昔々……っつってもどれくらい昔かは聞くな。俺にもわからん。 とにかくけっこう昔におじいさんとおばあさんがいたらしいな……。 ったく、なんで俺がこんな役回りなんだろうなぁ……。 「なんであたしがおじいさんなんだ!!」 「うるせぇ!! 俺なんかおばあさんだぞ!!」 やけに口煩いおじいさん(井上春香)とおばあさん(高槻健吾)だ。 ま、無難なところじゃねぇの? 俺が語り手やるよりはさ……。 とにかく……おじいさんは山へ柴刈りへ、おばあさんは川へ洗濯へ行ったんだよ! 「逆ギレすんなよヨッシー。俺は洗濯なんかしたことねぇんだぞ!!」 「あたしゃ、柴刈りなんて行きたくないぞ……」 いいから行けよ。物語が進まねぇだろうが、あとの奴等が待ってんだよ。 お前等に時間割いてる暇はねぇんだよ。 「ちっ……行っても何もないではないか」 「俺なんか馬鹿でけぇ桃持って帰ってこなきゃなんねぇんだぞ?」 こら!! 未来を語るな!! 俺の役目を取るんじゃない!! ま、まぁ……先に言われちまったんだが川の上流から桃が流れてきたんだよ……。 っていうかよぉ……人間入ってる桃が浮くわけねぇじゃねぇか。 「おいおい……それを言ったら、これ終わっちまうぞ」 え〜っとぉ、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れてくる桃をおばあさんは拾いました。 拾えよ? 絶対に拾えよ? 拾わなかったらここで終わりだぞ? 「わかってるけどよぉ……川の真ん中流れてんだけど?」 飛び込んででも拾えよ。ここで拾わなかったら、お前……みんなに殺されるぞ? 「俺……泳げないんスけど」 大丈夫。語り手の俺が何とかしてやるから。 えっと、桃が何故かおばあさんに近づいてきました、っとこれで拾えるだろ? 「メチャクチャだな……よっと、でかすぎだろ?」 そして、おばあさんは桃を持って帰りました。持って帰れよ? 「わかってるって……よっと」 ふらついてるぞ? 大丈夫か高槻? まぁ、とにかくそんなことがあっておばあさんは桃を家に持って帰りました……。 「なぁ?」 ん? なんだよ? 「洗濯物はあのままでいいのか?」 ちっ、しかたねぇなぁ……。 洗濯物も自動的に家についてきました…って怖いだろうが!! 悪いけどもう一往復してくれよ。 「へいへい」 えっと桃を家に持って帰りました……するとそこにはおじいさんってオイ!! お前、頼むから柴刈り行っててくれよ!! 「やだ。めんどい」 「……お前、俺が川へ洗濯に行ったとき、いっしょに出たよな?」 「ああ、あのあとすぐ帰ってきた」 ……なんと、おじいさんは芝刈りをサボりました。ストーリーがメチャクチャです。 「じ、じゃあ、今まで何やってたんだよ……」 「ん〜? 寝てたよ?」 おじいさんはなんと惰眠をむさぼっていたようです。 まぁ、これはいつものことだから勘弁してやってほしい。 「と、とにかく桃を持って帰ってきた……切ろうぜ」 「ああ、真っ二つにな……」 ニヤリと笑ったおじいさんは包丁では足りない、と日本刀を握り締めました。 おじいさんは桃太郎を知っているのでしょうか? 「知ってるぞ? コイツを斬るんだろう?」 「中身が死んじまうぞ!! 誰が入ってるのか知ってんだろ!?」 「ちょうど良いではないか……。 これであたしがヒロインだ」 ふぅ、余計なことさせるなよ……。 おじいさんは桃をきれいに真っ二つに切りました。 当然……中身は無事です。 無事じゃないと物語が終わります。 「……おぎゃー」 「「 ………… 」」 突然出てきた若い少女に二人は呆れてしまいました。っていうか俺も呆れた。 「なにが、「おぎゃー」だ。恥ずかしくねぇのか? 桃太郎?」 「恥ずかしいに決まってるじゃないですか!!」 中から出てきた少女におばあさんは桃太郎(レナ・ヴァレンティーノ)と名づけました。 女に太郎って……どういうネーミングセンスだよ。 「しゃあねぇだろうが!! ストーリーなんだからよ!!」 「あたしゃ桃を切るだけか?」 そうだよ。桃太郎でおじいさんが何をする? 育てるだけだ。 しかも、育てることは終わってる。きび団子を作るのもおばあさんだろ? 桃を切るくらいしかやることねぇんだよ。お前さんにはな…… 「あとで絶対に出てやるからな」 あのなぁ……鬼ヶ島におじいさんがいたらおかしいだろうが!! おじいさんが何するっつうんだよ!? 「当然、鬼退治だ」 お前ん中の桃太郎はジジイが鬼を狩るのか? あぁ!? 「おい、レナさん。 さっさと旅立て。 すぐにきび団子作っから」 「え? あ…自分で作りますよ」 いそいそと桃太郎は台所に向かいました。って…ちょっと待てって!! 「はい?」 はい? じゃねぇよ。お前までストーリーを壊すな!! 「だって……食べるのはあの人達ですよ?」 「確かに、俺のきび団子じゃあなぁ……」 じゃあ、作ってくれ。もう、好きにしてくれや。 「はい!!」 え〜、こうして桃太郎はきび団子を3つ作りました。 「え? 20個くらい作っちゃいましたけど……」 訂正、20個のきび団子を作りました。って、どんだけ仲間作る気だ!? 「おいしくできましたよ?」 「そりゃあよかったな」 「おい!! あたしの出番を増やせ!! 桃切るだけなんて納得できるか!!」 まだまだ物語は始まったばかりなんだよ!! ったく、桃太郎誕生までメチャクチャ時間かかってんじゃねぇか!! おい!! 村人A・B!! 鬼A!! 出番だぞ!? 「うるせぇなぁ……こんな役やりたくねぇよ」 「ああ、俺もやりたくねぇなぁ……」 「そう? あたしやる気満々〜♪」 「うわぁ〜 村人が一人攫われた〜 鬼の仕業だ〜」 「わ〜 助けてくれ〜」 「ささ、行こう 行こう〜」 村人(ジート・クリーク)が一人、鬼(藤木 千夏)によって連れ去られてしまいました。 どっからどう見ても連れ去れる鬼ではありません。 それよりよぉ……その棒読みのセリフどうにかしろよ。 「出番がここだけだとな、やる気もでねぇよ」 「俺がこんな子供に攫われるわけねぇじゃねぇか」 それは言わない約束だ。そういうストーリーだろ? 「はやく行こうよ〜」 「ああ、はいはい」 鬼に攫われた村人…… もう一人の村人(田村 直人)は見ているだけです。 そうしないと許さねぇからな? 「わかってるって、邪魔はしねぇよ」 すんなりと攫われる村人は鬼に自らついていきました。 今思ったんだが……なんて桃太郎だ……。 「じゃ、私は旅立ちますね?」 「ああ、早く行ってくれ。こいつが暴れないうちにな」 「暴れるかっ!!」 「いってらっしゃ〜い」 村人に見守られ、桃太郎はやっと旅立ちました。 はぁ……本当に長かったな……。とっとと終わらせてやめてぇよ……。 |