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リオラトロワイアル 第7話 

 二日目が終わろうとしていた。
 現在時刻は23:42。あと20分足らずで今日が終わる……。

「ちくしょう。ユカちゃんがあんなに強いとは……」
 女の子だと思って甘く見ていたのが油断に繋がった。
 ジートは目を覚ますと同時にすぐにD5地区を離れ、D6地区に移動した。
「まずは武器を手に入れねぇとな……」
 この周辺の箱は開けられていないものが多く、それは誰も通らなかったことを示す。
「ちっ、食料かよ」
 袋に入っていたパンを取り出し、食べ始める。
(もう、油断はできねぇな。誰であろうと)
 この世界にいる人間が一筋縄ではいかないことをジートはようやく理解した……。






― 二日目終了です。これまでに死んだ人間を発表します ―
 頭に直接聞こえる神の声。0時だ。
― 壁雲、藤木千夏、藤木雄二、斉藤有香、吉原猛。以上です ―
「!!!?」
「アイツが……死んだ?」
 健吾は親友の名前を呼ばれるとは微塵も思ってなかった。
 そして、それは隣にいるコリンも同じだった。

― 次に禁止エリア、3時B6、6時E6、9時A6、12時C2。
  15時D5、18時F1、21時E4、24時A2。以上が禁止エリアです ―

 健吾達はそれでも混乱した頭で地図に時間を書き込んでいく。
「ねぇ、本当にアイツ死んじゃったの?」
「ああ、間違いねぇだろうな。最悪だ……」
 コリンは神の声に疑ったが、健吾は真実であることを確信していた。

「バカ野郎が!! お前が死んじまったら誰が井上を止めるんだよ!!!」
 健吾は苛立ちを隠そうともせず、近くにあった木を思いっきり殴った。
 井上春香を止めることができるとしたら、それは雄二だけだと信じていた。
「健吾……」
「もう、誰にも井上は止められねぇ……。なら、殺るしかねぇじゃねぇかよ!!」
「落ち着いて!! 誰かに見つかるわ!!」
 コリンは健吾の肩を強く揺さぶり、冷静になるように促す。
 健吾はぴたりと止まって、座り込んでしまった。
「悪ぃ……。ちょっと休憩しようぜ」
「ん……」
 現在の健吾達の位置はE1地区。

「なぁ、コリン。俺達はどうしたらいいんだ?」
「…………」
 コリンは答えることもなく、ただじっと黙っている。
「もう、殺りあうしかねぇのか? 参加するしかねぇのか?」
「それはダメよ。それは負けになるわ」
「負け?」

「声の主にも、このゲームにも、自分にも負けたことになるわ」
「…………」
 コリンの言葉を聞いて、今度は健吾が黙り込んでしまうことになった。
「たとえ誰が殺されても、誰かが殺しに来て、その誰かを逆に殺したとしても
このゲームに乗ることだけは……私達が絶対やってはならないことだわ」

「……そりゃそうだ。違いねぇ」
「参加しないって最初に決めたでしょ? その意志を貫きましょ」
「ああ」
 健吾はコリンがいたおかげで、なんとか冷静さを取り戻すことができた。






「雄二が……死んじゃった?」
 奈々は頭に響く声を信じることができなかった。
 奈々にとって雄二は唯一の無二の親友だけじゃなく正義の味方。ヒーローのような存在だった。
 弱き者を助け、守らずにはいられないような男の子だと彼女は思っていた。
 そして、それは概ね正しい。雄二はそういう男だった。

「なんでこんなことになっちゃったんだろう……」
 奈々はゲームが始まって以来篭っていた廃墟から初めて外に出た。
 もうすべてがどうでもよくなっていた。ふらふらと奈々は当てもなく歩きだした。
 



 その奈々を最初に見つけたのは目覚めて間もないジート・クリーク。
「あの女なら素手でも殺れそうだな……」
 近くにある箱を足で開け、中身を確認する。

「はっ、俺はとことんついてるみたいだな」
 箱の中身を見てジートは笑いを隠せなかった。
 なぜなら箱に入っていたのは一本の剣だったからだ。

「ちょっと細いな……。折れたりしねぇだろうな?」
 鞘を捨て、重さを確かめるように日本刀をぶんぶんと振り回す。
 ジートは日本刀を、というより刀すら見たことがなかったのである。

「…………」
 ジートの姿を確認しても奈々の表情は虚ろだった。
「コイツ……壊れちまってんのか?」
 奈々の目の前で手をひらひらと振るが、奈々は何の反応も示さない。
「誰か、大事な奴が死んだんだな……」
 気を失っていても声だけは頭に直接聞こえてくる。
 ジートは2日目終了の連絡もしっかり聞いていたのだ。

「俺が後を追わせてやるよ」
 ゆっくりと正眼に構え、痛みの無いように首筋に狙いを定める。
「コリンの為だ。悪く思うなよ……」
 ジートは目を瞑り、日本刀を思いっきり振り下ろした。


ガキィン


「無防備な女の子に斬りかかるものじゃないわよ?」
「…………」
「誰だ…てめぇ」
 ジートの見たことのない姿。
 ナイフを2本、片方で受け止め、もう片方をジートの首筋に当てる。

「酷いことするわね? ジート」
「俺を知ってる……。お前、風華だな?」
「正解♪」
 褒美を与えるように風華は距離をとった。

「雄二が死んじゃったから、もう……殺せない人はいないわ」
 雄二がこのゲームからリタイアすることは、多くの者に影響を与えた。
 風華もその一人。春香同様、攻撃対象に制限がなくなったのだ。
「主が死ぬのを待ってたのか? お前も相当酷い奴だな」
「あの子が死ぬことは分かってたわ。あの子は人を殺せないからね」
 殺せない人間がこのゲームで優勝する確立は限りなく低い。

「たとえ私があの子を優勝に導いても、あの子は微塵も喜ばないでしょうね……」
 それはジートには分からないことだった。雄二が旅人だと信じ込んでいるジートには……。
「そんなことはどうでもいい。闘るのか?」
「当然♪ ここまで徹底した親バカにはお仕置きしなきゃね♪」
「やってみな!!」

 ジートが日本刀で襲い掛かるが風華は既にその場にはいない。
「!?」
「これでも疾風の風華って有名なのよ?」
 風華の立っていた場所はジートの背後、背中に刃を当てていた。
「能力は使えないはずだろ……」
「能力? 私はちゃんと自分の力で動いてるわ」
 ジートには能力に見えただけで、風華は特殊な歩法で動いただけだ。
 
「ただ、貴方が遅すぎるだけよ……」
 風華は容赦なくジートの頚動脈を切断した。
 真っ暗な森の中に、血飛沫が舞った。それすらも黒く、血とは思わせなかった。
「…………」
 しかし、奈々はそれを浴びても正気を取り戻すことはなかった。
「大丈夫?」
「…………」
 ふらふらと立ち上がり、奈々は再び歩き出した。
 その方向はB6エリア。時間は既に3時を回っていた。
「あ、そっちは危険エリアよ?」
「…………」
 奈々にはもう何も聞こえない。いつまでもいなくなった雄二を探すだろう。
「いいわ、後を追いなさい。貴女はもうこのゲームに耐えられないでしょ?」
 聞こえていないと分かっていても風華は奈々に話しかけた。
 
 そして、ある一歩を踏み出したとき、奈々の身体は音もなく霧となって消えていった。
「さようなら……。また…逢いましょう」
 風華はこの世界のことを漠然とだが理解していた。
 なぜなら、自分が宿主と共に実体化するなど実世界では既にありえないことだからだ。

ジート・クリーク 死亡  死因:斬殺         三日目03:34
溝口 奈々    死亡  死因:禁止エリアによる消滅 三日目03:46


メンバー表
No 名前
藤木 雄二
井上 春香
谷口 智樹
斉藤 有香
風華
高槻 健吾
吉沢 猛
結城 さやか
溝口 奈々
10 コリン・クリーク
11 田村 直人
12 壁雲
13 レナ・ヴァレンティーノ
14 エリス・クェーデリア
15 神無
16 藤木 千夏
17 美空
18 ジート・クリーク
19 March


残り7人



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