地図は縦に1から6、横にAからFの36地区に分かれている。 一地区は500m四方の正方形。合計3km四方の小さな世界だった。 「誰もいない……よね」 A5地区にいるMarchは周囲を見渡しながら箱を開ける。 Marchはスタート直後、統義を使えなくなってしまった。 「やった!! 食料……って、チキンラーメン?」 中に入っていたのは袋のインスタントラーメン。 お湯すら存在しないこの世界でこの食料はハズレに等しかった。 「まぁ、いっか。砕いて食べよ……」 バリ、バリ、バキ!! Marchはチキンラーメンを砕いてポリポリと食べ始めた。 「お腹に入れば一緒だよねぇ」 実にポジティブシンキングな人間であった。 「見つけた……」 「ん?」 Marchが振り向くと、そこにいたのはB組のマドンナ、結城さやかだった。 「やっと見つけたわMarch!!」 「さやかちゃんか……なに怒ってるの?」 さやかがボウガンを構えMarchを見据える。 「私は、私達をこの世界に連れてきたあなたを許さない!!」 「そっか……まぁそうだろうね」 Marchは食べるのを止めて立ち上がる。 「じゃあ殺しなよ。私の心臓は普通の人間より右にあるんだ」 そう言ってMarchは胸の中心を指差す。 「本当に撃つわよ?」 「うん、いいよ。さやかちゃん、最期にいいこと教えてあげるよ」 「?」 「この世界にいる私達は本当の私達じゃない。今の私達はただのコピーなんだ」 「どういう……ことよ?」 何を言われているのか、さやかにはさっぱり分からない。 しかし、相手の理解とは関係なくMarchは話を続ける。 「この世界にいる私達は本当に殺し合いのためだけに作られている だからさっさと死んでしまったほうがある意味では幸せなんですよ……」 「そんな……」 「死んだらどうなるか知ってる? 消えるんですよ。この世界から霧のように……」 この世界の真実をさやかに伝える。なぜMarchがそんなことをするのか……。 「だからさ、殺るしかないんですよ。この世界はそのための世界」 「じゃあ……当然あなたも……」 「ええ、私も偽者。コピーでしかありません」 衝撃の真実をいとも簡単に告げる。 「だから……私もあなたも早く死んだ方がいいんですよ」 ニューナンブ。日本の警察が使っているリボルバー銃をさやかに向ける。 「Marchさん!!」 「救ってあげるよ。この世界から……」 ドシュッ パァン!! 「ありがとう……さやかちゃん」 「ごめん…なさい……」 二人はほぼ同時に前のめりになって倒れた。 Marchの胸には矢が、さやかの左胸には銃弾の痕がしっかりと残っていた……。 「なるほどな……やっぱり殺しあうしかないってわけか……」 2人の姿が消えるのを確認したあと、木の陰から雄二が姿を現した。 「こうなったら自殺でもするか?」 誰に言ったわけでもない。雄二は自分自身に問いかけていた。 そう、雄二は始まってからすぐにMarchを発見し、後をつけていたのだ。 元の世界に戻る方法をMarchは知っていると雄二は予想していたのだが……。 「自殺がダメなら誰かに殺されるしかねぇじゃねぇか……」 雄二は遺された二つの武器が佇む場所で静かにこのゲームを嘆くのであった……。 March死亡 死因:射殺 一日目23:45 結城 さやか死亡 死因:射殺 一日目23:45 ― 一日目終了です。これまでに死んだ人間を発表します ― 次々と死んだ人間の名前が告げられていく。 「そっか……やっぱり殺る気の奴がいるわけね……」 エリスはF3地区にあるコテージで休みながらそれを聞く。 「頭に直接聞こえてくる……うざったいわね」 ― 次に禁止エリア、3時A3、6時D1、9時D4、12時E5。 15時A1、18時F6、21時B5、24時F2。以上が禁止エリアです ― 「ひとまず、動かなくて済みそうね……」 禁止エリアにチェックを入れながらエリスは安心して息を吐く。 「生き延びてみせるわよ……相手が誰であろうと……」 谷口智樹は誰にも見つからないようにA1地区、隅の隅へ逃げていた。 「やっぱり井上さんかな、殺る気になってるのは……」 A1地区へ至る道で食料と武器を集め、自分だけの居住区を作り上げていた。 端の方に来る物好きはいないだろうという彼らしい考えだった。 しかし、それも今日の15時までの話だ。 その時刻にここA1地区は禁止エリアになってしまうのだ。 「禁止エリア……首輪も無いというのにどうやって殺すんだろう……」 こうして智樹はさっきから自問自答を繰り返していた。 「痛くないなら禁止エリアで死んだ方が楽でいいな……」 既に彼の頭にはゲームに参加するという選択肢は無い。 参加した場合、間違いなく狩られる側になってしまうからだ。 「これを使うことがなければいいんだけど……」 ずいぶんと長い銃。スナイパーライフルだ。 智樹は組み立てにかなり困惑したが説明書を見ながら何とか組み立てた。 そして、時折スコープを覗いて周囲の様子を確認していた。 「既に5人……次に起きたとき何人の人間が死んでいるんだろう」 ライフルを抱きしめながら智樹は瞳を閉じ、眠りについた。 「なんなんだよ、田村と結城が死んだって……」 高槻健吾は密林を動き回り、運よく誰に会うことも無く武器と食料を集めていた。 現在の位置はD5。片手にベレッタを持ち、周囲に気を配りながら慎重に進む。 彼は武器や食料を集めるために動き回っているわけではない。 「雄二の奴どこ行きやがったんだ?」 そう、彼は有香と同じように雄二を探し回っているのである。 「ねぇ、そこの人」 健吾は背後に立つ、赤髪の女性を見るとベレッタを向ける。 「誰だ!? 動くなよ!? 手を上げろ!!」 「はい、これでいいの?」 はじめから武器も何も持っていない女は堂々と両手を上げた。 「私の名前はコリン。コリン・クリーク。貴方は?」 「…………」 しかし、健吾は見たこともない人間を信じるほど甘くできてはいなかった。 周囲に仲間がいないかを確認し、大木を背にする。 当然コリンには銃を向けたままで、だ。 「はじめに聞きたいんだけど……貴方、このゲームに乗ったの?」 「……乗ってたら、もうお前を殺してる」 「それもそうね。なら、それ降ろしてくれない?」 それでも健吾は銃を降ろさない。いつだまし討ちをくらうか分からない。 「私もこのゲームに参加する気はないわ。どうせなら一緒に行動しない?」 「よく……初対面の人間を信用できるな」 健吾にとってコリンの行動は信じられないほど無謀なものだった。 「そう? これでも貴方のこと信用できそうな人だと思ったんだけど?」 「そりゃ、ありがとよ」 すっかり毒気の抜けた健吾はコリンに向けていた銃を降ろした。 「なぁ、コリンだっけ? 藤木雄二を見なかったか?」 健吾はコリンに雄二の行方を知っているかどうか聞いてみた。 「ユージ? 貴方、あの男の知り合いなの!?」 「なんだ、お前も知り合いみたいだな……」 目の前のコリンに意外な共通点を見つけた健吾はほっとした。 しかし、一方で雄二は一体どこでこんな女と知り合ったのか、とも思っていた。 「OK、雄二の知り合いなら悪い奴はいねぇ。共同戦線といこうか」 「ありがと。しばらくの間、よろしくね」 こうして、健吾とコリンは共に行動することになった……。
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