
 智樹の言うとおりレナは精神に傷を負っただろう……。

「それに馬は完全にばてばてだし……どうすんだよ……」
 一歩も進めなくなった。
「じゃ、今日はここでキャンプってことで」
 空を見る。まだ真昼間だった……。
「早いお泊りで……」
 と言うしかなかった。



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