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 泣かせるつもりなかったんだけどな……
 斉藤さん……悪いことしちまったな。
 全部一人で頑張るほどB組の勝利に貢献してくれてたのにな……

第35話 B組の闘い5 <<雄二>>



 4回表、得点は2−0。対戦相手は2−Fだ。
 ヘルプに入った春香が斉藤さんに代わってピッチャーをやっている。
 斉藤さんはライトに配置した。体力の回復に専念してもらいたい。
 まぁ、春香が1塁踏ませるとは思わないけどな……

「ストラーイク!! バッターアウト!! チェンジ!!」
 ほらな……

 次の打順は下位打線、このままいけば余裕で勝てる。
 この試合が終われば昼休みだ。
「春香。バレーのほうはどうなったんだ?」
「勝ったよ。何故か相手が棄権したの」

 何故か……ね……。
 たぶん殺人スパイクの一つでもお見舞いしたんだろう。

「バスケのほうはどうだった?」
「順調に勝ってたみたい。高槻君がゴリラ化してた」
「は?」
「『ゴール下は戦場だ!!』とか言ってたよ?」
「ああ……そのゴリラね……」

 あれ?いつの間にか満塁……ってことは……
 いつの間にか点数が4−0になっていた。
「次、有香の打順だよ。早いねぇ〜回るの。その次あたしじゃん」
「う、うん。じゃあ行ってくるね」
「斉藤さん、気楽に行けよ?」
「は、はは…はい!!」
 斉藤さんはダッシュでバッターボックスに走っていった。

 全然気楽じゃねぇ……本当に分かってんのか?

「そういや、なんで有香泣かしてたの?」
「いや、泣かせるつもりはなかったんだけどな……」
「女泣かせるなんてサイテ〜ですネ」
「ただ、自分の体力無視して一人で無理してたから怒っただけだ……」
「へぇ、あの有香がねぇ……」
「ピッチャーでは全部全力投球。バッターでは全球ホームラン狙い。
で、さっき敬遠されて歩くときには盗塁狙い。無理しすぎだっつうの」
「よほど宴会したいんだろうね」
「倒れちまって参加できなかったら、何の意味もねぇのにな……」

「あ、またホームラン狙いみたいよ?」
「やっぱ全然分かってねぇみたいだな……」

カァァン!!

「おお、当たりましたな〜」
「こりゃ、いったな……」
 ボールの行方を見るまでもなくホームラン確定だ。
「んじゃ、次いってくる」
「じゃあ、ホームランよろしく」
「リクエスト承りました〜」
 春香がバッターボックスに向かう。
 入れ替わるように斉藤さんが戻ってくる。
「あのなぁ……俺の言ったこと分かってんのか?」
「あ、あれが最後。もう無理しないから」
「ったく。そんなに宴会したいのか?」
「えっ!? ち、違うよ!!」
「ん? 他になんかあんのか?」
「えっと、えっと……何にもないです……」
「??? まぁいいや。これが最後だからな。午後からは見れねぇけど無理してたら……」
「わ、わかってる。死んでも無理しないから!!」
「い、いや、別に命懸けなくてもいいぞ……」
「う、うん……」

 斉藤さんとの会話もそこそこにバッターボックスに視線を移す。
 おお、やっぱり敬遠か……敵も馬鹿じゃないな……

 だけど……1m離れたくらいじゃ……甘すぎるぞ……

 春香が投球に跳びかかる。そのまま不安定な体勢でフルスイング。

カァァン!!!

「おお、いったいった。リクエスト通りとはさすがだねぇ」
 俺が高々と上がった打球を見ていると斉藤さんが話しかけてきた。
「ふ、藤木君は井上さんのこと……」
「ん?春香?春香がどうかしたか?」
「や、やっぱりなんでもない!!」
「??変な斉藤さんだな……今日はなんか変だぞ?」
「そ、そんなことないよ!! 絶対ないよ!!」

 やっぱ……変だよなぁ……。まぁいい、本人がそう言うなら……
「そ、そうか?ならいいけど……」

 春香がホームベースを踏んでベンチに戻ってくる。
「おう、お疲れさん。相変わらず無茶苦茶だな」
「いや〜、さすがに打つのしんどかった」
「ホームラン競争見てるみたいだったぞ」
「あたしと有香?まぁね〜」
 得点すでに9−0。勝利は確定だ。
「あ、あと適当に流していいよ〜。早くご飯にしよ」
「は〜い」
 5番打者がバットも持たずにバッターボックスに向かった。
 舐めきってるな……


 その後、春香がきっちり抑えて勝利を飾った。

―― 斉藤有香&井上春香 野球 第二回戦 VS 3−A戦 圧勝 ――



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