第1話
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やっぱり『お約束』としてさ
朝は幼馴染の女の子に優しく起こされる形で始めたいわけよ。
でもさ、逆ってどうよ…?

第1話 間違ったお約束<<雄二>>

 俺は今、真っ暗な空間にいる。
 どこにいるのかは分からないが自分がどうなっているのかは分かる。
 ずばり…………寝ている……。




― 私の助けが必要か? ―

いや、いらねぇ……

― そうか、助けが必要になったら呼んでくれ ―

いや、いらないし。呼ばないし……

― 助けが必要なら呼んでくれ。私の名前は…… ―

おいっ!! よく聞こえねぇよ





ガバッ

「なんやねん!! お前の名前はなんやねん!!」
 ちくしょう!! 夢につっこんでしまった…
 さて、今日もヤツを起こして学校にいくか……

 学校に行く準備を終えると、俺は家をでた。
「おお、今日もいい天気じゃねぇか」
 4月の後半にもなれば、もう冬の寒さは感じられない。
 俺はいつものように徒歩30秒の奴の家に向かった。


「お〜い」
 ゆさゆさゆさ…
「起きとくれ〜」
 ゆさゆさゆさ…
「う〜、あと5分〜」
「そのセリフ4回目で〜す。15分経過してま〜す」
 ゆさゆさゆさ…
「じゃあ、あと10分〜」
「…………」
(ヘイ!ここはキレてもいい場面だろ?)
「起きやがれ!!このアマ!!」

ボスッ!

「ぐっ!!」
布団がショックをある程度吸収していい感じだ。
ボディががら空きじゃ〜!!

ボスッ! ボスッ! ボスッ!!

 続けざまにボディーブローを打ち続ける。
「うっ! くっ、ぐっ」
 ヤツが苦痛の声を上げる。さて、仕上げだ。

「お〜っと! 井上選手グロッキーかぁ?」
「ワン! ツー! スリー! フォー!!」
 カウントが4までいったところでヤツはガバッと布団をはねのけて起きた。

「まだまだぁ!!」
 ヤツの上半身はファイティングポーズをとり臨戦態勢だ。

カンカンカン!!

 その瞬間俺の心の中でゴングがなった気がした。ミッションコンプリート!!
 俺はやりましたよ。これは人類にとってどうでもいい一歩だが、俺にとっては偉大なる一歩だ。

「起きたな。じゃ、早く着替えて学校行くぞ」
「りょ〜か〜い」
 こんな感じで一日は始まる。

 俺たちは走っている。全力疾走だ。まぁ原因はわかりきってると思うがヤツだ。
「なぁ、毎朝思うんだが……」
「ん〜」
 いつものことなのでマラソンしながら会話をこなすという
 高等アビリティを身につけてしまったぞ……

 自己紹介が遅れました。俺は藤木 雄二<<ふじき ゆうじ>>といいます。
 ジョブは高校2年生。現在アビリティはダッシュを装備中です。

 隣の併走する女は井上 春香<<いのうえ はるか>>いいます。
 同じく高校2年生。一応、俺の幼馴染という存在です。
 自慢のポニーテールすら武器にする恐ろしい女ということを追記しておきます。

「普通さぁ。逆じゃねぇ?」
「なにが〜?」
「いや、立場だよ。俺たちの立場。お前が俺を起こしに来るのが普通だろ?」
「そう?別に問題ないじゃん」
「お約束としては問題ありありなんだが……」
「常識は覆されるためにあるんだよ……」
「そんな遠い目をしても誤魔化されんぞ。せめて起きて待ってろ」
「うっさい、ボケー。無理なもんは無理なんじゃ〜」
「・・・・・・」

もう嫌や……


 あっという間に校門前……
(俺、陸上部にでも入部しよっかな……)
 校門前にも人の気配はない。遅刻間際などこんなもんだ。

キーン コーン カーン コーン

「やばい! 予鈴だ!! おい春香! スピード上げろ!!」
「所詮予鈴など予告にすぎん!! 行ける!!」
(逝けるの間違いじゃねぇの? 勝手に逝っちゃってください…)


 学校は土足OKのためそのまま爆走する。コーナーを曲がり、あと5m!!

スパァン!!

 春香が教室の扉を全力で開け放つ。気持ちのいい音だ。教室の人間は我々に注目している。
「セーフ!!」
「いや、春香。どうもアウトっぽい…」
 教卓で呆れた顔をしてる担任を見て春香に告げた。
「チッ」
(なんてヤツだ。教師に向かって舌打ちしやがった… 女のすることじゃねぇ…)
 俺も心の中で舌打ちしたけどさ……
「藤木、井上。またお前等か……とっとと席に着け」
「はい…」
「うぃ〜」
 俺たちはそそくさと着席した。

 ホームルームが終わったと同時に我が親友の高槻 健吾<<たかつき けんご>>が
 俺たちの席に向かってくる。
 俺と春香の席はクラスの陰謀により隣同士だ。
「よう、バカップル。おはようさん」

「「誰がカップルか!!」」
 俺たちは即座につっこんだ。
「違うんなら井上置いて雄二一人で来たらいいじゃないか。
なのにいっしょに登校してきてるじゃん」

 違うんだ。違うんですよ健吾君。これには深いわけがあるのですよ。
「春香を置いてくるとこいつは確実に学校をサボる。そういうヤツだ」
 一回置いていったら風邪とか言って休みやがった。帰ったとたんにソバットくらいましたよ…
 痛かったッス。めっちゃ痛かったッス…
「雄二… 苦労してんだな…」
「分かってくれたか… 俺の苦労を察してくれるのは健吾だけだ…」
 感動のシーンですたい。友情ですたい。
「ま、あたしを起こすのが雄二の存在意義みたいなもんだね」
(こ、こいつ… 当たり前のように言い切りやがった…)
「明日こそ絶対に起きてろよ。俺もう起こしにいくの嫌だかんな」
「ぺっ」

「…………」
「…………」
 喧嘩売ってますね。間違いなく売ってますね。俺も我慢ゲージは振り切ってます。
「ぶっ殺す!!」
「上等だぁ!!!」

ラウンド、ワン、ファイト!!

 その後、思いっきり暴れて俺たちは生徒指導の先生に折檻をくらった…



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