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 俺の学校は本当に変わった学校だ。
 教師も生徒も、校長すら変わっている。
 だからいろんな生徒がいるわけで、中にはこんな奴も……

番外編 偶像って奴は(上) <<ユージ>>


「おい、藤木!! 聞いたか!?」
 登校するなり俺の方に駆け寄ってくる田村。
「何だよ、朝っぱらから。こっちは疲れてんだぞ」
 毎朝恒例の春香とのマラソンに体力が削られていた。
「……あたしは忙しい。また今度な」
 春香は何が忙しいのかとっとと自分の席に向かった。
 結局座る場所は俺の後なので進む方向は一緒だ。

「で、何だよ」
 俺は席に着くと田村に話の先を促した。
「今日、あのナナが来てるんだってよ」
「誰それ?」
 名前はどっかで聞いたことあるんだが……

「お、お前……本当にこの学校の生徒かよ」
「うるせぇな。誰だよナナって」
「貴方は、テレビを、見てますかぁ?」
 貴方は神を信じますか?口調で聞いてきた。
「見てるぞ。たまに」
 俺はテレビをあまり見ない派だ。
 テレビはついているが、たいていその時はゲームのスイッチも入っている。

「どうせゲームでしょ、雄二の場合……」
 その点、春香はよく分かっているようだ。
 まぁ、こいつも人のことは言えんが……。
「黙らっしゃい。チミは寝てなさい」
「口挟まれたくないなら他で話すヨロシ」
 もういい。嫌がらせにこの場で話す。

「で、そのナナがどうかしたか?」
「今日、登校してきてるんだよね」
 智樹が会話に参加してきた。
「だからよ。一緒に見にいかねぇか?」
「ちょっと待て。だからナナって誰なんだよ。そこから説明を求む」
 見に行くとか登校してるとかさっぱりだ。

「芸能人だよ湊市出身の。テレビに出てるし、この学校じゃ有名な話だよ?」
「ああ、そういえば同級生にアイドルがいるとか言ってたな……」
「それがナナちゃん。な、サインとかもらいに行こうぜ」
 コイツもまた面倒な奴だなぁ……。
 あんな紙切れに名前書いてもらってなにが楽しいんだよ。
「智樹。ちょいと詳しくよろしく」
 智樹情報ならもうちょっと詳しく分かるだろ……

「了解。本名、溝口奈々<みぞぐち なな>。今までの登校回数、今日含め66回。血液型AB型。
中学時代にスカウトされて芸能界に入ってる。湊大付属には特待生として入学。クラスはD組。
スキャンダルは一切なし、清純派アイドルで通ってる。芸名はナナ。
校長が無理やり湊大付属に入れたっていう情報も……」
 智樹が手帳に載っている情報をすらすらと読んでいく。
 毎回思うんだが……

「なぁ智樹、どっからそんな情報仕入れてくるんだ?」
「企業秘密」
「谷口って案外怖いよな」
 本当に智樹の情報網には謎が多い。

「見に行こうぜ」
「うるせぇなぁ。そんなに行きたきゃ一人で行けよ」
 俺はそんなにまったく興味がない。
「一人で行くのもアレじゃねぇか」
 何だよアレって……

「智樹は行かねぇのか?」
「大勢に囲まれてると思うからね」
 まぁそうだろうな。
「そう考えるとちょっと可哀想だよな。その子も」
「アイドルなんだから仕方ねぇだろ。有名税だよ有名税」
 有名税ねぇ……
 田村の言葉に同意することはできなかった。

「今行くのはお勧めしないよ」
「何でだよ」
「ホームルームが始まるからね」
 その言葉と同時にヨッシーが教室にやってくる。
「じゃあ1限目が終わったら行こうぜ」
「ん、考えとく」
 その会話を最後に田村は自分の席に戻っていった。



「よし、行くぞ」
 1限目が終わるとすぐに田村がやってくる。
「なぁ、やっぱやめねぇか?」
 行く気は完全に失せていた。
「なんでだよ」
「行く気がしねぇ」
「お前のことなんぞ知るか。ほれ行くぞ」
 俺は田村に引きずられながら渋々あとをついていった。


 その場は完全に戦場となっていた。
 2年D組前の廊下は完全に封鎖状態になっていた。

「ナナちゃ〜ん!!」
「サインちょうだい!!」

 主に男が多い。購買並みの戦場だった
 やっぱ……これは…可哀想だよな。
「うへぇ……すげぇな」
 田村もその様子に驚いている。
「じゃ、俺もサインもらってくるから、おめぇはここで待ってろ」
 何でお前に命令されなあかんねん……
 群集の隙間からナナらしき女の子の顔が見える。

やっぱり困ってんじゃねぇか……
 
 こうなると黙っていられなくなる。
 俺はポケットにある例の物を取り出し、点火……投げる。

パパパパパパァン!!!
 
 騒がしかった場が一瞬で静かになる。
「何やってんだよ藤木!!」
 田村が俺に向かって怒鳴る。
「別に……」
 爆竹投げつけてやっただけだ。

「おい、2−Bの藤木だぞ」
「げっ、マジかよ」

 DRD作戦の効果はまったく意味を成していなかったようだ。
 俺の危険度ランクは以前のままAランクらしい。
 しかし、今回はそれでいい。
「……失せろ。……交通の邪魔なんだよ」
 その一言で一人また一人と野次馬が去っていく。
「お、おい、藤木」
「お前も消えろよ。いくら有名人でもやりすぎなんだよ」
「お前……なに怒ってんだよ」
「……別に」
 ただムカついただけだ。許せなかっただけだ。

「あ、俺、次の時間サボるわ。適当に言っといてくれ」
「お、おお」
 俺はそのまま屋上への階段をあがっていった。


 なぜムカついた?
 何であいつ等が許せなかった?
 自分のことのくせにまったく分からない。
 確かに可哀想だと思った。だけど怒るほどでもなかったはずだ。

「なぁ、風華。何でだと思う?」
『許せなかったから怒った。これって当然のことじゃない?』
「そりゃそうだけどさ」
 屋上に誰もいないことを確認し、周囲に気を配って風華と話している。

『放っておけなかったんでしょ?』
「ああ、あまりにも可哀想だったからな」
『あのじゃじゃ馬姫様のときと同じなんじゃない?』
「じゃじゃ馬の?」
『もっとも境遇は違うけどね』
「どういうことだよ?」
『雄二はさ、自由にしてやりたいって思ったんじゃない?』
 そうかもしれない。
『アイドルっていうのも大変よね。普通の学生にはなれないんだから……』
「それだ……」

(俺……あの子に普通の学校生活を送ってほしかったのかもしれない)

『でもね雄二。それって一歩間違えればおせっかい以外の何者でもないわよ?』
「分かってる。いや、分かってないからあんなことしちまったんだよな……」
『大丈夫。雄二は自分の意志に従っただけ。周りの意見なんて無視しなさい』
「お前って……正しいこと言ってんのかどうなのか分かんねぇよ」
『何が正しいのかなんて誰も判断できないわ』
 風華がたまにこういった格言めいたことを言うのが好きだった。
「そうだな……」
『雄二があのアイドルの学校生活を守ってあげる義務はないわ』
「そりゃそうだけどよ……」
『最後まで聞きなさい。でもね、やってあげたいならやってあげなさい』
 俺はやってやりたいのか?
 今まで見たことも聞いたこともないような奴にそこまでしてやりたいのか?

 俺は屋上でたっぷり悩むことにした。



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