ついに19人いたキャラクター達も3人となってしまった。 主の死により、ゲームに参加することを決めた風華。 コリンとの再会を描いてもらう為、優勝を狙う高槻健吾。 そしてこのゲームにおける悲しみをその身に引き受けようと決めた井上春香。 この日がこの世界にとっての最後の一日になるだろう……。 ― 三日目終了です。これまでに死んだ人間を発表します。 ― 「来たわね……」 身体を休めていた風華はこの声を待っていた。 自分が殺すべき人数の確認のために……。 ― ジート・クリーク、溝口奈々、エリス・クェーデリア コリン・クリーク、谷口智樹、神無。以上です ― 「あと2人ね?」 地図に記してあったメンバー表。死んだ人間に取り消し線を引く。 ― 次に禁止エリア、3時C4、6時B2、9時E3、12時B4。 15時D6、18時E1、21時A5、24時F5。以上が禁止エリアです ― 現在の風華の位置は3時の禁止エリアC4地区。 「閉じ込められる地域が多いわね……」 もし、閉じ込められてしまった場合、禁止エリアになるまでの持久戦だ。 一番広い場所は中心から東西に広がった横長の地域。 「集合場所はここになりそうね……」 地図のB3からD3までを人差し指でなぞっていく。 食料は何日も過ごすことはできないほどに全体量が減っているだろう。 持久戦をやるには誰もが食料難に悩まされる。 風華の武器はサバイバルナイフと短剣の二刀流。遠距離攻撃用の武器はない。 「あたしが優勝してもなぁ……なに書いてもらおうかしら」 それでも風華は移動をしながら優勝をしたときのことを考えていた。 「もう、そんなに減ったのか……」 コリンを犠牲にして、生き残ってしまった健吾は神の声を聞いて愕然とした。 人数は自分を含めてあと3人。最終決戦は近い。 「井上……かぁ。勝てっかなぁ……」 正直、健吾は春香に勝つ自信などこれっぽっちもなかった。 春香の戦闘力を雄二ほどではないにしろ、よく知っているからだ。 健吾の武器はベレッタ、マグナム銃、スタンガンの3つ。 「もう一人は風華……こりゃ向こうの世界の奴かな」 自分の知らない者は向こうの世界の人間だと思っていた。 まさか、自分の親友と魂を共有している者だとは思いもしないだろう。 「策を練らねぇと勝てそうもねぇな……」 E2地区に移動していた健吾は頭の中で何度もシミュレーションするのだった……。 春香がいた場所はB2地区、智樹達が戦っていた地域だ。 「……爆発の原因はこれか」 神無が遺したグレネードランチャーを春香は拾い上げた。 「コイツの持ち主が雄二を撃ったんだな……」 春香はずっと戦闘が行われたであろう場所を歩いていた。 そこの付近に殺すべき人間が必ず一人はいるからだ。 「誰に殺られたかは知らんが……ざまぁみろ」 もし、あの岩場に雄二が倒れていなかったら、春香が殺さなくてもよかったかもしれない。 それを考えると、原因を作ったのは間違いなく神無なのである。 春香の武器はハンドガン2丁、手榴弾4つ、リボルバー銃1丁、グレネードランチャー一丁。 スタート直後からいろんな場所を歩き回っていた春香はたくさんの武器を所持していた。 「健吾……アンタ1人で生き残ってしまったんだな」 もう一人の女、コリンがどのように死んでしまったかは知らない。 しかし、何かがあって健吾だけが生き残ってしまったことは分かる。 「やりづらい相手ではあるな……」 戦闘能力なら負けることはないだろうが……。 「よし……行ってみようかぁ!!」 自分を奮い立たせるように春香は走り出した。 そして出会う2人。場所はB3地区とC3地区の境目付近……。 「春香ちゃんか……」 「アンタが風華だね?」 自分、健吾以外の人間、それは風華しかいない。 「なんであたしを知っている」 「雄二が知ってるものならあたしは何でも知ってるわ」 お互い戦闘準備もしないまま、話し合う。 「ソウルウェポンって言うんだとよ……ソイツ」 西側から健吾が2人に合流する。 2人が会話をしているのを見て、自分が緊張しているのがバカバカしくなったからだ。 「あら? 健吾君、誰から聞いたの?」 「健吾。もう一人はどうした?」 「……分かってるくせに聞くなよ。逝っちまったよ」 この世界にいる人間全員が集合した。それは戦闘開始前の最後の会話。 「最初に言っておくが、俺は絶対に優勝する。お前らを殺してもな」 「健吾君、そんなに番外編の主人公になりたいの?」 風華が何のメリットもないご褒美を健吾が欲するのを不思議に思った。 「ああ、なりてぇ。最近出番が少ないからな」 健吾は本当の理由を隠し、適当な理由を言った。 「あたしも少ないぞ?」 「それでも俺より多いだろ? 譲れよ」 譲ってもらえるなら譲ってほしい、できるだけ春香とは戦いたくない健吾だった。 「譲るのはいいけど、殺されるのはねぇ」 「それなら禁止エリアがお勧めよ? 痛みもなさそうだしね〜」 奈々が消えるのを見ていた風華は春香にアドバイスをする。 風華もできるなら戦わずにこの戦いを終結させたいのである。 「パスだパス。ま、優勝なんかしなくてもいいんだけどな」 「同感。主人公になってもねぇ〜」 「じゃあ譲れよ!! 二人で禁止エリアに走れ!!」 「「 やだ 」」 風華も春香も優勝したいわけじゃないが、死にたくないだけなのだ。 「じゃあ……殺りあう?」 「…………」 「…………」 風華の一言で緩みきっていた空気を引き締める。 「ま、まぁ、ちょっと待てって」 「殺りあうしかないネ」 止めようとする健吾だったが、春香は好戦的だった。 「じゃ、十分後に戦闘開始ね。誰が勝っても恨みっこなし」 「OK」 二人はそう言ってそれぞれ違う方向に姿を隠してしまった。 「ああ〜〜!! やりゃあいいんだろ!! やりゃあ!!」 ヤケクソで風華と同じ方向。西に向かって歩き出した。 春香の持つグレネードランチャーを警戒し、遠くにいるようにしたのだ。 「アイツならこういうときなんて言うんだろうな……」 健吾は雄二の言いそうな事を想像する。 (「諦めて逃げちまった方が楽になれるぞ。春香と戦うなんて無謀もいいとこだ」ってところか?) 無謀は百も承知だ。それでも、何とか優勝を狙いたい。 「あんな化け物、最後に残すなよなぁ」 春香が残ってしまったことを不幸に思う健吾だった……。 「ま、最後が自殺じゃ雄二も有香も、うかばれんしな」 自分が殺していった者の為にも自殺は選択肢にない。 それに雄二にも誓った。絶対に諦めることなく全員を殺すことを……。 「なるようになるわさ」 そのセリフを最後に春香は息を極限までに殺し、気配を消した。 「三つ巴…実力的に劣る健吾君を狙うのが定石だけど、殺りにくいわねぇ」 風華は別にこの戦いを降りても良かった。 しかし彼女は自殺をするよりは戦って死ぬことを選んでいる。 自殺という行為そのものが風華にとってこの世で最も恥じるべき行為だからだ。 「雄二……あんたの中に早く戻りたいわ」 自分にとって今までで一番居心地の良い場所。 風華は一刻も早くその場所に戻りたかった。その為に……このゲームに乗った。 そして10分後……。最後の戦いが始まってしまったのだ。 10分経っても森は静かだった。 全員が気配を殺し、互いが互いを慎重に探す。 先に見つけ、先制攻撃を仕掛けたほうが圧倒的に有利だからだ。 「しゃあない、動かすか……」 グレネードランチャーに残った弾は一発。春香はそれを西に向けてぶっ放す。 ドォォォォォン!! 爆発のなか動き出した影を追い、すばやくハンドガンに持ち替え連射する。 パンパンパン!! 影は木を盾にしながら物凄いスピードで春香に迫る。 「健吾じゃないね。素早すぎる」 相手を風華だと認識した春香は手榴弾のピンを外し、放り投げた。 ドォゥン!! それすらも風華は予測していたように爆発が起こる前に避ける。 「強いじゃん。上等!!」 ハンドガンを両手に持ち、風華の接近に備える。 そんな2人を健吾は風華の後方50mくらいで見ていた。 「あんな奴らに勝てってか? 無茶言うなよ……」 自分の武器は春香に比べて貧弱といえる。戦闘能力でも2人には遠く及ばない。 すばやく左右に動く風華に狙いを定め、マグナムを撃つ。 ドゥン!! 「こいつぁ、あの女よくまともに撃てたな……」 マグナム銃の衝撃は健吾がようやくまともに撃てるほどのものだった。 その弾は当たり前のように外れ、風華は健吾を無視して春香に向かって走る。 「俺は眼中にねぇってか? 舐められたもんだ」 連射の利くハンドガンに持ち替え、風華に向かって撃ちつづける。 「ま、こうなるでしょうね」 自分がつっこめば双方から狙われるということは重々承知していた。 しかし、自分のスピードに絶対の自信を持つ風華は弾を悠々とかわし春香に近づく。 風華にできることは接近戦に持ち込み、一瞬で勝負をつけることのみ。 そのためには弾の雨を避け続け、目標まで接近しなければならない。 パァン!! キィン! 「危ない、危ない……」 自分の方に正確に飛んでくる弾を短剣で弾く。 「弾の軌道なんてねぇ……銃身見てれば読めるのよ!!」 春香の姿は既に見えている。見えてしまえば風華にとってこの程度のことは容易にできる。 「アンタやるねぇ!! 最高の勝負ができそ…っと!!」 風華の斬撃をかわし、バックステップで距離をとる。 「逃がさないわよぉ♪」 「うぇ、はやっ!?」 追いかける風華が春香を追い越し先回り。春香の背面から斬りかかる。 春香もそれに反応し、身をひねってそれをかわす。 「おいおい、バケモンどもが……」 健吾は銃を撃つのも忘れて2人の闘いに魅入っていた。 なんとか距離をとってもすぐに風華が距離を詰め、春香に攻撃の隙を与えない。 戦いは春香にとって不利な方向に進んでいた。 「……あ〜、うっとうしい!!」 「!!?」 春香は銃を腰にしまい、ナイフを持つ風華に殴りかかった。 「やっぱこっちの方が楽だねっ!!」 井上流格闘術による怒涛の連続攻撃を風華に浴びせかけていく。 風華は攻撃を封じられ、防御に回るしかなかった。 「やっぱり強いわねぇ……。でも、その攻撃は読めてるわ!!」 春香の攻撃に見覚えのあった風華は攻撃に強引に割り込んだ。 当然だ、彼女は春香の幼馴染と同じ物を見て生きているのだから……。 (コイツ……私の戦い方を知ってる!!) 春香はたった一回のやりとりでそれを理解していた。 (雄二の知っているものは知ってる……案外、本当かもね) それでも春香は考える余裕があった。 風華と春香の格闘能力は少々春香の方に分があるようだ。 現段階では……。 「んじゃ仕切りなおしっと♪」 「あ?」 風華はそう言って距離をとる。 「舐めてるのか?」 春香は素早く銃を取り出し銃口を風華に向ける。 「本気で行くってことよ……」 「……おい、高槻健吾。漁夫の利なんて狙ってんじゃねぇぞ!!」 健吾は自分に言い聞かせながら立ち上がる。 マガジンを取り出し、弾をこめる。 「行くぞ……」 パン、パンパン!! 「やってやろうじゃねぇか!!!」 銃を2人に撃ちながら激戦区に飛び込んだ。 「こんなときに健吾まで参戦か? 冗談じゃないね、ったく!!」 「あら、決着が早く着いていいじゃない」 風華が神速の踏み込みで春香の喉元を狙う。 「おわっ! はやっ!!」 キィン!! 紙一重で銃を構え、銃身でナイフを受け止める。 「見えてるの? やるじゃない」 「ふん、そこら辺の奴等と一緒にするな!!」 春香の蹴りが当たる前に風華は素早く身を退いた。 パァン!! 「俺のこと、忘れてんじゃねぇぞ……」 健吾は風華の肩を撃ち抜いた。 「……やってくれるわね」 肩をおさえながら風華は健吾を睨みつける。 「言っただろ? 俺はお前らを殺してでも優勝するってな」 「井上!! 雄二がこんなことして喜ぶと思ってんのか!?」 健吾は春香の弱点、雄二のことを話し春香の精神を揺らしにかかった。 「……アイツは分かってくれたぞ」 「「 !!? 」」 しかし、春香のセリフに揺るがされたのは健吾と風華。 「アイツは私が殺した……アイツは分かってくれた!!」 パン、パン、パン!! 「ちぃ!!」 両手に構えた銃で健吾と風華、両方を正確に狙う。 健吾はたまらず木の陰に隠れた。 「逃がすか!!」 春香は手榴弾を2つ放り投げ、健吾の退路を絶った。 ドドォォォン!! 「………マジ…かよ」 健吾は空中に飛ばされながら最後のセリフを吐いた。 (すまねぇコリン。どうやら…もう一度逢えそうもねぇ……) ドスッ 「う゛……」 「隙あり、よ。春香ちゃん♪」 「……雄二…スマン。あたし…負けちゃったよ……」 手榴弾を放り投げている隙に風華は春香に接近し、心臓を貫いていた。 「アンタ……何の…話書いてもら…う気?」 「さぁ? まだ決めてないわ」 「ふっ…まぁいいや……優勝祝いだ…受け取りな」 「!!!?」 ドォォォォン!! 爆音がとどろき、森に再び静寂が戻ってくる……。 「ったく……たまんないわね」 春香が最後の手榴弾のピンを外し、その場で爆発させた。 しかし、それに気付いた風華は全力で春香から離れていたのだ。 「やっぱり嫌なものね……雄二の親しい人を斬るなんて……」 既に姿も形もない春香を見ながら風華は続きを呟く。 爆発によって全身から出血していたが、それでも風華は何とか生きていた。 「でも……それ以上にあたしは怒ってる」 高槻 健吾 死亡 死因:爆死 四日目02:28 井上 春香 死亡 死因:自爆 四日目02:32 ― ゲーム終了 優勝者 風華 ― 「優勝おめでとうございます」 「めでたくないわよ。早く……雄二の中に戻して」 Marchの賛辞に風華は気だるそうに答える。 「えっと……それで希望の番外編なんですけど」 「ああ、そんなのもあったわね」 優勝するのが精一杯で風華はそんなこと忘れ去っていた。 「希望の話はありますか?」 「そうねぇ……じゃあ」 風華はMarchに自分が主人公になる番外編の希望を話した。 「では、このゲームは終わりです。ご苦労様でした……」 パラララララララ…… Marchは風華をマシンガンで打ち抜いた。 「……どっと疲れたなぁ。まさか、ここまで長くなるとはねぇ」 Marchはぐったりとソファーにもたれかかる。 「あ、忘れてた」 そして私はこの世界を封印した……。 風華 死亡 死因:射殺 死亡時間……不明 完 |