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 智樹がキレた。大人しい奴ほどキレると怖いと言うが本当に怖いな……
 しかも脅しまでかけてきやがる。アイツもB組だから油断できない。
 伊達に情報屋は名乗ってない……か。

第28話 春香と智樹 <<雄二>>


「おい、起きてくれ」

ゆさゆさゆさ

「む〜」
 いつものように春香を起こす。リオラートから帰ってくるとこの作業が待っている。
 帰ってきたことを実感できるワンシーンだ。

「頼むから起きろよ」
「ん〜。起きてほしけりゃ、土下座して頼めボケ〜」
「……起きてんじゃねぇか」
「まだ眠い〜先に行ってて〜」
「先に行って学校遅刻しなかった例ねぇだろうが……」
「じゃあ、遅刻するから先に行け〜」
「春香さんや、そろそろ実力行使しますよ?」
「一昨日きやがれ〜バカゆ〜じ〜」
「…………」
 毎度の事ながら俺……よく耐えてるよな。なんか賞もらえそうだよ……。

「ホ〜……アタァ!!」
 ドスドス布団を突いた。
「う、うう、起きる、起きます」
 おっ、今日は意外に素直だな……
「じゃあ、着替えて早く来いよ」

 俺は1階に降り、香織さんの作ってくれた朝食をいただく。
 春香を起こす報酬として毎朝の朝食はここで食べている。
 自分の家で食べれないこともないのだが……なんていうか習慣?
 そんな感じで朝食だけは春香の家で食べている。

「準備できたぞ〜雄二」
「じゃあ行くぞ。今日はそれなりに余裕がある」
「うぃ〜」

 春香はいつも朝食を抜いている。不健康な奴め……
 というか春香の朝食を俺がいただいている感じだな。

「行ってくる〜」
「じゃあ、行ってきます」
 俺達は久々にのんびりと歩いて学校に向かった。

「そういや、来週は体育大会だな……」
「この暖かい季節にやらんでもえ〜やん」

 俺の高校は変だ。とにかく変だ。
 まず校長が変である。学校のことは校長の独断で決められている。
 おかしなところを説明しよう。

・1年次の面白そうな奴(問題児など)を(校長が独断で)一箇所に集める。(現2年B組)
・何故か体育祭が2回ある。(春に体育大会。秋に運動会)
・学校祭が一週間も続く。
・宿泊学習の行き先は校長のダーツで決まる。(去年の俺たちは隣の市だった)

 他にもたくさんあるのだが今思いつくのはこれくらいだ。
 これだけでも十分にありえない高校だと分かってもらえるだろう。
 いくら私立でもやりすぎだと思うが誰も何も言わないのでなんともならない。

「去年はクラス違ったから面白かったけど今年は一緒だもんなぁ……」
「全くつまらん。面白さの欠片もない」
「そう言うな、春香。去年は散々だったんだから」

 俺は春香と賭けをしていた。俺のクラスと春香のクラスどちらが順位が高いかで……
 体育大会はクラスごとのチームになる。全クラスの代表がそれぞれのスポーツで競う。
 結果は叱咤激励してクラスの士気を上げた春香のクラスの勝利だった。
 一方俺は何もしなかったんであっさりと負けた。
 この勝負の結果、俺は1週間食堂で飯を奢らされた。
 そのおかげで極貧生活を余儀なくされたのだ……

「おはよう、雄二、井上さん。今日は早いね」
「おう、情報屋。おはよ」
「智樹。おはようさん」

 情報屋って……せめて谷口君ぐらい言ってやれよ……

「今日は春香が結構素直に起きたんだ。おかげで余裕がある」
「へぇ、井上さんも朝弱いのに頑張ったね」
「!?……う、うん。まぁね」

 春香の奴驚いてやがる。智樹はめったに春香に話しかけようとしないからな……
 やっぱり智樹はリオラートに行ってから精神的にタフになったのかもしれないな。

「智樹にしては今日は遅いじゃん」
 智樹は遅刻とは縁が無いくらい早く学校に来ているらしい。
 らしい、と言うのは智樹に聞いた話だからで、俺自身確認はしていない。
「昨日いろいろ考えることがあってね……ほら、例のこと」
「ああ、あのことか……」
 あのこととは当然リオラートのことだ、《他言しない》っていう暗黙の了解があるんだよな……
「あのことって?」
 聞いてくる春香に俺達はお互いの顔を見やって言ってやった。

「「秘密」」

「……あんたら、ここ数日でいきなり仲良くなったわね……」
「まぁな。DRD作戦のことで結構話すようになったからな」
「うん、その件のおかげで遊ぶようになったんだ」
「情報屋、あんた変わったね。今まで雄二も避けてなかった?」

 なに!?そうなのか?春香って意外とよく見てるなぁ……。
 それに雄二"も"って言うことは自分が避けられてたのも分かってたのか……
 俺避けられてるなんて思ったこともなかったぞ……

「ま、まぁね。評価があてにならないことが分かったからね……」
「ふぅん。ま、雄二の友はあたしの友。これからよろしく谷口君」
「うん、よろしく。井上さん」

 "谷口君"か……春香の中で智樹の評価が上がったようだな……
 智樹も春香と仲良くやっていけそうだ。
 俺はうれしい気持ちでいっぱいだった。



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