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 コリンの帰郷で起きたご主人様騒動が終わり、地球に帰って数日が経った。
 地球に帰れば夏休みは始まったばかりで8月にもなっていない。
 残り一ヶ月の休みを如何にして使うか、それをこれから考え始めよう……。

番外編 俺達の海物語 前編 <<雄二>>

 それにしても暇だ。宿題を進めちゃいるがそこまで集中力は持続しない。
 もともと俺は勉強なんてしないに越したことはないと思ってる人間だ。
「暇だ……リゾランから帰って誰とも会ってねぇな」
 引きこもっていたわけではないのだが、不思議と誰とも会う機会はなかった。

「健吾も智樹も連絡すら寄越しゃしねぇ」
 連絡が来る可能性というより、俺にはその友達の人数自体が少なかった。
 何故かクラスの奴等との付き合いは浅くなってしまっているのだ。
 けっこうクラスじゃ仲良くしてる方だと思うんだけどなぁ……。
(なぁ、なんでだと思う?)
『う〜ん……なんとなくならわかるけど』
(言ってみろよ)
『世の中には知らない方が幸せでいられることがたくさんあるのよ』
「なんだそりゃ!?」

 魂の従者、ソウルウェポンである風華の物言いに思わず声を出してしまった。
 風華は理由を知っているようだったが教える気はないらしい。
 でも、逆に考えればそれほど言いづらい理由なのだということだ。 
(気になるだろうが)
『じゃ、わかんない』
(もう遅ぇよ!!)
 最近は暇さえあれば風華に話し相手になってもらっている。
 それが如何に時間を持て余しているかを如実に示している。

『ねぇ、だったらこっちから連絡すればいいじゃない』
(う〜ん、だけどさぁ。リゾラン行ったばっかで連絡するのも悪ぃじゃん)
『あれから何日経ったと思ってんのよ! 変な気遣ってないで連絡しなさい!』
(いや、その……わかったよ)
 これのどこが従者なんだ? この態度はまるっきり姉貴か母親のそれだぞ……。
 有香が言っていたソウルウェポン絶対服従の掟は風華には通用しなかった。

「かけりゃいいんだろ、かけりゃ……」
『毎日のように話し相手になってる私の身にもなってよ』
(まるで俺と話すのが嫌みたいじゃねぇか)
 風華にまで煙たがられているのだと知って軽くショックだった。
『嫌じゃないわ。でも、人間の友達もいるんだから……』
(だからなんだよ? お前を相手にすんなっつうのか? ふざけんな)
 俺はソウルウェポンを従者だと本気で思ったことなんて一度もない。
『雄二……』
(二度とそんなこと言うなよ?)
『了解。気をつけるわ』


 あまり気が進まないが、とりあえず健吾に電話してみよう。
 携帯を手に取り、リダイヤルから健吾の番号を呼び出す。
 俺が電話をかける相手なんてリダイヤルにすべて入る程度の範囲だった。
「どうした雄二?」
「健吾。今日暇か?」
「う〜ん、悪ぃけど今日はバイト……って、そうだ! お前も来ねぇか!?」
 健吾は断ったと思ったら急にバイトに誘ってきた。
「いきなり行っても大丈夫なのか?」
「むしろ人が足りてねぇから歓迎されるっていうか、俺が歓迎する」
「人が足りないって……何のバイトなんだよ?」
 なんか嫌な予感がする。3Kのどれかに入ってるんじゃなかろうか?
 いくら暇でも安請け合いをすると碌なことにならない。
 自分がトラブルに巻き込まれやすい体質であることをよく知っているからだ。

「聞いて驚け。海の家だ」
「おぉ! 海の家か! 面白そうだなっ!!」
「お前……海の家舐めんなよ? けっこうキツイ仕事だぞ?」
 キツイってことはよく知っていたが、それ以上に面白そうだった。
「人が足りないってわかった時点で誘えよ。こっちは暇持て余してんだからよ」
「さすがにキツイ仕事に誘うのは抵抗あるだろ?」
「俺にそんな気遣いはいらねぇって」
 その程度のことで言ってくれねぇなんて水臭ぇじゃねぇか。
 最近は家でゴロゴロしてばっかだったし、鍛錬もしなくてはならない。
 海の家のバイトはちょうどいいトレーニングになるだろう。

「場所は? 知里ヶ浜(ちりがはま)でいいのか?」
 知里ヶ浜とは湊市で無数にある海水浴場の中でも最も大きい浜だ。
 湊市はその名の通り港がある海沿いの街だから海水浴には困らない。
 さらに山に囲まれた街でもあるので、まさに自然溢れる田舎町なのである。
「ああ、そろそろ出るから現地集合な」
「了解」
 やることが決まった。暑い中動き回るわけだからいい運動になりそうだ。
「あ、一つだけ」
「ん?」
「井上は連れてくるなよ」
「……あぁ、わかってる」
 トラブルコーディネーターである春香をわざわざ呼ぶわけにはいかない。
 健吾も何が起きるかがだいたい予想できてしまうのだろう。
「んじゃ、知里ヶ浜でな」
「おう」
 電話を切る。春香のことについては幼馴染として複雑な気分だった。

『案ずるより……ってね。連絡してよかったじゃない』
「だな」
 風華の言葉を聞いて先ほどまで自分がやっていたことを思い出す。
 変に気を遣っていたのは俺も同じだということに気付いたのだ。
(人のことは言えねぇな)
 そんなことを考えながら、家を出る準備を進める俺だった……。



 すっきりとした青空にじりじりと身体を焼く太陽。まさに海水浴日和だった。
 そんな暑さの中、海に入ることも許されずにせっせと働くことになるのだ。
「キツイの意味が今になってわかってきたぞ」
「だから言ったろ? キツイんだよ、体力的にも精神的にも」
 海の家の仕事と言えば“料理を作る”“物を運ぶ”“会計”の3つくらいだ。
 そして、誰もがすべての仕事を担当するというイメージが強い。
「店長、森野の家は母親の親戚だから安心しろよ」
「身内か……民宿でもやってんのか?」
「ああ、田村の親戚がやってる湊宿とは商売敵だよ」
 田村の親戚が民宿をやっているのは体育大会の打ち上げで知っていた。
 夏場の民宿は書き入れ時だ。毎年、海水浴客の争奪戦が繰り広げられている。
「で、海の家までやってらんねぇ、ってことでお鉢が回ってきたんだよ」
「回ってきたって……俺達だけでやるのか?」
「まさか。ちゃんと親戚のおばさんがいるって」
 そう言って、さっさと民宿<<知里浜>>に入っていく。
(ここが健吾の親戚がやってる民宿かぁ……)

「おじさ〜ん!! 高槻だけど〜、戦力つれてバイトに来たぞ〜!!」
 玄関先から大声で呼び出す。戦力ってのは俺のことなんだろうな。
 奥からドスドスと音をたててやってくる大男。これが健吾の親戚か……。
 たぶん店長というのもこの人のことだ。なんとなく雰囲気でわかる。
「お〜、来たか高槻の!」
「久しぶり。母さんに言われて渋々だけどな」
 健吾の口ぶりからすると、面識があるどころか結構親しいようだった。
 そういう雰囲気の方が紹介される俺としてもやりやすい。
「あ、コイツ、俺の友達で藤木雄二。実力は俺が保証するよ」
「見りゃあわかる。なんかスポーツでもやってるのか?」
 これは俺に聞いてるんだろうな。でも、俺はスポーツなんざやっちゃいない。
「格闘技をちょっとだけ」
 こう答えるのが無難だろう。我流の武術だなんて言えるわけがない。
 ましてや鍛錬よりも実戦で鍛えられたなどと言っては不採用になりかねない。
「仕事は体力勝負だからな。熱中症には気をつけろよ」
「ってことは俺、採用?」
「文句なしだ。しっかり働いてくれよ」
「ああ!! 任せとけ!!」
 こうして無事に採用された俺は健吾と共に海の家で働くことになった……。



 汗が滝のように流れ、体力をどんどん奪っていく。
 俺達と店長の奥さんである美智代さんと二人の娘である優子さん。
 四人で海の家を回すのには無理があると思うのは俺だけか?
「な……キツイだろ?」
「ああ、俺達だけがオールラウンダーだとは思わなかったよ」
 美智代さんは調理と会計専門。優子さんは接客に集中。
 その役割分担には俺も健吾もそういうものだと納得している。
 俺達は料理なんてできやしないし、接客には華が必要だ。

「ところで優子さんって何歳なんだ? 俺達と同じくらいに見えるんだが……」
「あん? 聞いたこともねぇな。なんだ、惚れたのか?」
「いや、そういうのじゃないんだけどよ」
「じゃあ何で年齢なんか気にすんだよ?」
「…………さん付けで呼ぶかどうかで迷ってんだよ」
 年下にさん付けってのもおかしいし、かといってちゃん付けもしづらい。
 俺は基本的に苗字か名前の呼び捨てだからこういう時は困るのだ。

「……そういや、俺も“おい”とか“なぁ”としか言ってないな」
「それはいくらなんでも失礼じゃないか? 親戚なんだろ?」
「親戚でも顔見知り程度。名前呼ぶほど仲良くねぇよ」
 まぁ、そういうものだろうな。俺も親戚全部知ってるわけじゃねぇし。
「よし、曹長。とりあえず話しかけて年齢聞いてこい」
「お前がやれよ!! 俺がやったら身内に話が浸透するだろうが!!」
「遠縁だろ? 結婚できるって」
「ふざけんな!! 年齢知りたいなら自分で聞け!!」
「アホか!! 初対面相手にいきなり年齢聞けるかっ!!」
 しかも女性に年齢聞くんだぞ!? 身内なら洒落で済むだろうが!!

「こら! そこの二人! サボってないで働きなさい!!」
「「…………やっべ! 忘れてたっ!!!」」
 当の優子さんに怒られて今が仕事中であることを思い出した。
 ずっと二人に仕事を任せて口論を繰り広げていた俺達はサボりそのもの。
「雄二!! 店がやべぇ! 接客手伝ってこい!」
「OK! お前は荷物全部運んどけよ!!」
 役割分担を一言交わして決めると、ダッシュで散開し仕事に向かう。
 ここらへんのコンビネーションはアイコンタクトで意思疎通が行える。
 乱闘になるとこの技能がかなり役に立つため自然に身につくのだ。
 これが俺と春香になるとアイコンタクトなしでも動きを悟ったりできる。 


「えっと、ちょっといい?」
「あ、はい……なんスか?」
 優子さんに話しかけられるが、俺はどう対応しようか迷ったままだった。
「藤木……雄二君だっけ? 雄二君って呼んでいい?」
「いいけど、俺はなんて呼べばいいスか?」
「優子でいいよ。健吾君と同い年なら年上だし」
 わかったのはいいが、いきなり名前で呼び捨てってのは抵抗あるなぁ……。
(ま、リオラートに行ってると思えばいいか……)

「で? なんか用?」
「売り子行ってきてくれない?」
「売り子っつうと……もしかして外出てアイスかなんか売ってくるアレか?」
「そそ」
 ここで俺が嫌だと言ったら健吾かこの子が行くことになるだろう。
 それはそれでこのバイトに誘ってくれた健吾に悪い。

「OK、OK。雇い主に逆らったりはしませんって」
「え……そんなつもりじゃ」
「冗談だ。クーラーボックスはどこだ?」
「あ、こっち。用意はできてるから歩き回って売ってきて」
 中身はジュースやアイス。まぁ、海の売り子としては定番だな。

「売り切るまで戻ってくるな、とか?」
「そこまで酷いことは言わないよ。8割売ったら戻ってきていいよ」
「げっ……マジで?」
 8割って、こういうのってそんなにサクサクと売れるものなのか?
 かなりの営業努力が必要になるんじゃないか?
 初心者にこのクエストは結構厳しいものだと思うんだが違うか?
「冗談よ、さっきのお返し。適当に回ってきてくれればいいよ」
「…………」
 いろいろと考えていたことが霧散する。その間に優子は立ち去っていく。
 残されたのはクーラーボックスと呆然と立ち尽くした俺。
 売り子に行くのはいいのだが、なんとなく釈然としないぞ……。
「売り子……行くか…………」
 このときの俺の背中はきっといい感じに煤けていたと思う。



 暑いという単語を禁句とし、海水浴客を片っ端から巡っていく。
 三十分ほど回ったところ、だいたいのコツみたいなものが見えてきた。
 しかしこの技能、いったいこの先役に立つときなんか来るのかなぁ……。

 まず第一に波打ち際で遊んでる奴はNG。なぜならお金を持っていない。
 そしてファミリーや中年層もあまり売れない。奴等は用意周到だ。
 まぁ、お子様がアイスを欲しがる可能性も考慮して念のため当たる。

 結論、俺達と同年代くらいの奴、大学生などの若者がメインターゲットだ。
 ノリで遊びに来ているメインターゲットは比較的財布の紐が緩い。
「これで勝利間違いなしだな」
 何に勝つのかはわからないが、己に克つとでも言っておこう。
 ぜんぜん中身の減っていないクーラーボックスを持ち帰るのだけは避けたい。
 そうなったときの優子の落胆の表情を想像するだけで嫌だった。

「アイスいりませんか?」
「…………」
 たいていこういう場合は無視されるのが当たり前だった。
 返事くらいしてくれてもいいと思うんだが、仕方ないとしか言いようがない。
 その場で溜息を吐きたくなるのをぐっと堪えて静かに立ち去る。
「なっかなか売れねぇもんだなぁ」
 今まで売れた数は片手で数えられる程度、まだまだ戻るわけにはいかない。

「HA〜HAHA。苦労してるようだネ。フジ〜キク〜ン」
「…………なんで外人風なんだよ、田村」
 この男は俺が何かをやっているのを見るたびに挑戦してくる変な奴だった。
 しかも、その挑戦の結果はたいてい俺の勝ちで終わっている。
 奴の勝ちと言えば、俺が対決を拒否したことによる不戦勝くらいだ。
「で? お前こんなとこで何してんだよ?」
 俺達……っていうか地元の人間は海水浴なら小さな穴場へ行くのが普通だ。
 外から来た連中でごった返す知里ヶ浜にわざわざ来る理由はない。
「ナンパ、と言いたいとこだけどな」
「なんだよ?」
「俺も……バイトだ」
 水平線の彼方を見つめて語る田村の顔には哀愁が漂っていた。
 確かに大勢が遊んでいる中で黙々と働くのは精神的にもキツイが……。

「井上に借りた金を返さなきゃなんねぇからな……」
「あぁ……アレか」
 夏休みの初めに行ったリゾートランドで田村は春香から金を借りたのだ。
 そのときの話で利息がトイチとなっていたことを思い出す。
 書面上ではちゃんと無利子になっているらしいが、それが本当かは知らない。
 春香のことだし、そういうことで金を儲けようとは思わないだろうけどな。

 どうやら田村はいまだにトイチだと信じ込んでいるようだった。
(借用書くらいちゃんと読めよなぁ)
 特に言うべきものでもないし、俺はこのまま黙っておくことにした。
 早く返すに越したことはない。春香に借りを作るのは命取りだ。
「それより、もっとフレンドリーに話しかけないと買ってくれねぇぞ?」
「フレンドリーって初対面の人間にか?」
「ちょっとそれ貸せ。お前とは出来が違うってとこを見せてやるぜ」
 まぁ、そうまで言うなら見せてもらおうではないか。
 もしうまくいくようなら、今後の参考にさせてもらおう。

 クーラーボックスを受け取った田村は周囲を見渡し、客を選び始める。
「狙い目とかあんのか?」
「まぁな。いいから見てろって」
 やがて、二人組の女性に目をつけ、田村は足早に近づいていった。
 それを声の聞こえるくらいの距離で静かに見守る俺。

「お姉さん達、アイスいらない? 安くしとくよ?」
「はぁ? なにコイツ?」
「新手のナンパなんじゃないの? キモーイ」
 話しかけた途端にかなり酷い罵倒を浴びせられる田村。
「いや、だから、アイス……」
「ナンパなら他当たんな、ボク」
無料(ただ)でなら貰ってあげてもいいよぉ」
 これは明らかに話しかける人選間違ってねぇか?
 あの人達、相当男の扱いに慣れた……結城と似たような感じがする。
 まぁ、もっとも結城はあんなに口汚く罵ったりはしないけどな。
「ほら、お姉さん達は忙しいんだから、とっとと失せな」
「しつこいとウザいよ〜?」


「黙って聞いてりゃ何様だこのブタ共……」 
「「は?」」
 田村の口調が急激に冷たくなったことに呆気にとられる二人。
「ブタが人間様と一緒に海入ってんじゃねぇよ!! 穢れんだろうが!!
おめぇらみたいなブタにはなぁ、ラーメン屋のスープの鍋がお似合いだ!!!」
「「…………」」
「いや、それじゃ逆にスープが穢れて迷惑だな……。
しかたねぇ、俺が絞めてやるからグラム1円で売られてこい!!」

「どんな営業方法だっ!!! 客を殺しにかかる売り子がいるかっ!!!」
 二人組に殴りかかりそうになった田村をドロップキックで蹴り飛ばした。
 危うく売り子が客を殴るという前代未聞の事件を起こすところだった。
「い、いや、悪ぃ。うちのバイトがとんでもねぇことを……」
 呆気にとられたままの二人組をそのままに俺は商売道具を持って逃げだした。
 田村もドロップキック一発程度なら速攻で回復する。
「てめぇら!! あんま調子こいてんじゃねぇぞ!! このビッチが!!!」
 物凄い剣幕で捨て台詞を残し、田村は俺の後に続いて逃走に成功した。



「アホか!! 全然ダメじゃねぇか!!」
「お前だってムカついただろ? あんなブタは死んだ方がマシだ」
「そりゃ酷ぇなぁとは思ったが、マジで実力行使に出るなよ……」
 いきなり初対面の人間にキモいやらウザいやら言うのはさすがに酷い。
 ましてやナンパなどではなく、ただの売り子を罵倒するのも間違ってる。
 俺の総合評価としては田村の言い分に軍配が上がる。

「ま、まぁ、あんな感じでやればいけると思うぜ?」
「とんでもねぇ失敗例見せといて、よくもまぁぬけぬけと……」
「あれは相手が悪かっただけだって」
 俺にはとてもそうは見えなかったけどな。あんなナンパっぽい方法……。
 
「それよりお前、自分の仕事はいいのか?」
 コイツもバイト中だとか言ってたような気がする。
「お、もうこんな時間か。じゃな藤木、お互い頑張ろうぜ」
(俺が働いてるのはお前の親戚の敵だけどな)
 黙っておいた方がいいと判断した俺は何も言わずに田村を見送った。

「さて、ここで思ったんだが……」
 一人になってから思い出した。あんだけバタバタしてて抜け落ちていた。
「中身は無事か?」
 中身とは言うまでもない。クーラーボックスの中身だ。
 留め具をはずし、恐る恐る蓋を開けて中身を確認してみる。
「…………ご臨終です」
 ヤバイ! 中身が、主にアイスが見事にご臨終なさっているっ!!
「金のためじゃないんだ……金のためのバイトじゃないんだ……」
 俺はそう強く自分に言い聞かせ、落ち込みながら海の家に戻ることにした。



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