ゆっくりとだが、確実に人数は減っていく。 そして禁止エリアによる活動可能エリアの減少により、遭遇率も高まる。 そんな中でも運よく誰とも出会わないメンバーもいる。 「異常なし……か」 智樹はスコープから目を離し、安堵の溜息をつく。 既に禁止エリアになってしまったA1地区から隣のA2地区に退避していた。 A1、A3地区は既に禁止エリアとなっているため、 誰かが来るとしたらB2地区からと決まっているからだ。 「ここならしばらくは安全だ……だけど」 絶対に安全な場所なんて存在しない。そのことを智樹は理解している。 先ほどの爆発音から、危険な武器も存在することを知った。 「僕はきっとこの引き金を引くんだろうな……」 それがいつになるのか、どこになるのかは誰にも分からない。 ただ、この世界で誰かを殺す決意をしたとき、その引き金は引かれるだろう……。 雄二は全身に傷を負いながらも何とか生きていた。 時間にして約3時間ほど、意識を失っていた。 「まだ……死んでねぇのかよ」 「残念?」 「春……香」 聞きなれた声。それは昔から毎日のように、聞き飽きるほどに聞いた声だった。 ゆっくりと目を開けると、ぼんやりと視界に幼馴染の姿が写る。 「死にたいのか?」 「……さぁな」 春香は雄二にゆっくりと近づき眉間に雄二の持っていたニューナンブの銃口を突きつける。 「生きるか、死ぬか……選べ」 カチリと撃鉄を起こす。あとは引き金を軽く引くだけで雄二は死ぬ。 「生きる……って言ったら…お前はどうするんだ?」 「…………」 雄二の質問に春香は口を閉ざしたまま、答えなかった。 「やめて!!」 雄二と春香の姿を見つけ、有香が走って近づいてくる。 「動くな!!」 「……!!」 雄二の眉間に銃口を突きつけたまま、もう片方の手で有香を狙う。 有香は春香に言われたとおりにその場で止まってしまった。雄二が人質になっていたからだ。 「井上さん……やっぱり乗っちゃったんだね」 「まぁね。どうせ全員死ぬんだから、早く殺してあげた方が楽じゃない?」 このゲームは一人になるまで続く、逃げる術も例外もない。 それは誰もが分かっていることだが、誰もが認めようとしなかったことだ。 「春香……俺の目の前で殺すなよ? 殺したら……許せなくなる」 「心配するな。殺るならアンタが先だ」 「…………ならいい」 表情は冷たいが、雄二はその裏にある感情を分かってしまった。 悲しみながら人を殺している。他人にこんな思いをさせないために殺している。 そのことが雄二だけには伝わってきてしまったのである。 そして雄二は春香の思いをくんでやるのも悪くない、と思った。 「有香」 「なに?」 「春香を…怨むなよ? こいつには考えがあって…乗ってるんだ」 「そんなこと……できるわけないよ」 有香からしてみれば、雄二を殺そうとしている人間。 これから殺すであろう人間を怨まずにいられるわけがない。 「春香」 「?」 「無理すんなよ……やめたかったら、やめちまえ」 「ん……。じゃあね」 「……サンキュ」 パァン!! 雄二の礼と共に引き金は引かれ、雄二は笑顔のまま眉間を貫かれた。 「あ……ああぁ……。そんな…やっと……やっと逢えたのに……」 そして、絶望と悲しみから有香は泣きながら膝から崩れ落ちる。 パァンパァンパァン!! あくまで冷静にゆっくりと有香に狙いを定め3発撃つ。 「幸せ……でしょ? 雄二の後を…追えたんだから……」 このA6地区に生きる者は井上春香ただ一人となった。 「うああああぁああぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」 春香の耐えていた悲しみが一気に溢れ出す。 霧になっていく雄二に覆いかぶさり、春香は大声で泣き出した。 最も付き合いの長かった相棒とも呼べる存在を自分の手で殺すこと。 井上春香といえども、その悲しみを耐えきることはできなかったのだ。 (絶対に……絶対にギブアップはしない!! アンタの死を無駄にはしないから!!!) 姿の消えた相棒と流した涙に誓った…………。 藤木雄二 死亡 死因:射殺 二日目16:11 斉藤有香 死亡 死因:射殺 二日目16:12 「ったく、危ねぇもん仕掛けんじゃねぇよ」 食料調達のため、木を降りたヨッシーこと吉原猛はF3地区の林の中を歩いていた。 獣道に仕掛けられた地雷に気付き、あえて歩きにくい場所を選んでいた。 「また空箱かよ」 これで2つ目。周囲の箱はあらかた開けられているようだった。 空き箱を蹴飛ばし、森の中に転がす。 コテージを見つけたヨッシーはそこに食料がある、と思っていた。 もう十数m先にコテージは存在している。 「煙が出てるってことは誰かいるんだよな……」 そしてそれは恐らく地雷を仕掛けた人間でもあるはずだ。 コテージの窓から様子を見るが、誰かがいる気配はない。 「動かないで」 「…………」 背後から銃らしき物を突きつけられて思わず両手を挙げる。 「何が目的?」 「食料だよ。その声……ガキか?」 声質から年齢を予測する。恐らくは生徒よりも幼い。 「そんなことはどうでもいいでしょ」 「じゃあ名前は? 俺は吉原猛。ヨッシーって呼んでくれ」 「…………」 ヨッシーの背後に立つ人間。エリスは混乱していた。 (この男……何を考えているの?) 「エリスよ。エリス・クェーデリア」 「日本語上手いな……だが、留学生って訳でもなさそうだ」 なんとなく、直感でヨッシーはエリスが普通の存在ではないことを悟っていた。 「ゆっくりよ。ゆっくりとこっちを向きなさい」 「あいよ」 ヨッシーが振り向くと、そこにいるのはリボルバー式のマグナム銃を構えるエリス。 「物騒なもん持ってるな……親が泣くぞ?」 「黙りなさい」 「そういうのを持つのは……もうちょっと大きくなってからにしな!!」 ヨッシーは瞬時にリボルバー部分を掴む。 「くっ」 エリスは引き金を引こうとするがびくともしない。 「知ってるか? こういうのはここを掴むと撃てなくなるらしいぞ?」 そのまま銃口をひねり銃を奪い取る。 「さて、食料あるか?」 銃口をエリスに向け、ヨッシーとエリスの立場が逆転する。 「……撃ちなさいよ」 「質問に答えてねぇぞ。安心しろ撃つ気ねぇから」 そう言ってガンマンのように銃をくるん回し、ベルトにねじ込む。 「……中にあるわ」 「サンキュ」 ヨッシーは身を翻し、コテージの入口に歩き出した。 「…………詰めが甘かったわ、ね!!!」 「!!?」 エリスはスタンガンをヨッシーに押し付け、スイッチを入れた。 ビクンビクンとヨッシーの身体は痙攣し、どさりと前に崩れ落ちた。 ヨッシーの身体からは青白い電気がパリパリと漏れ出ている。 通常のスタンガンではありえないほどの電撃だった。 「もう、ここはダメね……移動しなきゃ」 霧に変わっていくヨッシーを見ることもなく、エリスはコテージに入っていった……。 吉原 猛 死亡 死因:感電死 二日目17:47
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