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 アイドルの友達という貴重なポジをゲットしたのは良しとしよう。
 問題は俺自身にまったくそんな気がなかったことだ。
 いきなり飯に誘ってしまったがこれからどうしよう……。

番外編 偶像って奴は(下) <<ユージ>>


 4限目。この時間が終了すると俺はD組に向かうことになる。
 溝口を迎えに行くために……。
 約束した以上、一緒に昼飯を食べなければいけないのだが気が乗らない。
「友達かぁ……」
「何わけのわかんねぇこといきなり言い出してんだよ」
 健吾が後ろを振り向いて言ってきた。
「お前、D組の溝口って知ってる?」
「誰?」
「じゃあナナは知ってるか?」
「おお、知ってる知ってる。今日登校してきてんだよな」
 コイツも溝口を偶像化している。
「どうした。お前がナナの話をするなんて珍しいな」
「別に……噂で聞いたから話してみただけだ」
 これ以上健吾に話すのも躊躇われる。

「俺達、友達だよな?」
「なんだよいきなり……」
「なんでお前、俺の友達になったんだ?」
「雄二。お前熱でもあるんか?」
 溝口の前で偉そうなことを言ったが、俺も友達を分かっちゃいない。
「悪ぃ、忘れてくれ」
「ああ、そうするよ。気持ち悪いからな」
 健吾はそう言って前を向いた。

 なんで友達になっているのか。
 作るもんじゃなくできるもんだからこそ不思議に思う。
 いつの間にか……なんだよな。
 そう、いつの間にか友達になっていて一緒にいる。
 そのことに理由が必要なら答えよう。一緒にいたいからいる。これだ。

(理屈じゃねぇんだよな……)
 俺は溝口の話を聞いてやりたいと思った。
 だから話を聞いた。相談に乗った。
 そして、一緒に楽しくやりたいと思った。
 だから友達になった?
 いや、一緒に楽しくやりたいと思ったとき、すでに友達になっていたんだ……。

キーンコーンカーンコーン

「はい、今日の授業はここまで」
「起立」
「礼」
「「「ありがとうございました」」」

 礼を済ませると俺の足は自然とD組に向かっていた。
 そして固まりに向かって手拍子。全力で。

パァァン!!

「散れ」
 この一言。中心から溝口が現れ……なかった。
「溝口は?」
 適当な奴を捕まえて聞いた。
「誰ッスか?」
「ナナだよ。ナナ!!」
 こう呼ばないと誰も溝口を理解しちゃくれねぇのか!!
「ああ、ナナちゃんッスね。4限目の途中でマネージャーさんが来て早退したらしいッス」
 オイ、約束はどうなんだよ……。
「あ、そ」
 俺は気が抜けた状態で屋上にのぼった。


「幻の友達……か」
 鉄柵に寄りかかって空を見上げる。
「幻かどうか、試してみろよ」
「!?」
 誰もいないと思った屋上だが貯水タンクのところにヨッシーがいた。
「お前、本っ当にひねくれてんな」
「なんでだよ」
「井上が言ってたんだよ。お前はきついことがあったら屋上にのぼるってな」
 春香のヤロウ……コイツに密告せんでもいいだろうに。
「ま、おかげで先回りができたわけだ」
「何の用だよ」
「だから幻の友達? それが本当に幻かどうか試してみろっつってんだよ」
「どうやって!! 連絡先も知らねぇんだぞ!!」
「ほれ」
 封筒が手裏剣のように飛んでくる。
 それを片手で受け取ると、封を開き、便箋を取り出す。
「お前宛だ。溝口奈々からな」
 言われなくても分かった。



親友の藤木君へ

 ごめんなさい。急に仕事が入っちゃって行かなくちゃならないの。
 だけど、次のオフの時は一緒にお昼を食べようね。
 あと、これ私の携帯番号とメールアドレス。
 暇なときにメールしてくれると嬉しいな……。
 電話は留守電になってるときが多いと思うけどかけてくれれば
 仕事が終わったあとで私からかけなおすよ。
 じゃあ、藤木君。次に会うときを楽しみにしてるね!!

溝口奈々



「あの馬鹿……誰が親友だ」
 それでも中身は友達としての溝口だった。
 口語体を使って敬語を一切なくし、友達でいようとしているのが分かった。
 何回も書き直したのだろう。消しゴムで消した跡が無数に残っていた。
「幻だったか?」
 いいや、幻なんかじゃなかった。
 溝口奈々は確かに俺の友達で……親友だ。
「ヨッシー、これ読んだのか?」
「バァカ。お前宛のラブレターなんぞ読めるか」
「じゃあなんで分かったんだよ。結果……」
「屋上で見たときになぁ。お前らすでに友達だったからだよ。ったく何が幻だ」
 本当だな。何が幻なんだ。

「オイ、火」
「……はいはい」
 ヨッシーの煙草に火をつけてやる。
「アイツ……絶対日本を代表するアイドルになるぜ」
「そうなのか?」
 俺は芸能関係に詳しくないからよく分からなかった。
「サインもらっときゃよかったかな……」
「あんな名前書いた紙貰って何が嬉しいんだよ」
「馬鹿野郎。人に売りさばくに決まってんだろ。紙切れには興味ねぇんだよ」
 俺、なんでお前が教師なのか疑問に思えてくるよ……。

「もったいねぇ。ヨッシーが同級生だったらよかったのにな」
「俺もお前らの頃に戻りてぇよ」
 俺たちは昼食も食わずに屋上で話していた。





後日……俺は家でごろごろテレビを見ていた。
「おっ、溝口じゃん」
 テレビにでている溝口を見て心の中で応援する。

  「私にも好きな人くらいいますよぉ〜」
  「へぇ、どんな人?」
  「不器用で、怖そうだけど……とっても優しい人です!!」
  「「「おおお〜〜〜っ」」」

「へぇ、溝口に好きな奴ねぇ……」

― 今日のテレビ見たぞ。好きな人ができてよかったな ―
 送信っと……

ズキューン!!

「うおっ!!」
 春香のやつ俺の携帯、勝手にいじったな……
 メールの着信音が銃声に変わっていた。
 それにしても返信早いなぁ……

― 鈍感!!!!!! ―

「はぁ?」
 何の事だかさっぱり分からなかった……。 



あとがき
この話は本編に入れる予定だった話です。
79話と80話の間に入る予定でした……。
脱線してるかなって思ったので急遽番外編にした作品です。

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