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 俺、井上、柊、谷口、そしてクェードの王女を名乗るエリスという少女。
 井上の部屋に珍妙なメンツが集まった。おそらくこんなことは二度とないと思う。
 まぁ、それよりまずは何故こんなことになったのかを説明せにゃならんだろう……。

第291話 託されたもの <<健吾>>

「頼まれたものって何なの?」
 谷口との通話を終えた柊にさっそく斉藤が問いかける。
 そういや雄二のやつ、柊にペンダントを渡していたな……。
 雄二と風華さんが入れ替わったときのことを思い出す。
「誰か井上さんの家まで案内してください」
 斉藤の質問に応えることなく、柊は話を進めていく。
「俺が一緒に行く」
 なぜ井上の家なのかは問うまい。とにかく谷口はそこにいるわけだ。
 多くを語らない柊の対応にもだんだん慣れてきているようだ。
「いえ、案内だけでいいです」
「あのなぁ、井上の家に行ったら間違いなく事情を説明することになるぜ?」
 口下手のお前にそれができるのかよ、と口には出さないが伝わっているはずだ。

「…………大丈夫。ばっちぐー」
「嘘つけっ!!」
 自信満々で親指を立てられたとしても、相手は柊だ。油断はできない。
 もし、仮に説明ができたとしても何らかのフォローが必要となるだろう。
「じゃあ、私は家で待機してるわ。何かあったら電話して」
「了解」
 そう言って結城はとっとと教室を出ていってしまう。
 方針が決まればこんなもんだ。皆も結城の行動を特に気にしたりはしない。
 

 そして、教室で解散したあと、俺と柊は井上の家にいるわけだ。
 井上の部屋に入ると、そこには谷口と金髪の少女が一緒にいて、今に至る。
「お珠が谷口に用とは珍しいねぇ」
 久々に会った井上は相変わらずのマイペースを保っているように見せていた。
 しかし、俺もそれなりに井上とは付き合いが長い。
 俺と柊が来た時点で井上が何かを察してしまったのがわかってしまう。
 本来なら、ここに一番に来るべきなのは俺達ではなくアイツなのだ。

「谷口君、これ……」
 柊は雄二に託されたペンダントを谷口に差し出した。
 しかし、谷口はそれを受け取ろうとはせずに、じっと見ているだけだ。
「……なんて言ってた?」
「好きにしろ、だって」
 その言葉を聞いたからか、谷口はようやくペンダントに手を伸ばした。
 俺にはそのペンダントがどんな意味を持っているのかわからない。
 でも、けっこう重要なアイテムなんだってことはその雰囲気から伝わってくる。
「どうしてこんなことに? 雄二からはみんなで帰ってくるって聞いてたけど?」
 さぁ、俺の出番だ。それにしてもこの質問には参っちまうよなぁ……。
 どんなつもりだったか知らないが、雄二の奴はとんでもない嘘を吐いてやがった。
 フォローすんのが俺だってわかってんのか?

「俺にもよくわからねぇから起こったことをそのまま言うぜ?」
 正確なことは言えないということを事前に言っておく。谷口は何も言うことなく頷いた。
 心の準備は既にできているらしい。谷口はすっかり話を聞く態勢に入っている。
 井上は聞く気もないのか、こちらを一度も見たりしなかった。
「雄二は能力を使いすぎたせいで風華さんと入れ替わっちまった」
 我ながらわかりやすい説明ができたと思う。
 理由や原因をすっ飛ばして結果だけを、起きたことをありのまま伝えた。
「…………」
 谷口は何も言わない。俺の言葉から何があったのかを読み取ろうとしているようだ。
「ま、ソウルウェポンってのは気軽に使えるもんじゃないってこったな」
 これは俺の能力から見た、ソウルウェポンによる能力全体の評価だ。
 そこまで知り尽くしたわけじゃないが、ただで使える能力ではないことくらいわかる。

「貴方……悲しくないの?」
 次の質問をしてきたのは、意外にも王女だった。
「今の貴方にはまるで悲しみが感じられないわ」
 悲しみが感じられない、か。そりゃそうだろう、今の俺はまったく悲しんじゃいない。
 戻ってこないとは考えられない。むしろ、戻ってくると確信しているほどだ。
 散々悲しんでおいて今更だが、俺は雄二という人間の性格を失念していた。
「アイツはあのままくたばるような奴じゃねぇってことを思い出したからな」
 藤木雄二という奴は身体が入れ替わった程度で諦めるような奴じゃない。
 無駄でも無理でも、可能性があれば最後の最後まで足掻く。
「アンタも知ってるんだろ? アイツは不可能を可能にするぜ?」
「それは……そうかもしれないけど」
 そう言うってことは王女にも何かしらの経験があるらしい。
 雄二よぉ、お前一国の姫君にいったいどんな無茶をやらかしたんだ?

「帰ってくるに決まってんじゃん」
 今まで話に参加していなかった井上が決まりきったことのように言い切った。
「なんで…そう思うんですか?」
「ん〜? お珠こそ占いでなんでわからないんだ?」
 そりゃそうだ。柊なら占いでそれを視ることくらいできるはずだ。
「…………」
 井上も意地が悪いな。お前は俺と一緒で占いなんか信じちゃいないだろう?


「私達の未来なんてもう視えない。巻き込まれた流れが大きすぎるから……」


 おいおい、巻き込まれてるもんからようやく脱出できたんじゃねぇのかよ?
「でも、雄二がこれを僕に渡すってことは、帰ってくるのは相当難しいんだろうね」
「そのペンダントって何なんだよ? 何か意味があるのか?」
 そこまで言われると気になる。雄二にとってどこまで大事なものなんだ?
「これ自体はそんなたいしたものじゃない。地球には存在しないけどね」
 俺は地球に存在するかしないかなんて話を聞きたいわけじゃねぇ。

「ただ僕から見れば、これは雄二とレナさんの絆……その証に見える」
 それはつまり、異世界との繋がりを持つ唯一の絆を繋ぐアイテムってことか?
「雄二がけっこう大事にしてたことは知ってるよね」
(知らねぇよ)
 見せてもらおうとしたけど見せてくれやしなかったからな。
 ただ、なるべく肌身離さず身につけていたことくらいは知っている。

「だからこれを僕に渡すはずがないんだ。すぐに帰ってこれるならね」
 雄二のことは風華さんに任せていたが、谷口の言葉を聞いて心配になってきた。
「心配するな。雄二は帰ってくる」
 なんだって井上はこんなにも自信満々で言うことができるんだよ?

「雄二はあたしとの約束を破ったことはない」
 絶対的な信頼。雄二と井上の間にはまさにそれが存在していた……。



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