よく考えたらさ……俺って今かなりやばくないか……? かなり時間狂ってる。リオラートで過ごした約6時間が俺の体内時計を狂わせている。 今日は全てプラス6時間で対応しなければ…… なんとか授業をこなしてただいまの時刻午後4時半でございます。 俺の中ではすでに夜の10時半。一日は終わろうとしています。 あと30分でいつもの睡眠時間が来ます。だが、俺は耐えなければならない。 と、いっても全然眠くないんだけどな…… 俺は何とか春香を振り切って裏山に逃げ込んだ。 きょろきょろと周囲を見渡し、誰もいないことを確認する。 他人に見られたら完璧に変人扱いだしな…… 「来い。『風華』」 なるべく小声で風華を呼び出した。 両手に短剣が現れそれを握る。 『ん?こっちでなんか用?』 (魔法とやらを使おうぜ) 『本気だったの?こっちでやったら下手したらばれるよ?』 (問題ねぇよ。周囲は確認済みだ) 何のために挙動不審にここまで来たんだと思ってんだよ。 『んじゃ、やってみよっか。やばくなるのあたしじゃないし』 (おまえ……どんどん間抜けになっていくな……) 『誰が間抜けよ!!』 (最初は『私の助けが必要か?』とか言ってたのに、今じゃ『あたし』とか言ってるし……) 『うっ……あれは初対面はかっこよくしておきたいじゃない』 (まぁ、いいけどな。俺こっちの風華のほうが好きだし) 『でしょ? じゃ、気を取り直して魔法の練習しましょうか』 (おう、ってどうやって使うん?) 『まぁまぁ、慌てなさんなって』 (了解、時間はまだまだあるしな) 『まず魔法を使う前に一つだけ言わせてもらうわ』 (んだよ、なんかあんのかよ) 儀式でもあんのか? 『あたしの持ち方が違う!! あたしは逆手で持ちなさい!!』 俺はナイフとフォークのように短剣を順手で持っていた。 (……どうでもいいだろ。そんなもん) 『ダメ!! これで戦うこともあるんだから使い方ぐらい覚えておいて!!』 (戦うことなんかあんのかよ?) 『あっちじゃモンスターも出るって言われたでしょ?素手で戦うの?』 俺の頭の中をグリズリーの爪が駆け巡る!! (『風華』を使わせてもらいます) 『うんうん、賢い判断だね』 俺は風華を逆手に持ち替えた。 『じゃ、まず癒しのほうからいくね』 (了解) 『復唱して。 <<風華の主が命ずる>>』 (風華の主が命ずる) 『ダメよ!! ちゃんと口にだして言って』 「わかったよ。<<風華の主が命ずる>>」 『<<風よ。我が身の傷を癒せ>>』 「<<風よ。我が身の傷を癒せ>>」 とたんに周囲の風が俺に集まってくる。体が風に包まれていくのが分かる。 『他人に使うときは癒したい人に剣を向けて<<彼の者の傷を癒せ>>って言ってね』 「おう。了解だ」 『じゃ次。攻撃の方ね、そこらへんの木に剣を向けて』 俺は適当な木に剣を構えた。 『<<風華の主が命ずる。風よ、矢となりて我が敵を討て>>』 「<<風華の主が命ずる。風よ、矢となりて我が敵を討て!!>>」 風を撃ちだす感覚が俺の手に残る。目標の木が風の弾丸によって撃ちぬかれる。 ズズズズズズッ ズズーン 木が衝撃を受けて倒れる。 「す、すげぇ……」 『地球じゃ使わないほうがいいわね。ありえないことだし、人も殺せちゃうしね』 風華は淡々と言う。 とんでもねぇ能力を身につけちまったッス……。 そのとき眩暈がして体が少しふらついた。 「お?なんか体がだりぃ……」 『あたしの能力を使うにはユージの精神力を使うからね』 (じゃあさ。癒したらダメなのか?) 『そんな都合よくいかないわ。癒すのは体の傷だけ、精神力までは癒せないよ』 (ま、そりゃそうか。よし、使い方は分かった) 『あたし自身の使い方はまた今度ね。だいぶ疲れたでしょ?」 (そうだな、また今度にしよう) 『じゃ、帰りましょ?早く逃げないとそこの木の事聞かれるわよ?』 「そりゃ、やべぇ。『風華』消えろ」 風華を消すと俺は早々にその場から退散した。 |