泣かせるつもりなかったんだけどな…… 斉藤さん……悪いことしちまったな。 全部一人で頑張るほどB組の勝利に貢献してくれてたのにな…… 4回表、得点は2−0。対戦相手は2−Fだ。 ヘルプに入った春香が斉藤さんに代わってピッチャーをやっている。 斉藤さんはライトに配置した。体力の回復に専念してもらいたい。 まぁ、春香が1塁踏ませるとは思わないけどな…… 「ストラーイク!! バッターアウト!! チェンジ!!」 ほらな…… 次の打順は下位打線、このままいけば余裕で勝てる。 この試合が終われば昼休みだ。 「春香。バレーのほうはどうなったんだ?」 「勝ったよ。何故か相手が棄権したの」 何故か……ね……。 たぶん殺人スパイクの一つでもお見舞いしたんだろう。 「バスケのほうはどうだった?」 「順調に勝ってたみたい。高槻君がゴリラ化してた」 「は?」 「『ゴール下は戦場だ!!』とか言ってたよ?」 「ああ……そのゴリラね……」 あれ?いつの間にか満塁……ってことは…… いつの間にか点数が4−0になっていた。 「次、有香の打順だよ。早いねぇ〜回るの。その次あたしじゃん」 「う、うん。じゃあ行ってくるね」 「斉藤さん、気楽に行けよ?」 「は、はは…はい!!」 斉藤さんはダッシュでバッターボックスに走っていった。 全然気楽じゃねぇ……本当に分かってんのか? 「そういや、なんで有香泣かしてたの?」 「いや、泣かせるつもりはなかったんだけどな……」 「女泣かせるなんてサイテ〜ですネ」 「ただ、自分の体力無視して一人で無理してたから怒っただけだ……」 「へぇ、あの有香がねぇ……」 「ピッチャーでは全部全力投球。バッターでは全球ホームラン狙い。 で、さっき敬遠されて歩くときには盗塁狙い。無理しすぎだっつうの」 「よほど宴会したいんだろうね」 「倒れちまって参加できなかったら、何の意味もねぇのにな……」 「あ、またホームラン狙いみたいよ?」 「やっぱ全然分かってねぇみたいだな……」 カァァン!! 「おお、当たりましたな〜」 「こりゃ、いったな……」 ボールの行方を見るまでもなくホームラン確定だ。 「んじゃ、次いってくる」 「じゃあ、ホームランよろしく」 「リクエスト承りました〜」 春香がバッターボックスに向かう。 入れ替わるように斉藤さんが戻ってくる。 「あのなぁ……俺の言ったこと分かってんのか?」 「あ、あれが最後。もう無理しないから」 「ったく。そんなに宴会したいのか?」 「えっ!? ち、違うよ!!」 「ん? 他になんかあんのか?」 「えっと、えっと……何にもないです……」 「??? まぁいいや。これが最後だからな。午後からは見れねぇけど無理してたら……」 「わ、わかってる。死んでも無理しないから!!」 「い、いや、別に命懸けなくてもいいぞ……」 「う、うん……」 斉藤さんとの会話もそこそこにバッターボックスに視線を移す。 おお、やっぱり敬遠か……敵も馬鹿じゃないな…… だけど……1m離れたくらいじゃ……甘すぎるぞ…… 春香が投球に跳びかかる。そのまま不安定な体勢でフルスイング。 カァァン!!! 「おお、いったいった。リクエスト通りとはさすがだねぇ」 俺が高々と上がった打球を見ていると斉藤さんが話しかけてきた。 「ふ、藤木君は井上さんのこと……」 「ん?春香?春香がどうかしたか?」 「や、やっぱりなんでもない!!」 「??変な斉藤さんだな……今日はなんか変だぞ?」 「そ、そんなことないよ!! 絶対ないよ!!」 やっぱ……変だよなぁ……。まぁいい、本人がそう言うなら…… 「そ、そうか?ならいいけど……」 春香がホームベースを踏んでベンチに戻ってくる。 「おう、お疲れさん。相変わらず無茶苦茶だな」 「いや〜、さすがに打つのしんどかった」 「ホームラン競争見てるみたいだったぞ」 「あたしと有香?まぁね〜」 得点すでに9−0。勝利は確定だ。 「あ、あと適当に流していいよ〜。早くご飯にしよ」 「は〜い」 5番打者がバットも持たずにバッターボックスに向かった。 舐めきってるな…… その後、春香がきっちり抑えて勝利を飾った。 ―― 斉藤有香&井上春香 野球 第二回戦 VS 3−A戦 圧勝 ―― |